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「5人で1つのベットは無理よ!」2

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 リコは呆けているみんなに向き直って「次はどなたが試しますか?」と声をかけた。

 皆黙っている。


「あ、いえ、お試しなのでお金はいりません。皆さんも、治したいところがあったら治しちゃいましょう」リコは事もなげに言う。


「ダメよっ!!」


 フエが叫んだ。


「おかしいわ、リコ、あなた、そんなのだめよ、こんなことをしてはいけないわ! 私達に料理を振る舞うのとは訳が違うのよ!? あなた、自分のやっていることがわかっているの!?」

 

フエの叫びに「わかってないかもしれません」リコはゆっくりまっすぐ正直に答えた。


「だから、深く考えて、ことの重大さに気づいてしまう前に、済ませてしまいましょう」


 にっこり笑って瓶とペンを差し出した。


 真っ先にヒナが名前を書いた。

 続いてマツリが。

 迷っていたフエが震える手で名前を書いた。

 タイコは目に涙を溜めて、首を振ってフエの渡すペンを取ろうとしない。

 リコは、箱からビンを取り出して蓋をあけ、両手に持って無造作にガブガブ飲んでみせた。

 ポワッポワッと光りながら、3本目に口をつけたところで「味つけまで考えてなかった。あんまり美味しくない」と鼻の頭にシワを寄せた。

 タイコは笑ってペンを受け取り、名前を書くと、涙を流して「ありがとう」と小さく言った。


 皆で一斉にポーションを煽る。

 皆に光の粒が集まり、ヒナとフエの顔の傷跡が消え、耳が再生した。

 マツリには尻尾が。

 タイコの頭には上を向いた立派な角と可愛らしい三角の耳が生え揃った。


「ハハ、やった。素敵」


 リコは小さくガッツポーズした。

 ヒナが巻毛からはみ出す耳に触れ「あー・・・」と声をあげて泣き出した。

 フエも涙を流してヒナを抱きしめ撫でさする。


 マツリは、くるり、くるり、と向きを変え、ついてくる尻尾を確認している。

 タイコも頭の角をさすっている。

 リコは「あぁ、そっか」と、大きな姿見を反対側の壁に設えた。

 皆が鏡の前に走り寄る。

 フエが装備を解き服を脱ぐ。

 姿見に映った自分の姿を見て「あぁっ」と声をあげて泣き始めた。


 マツリも、いつの間にか服を脱いでお尻を鏡に映して細長い尻尾の様子を確かめる。

 ヒナもタイコも服を脱いで鏡の前でいろんな格好をして全身を見ている。


 リュコスもそうだったけど、こちらの方々は、裸にあまり抵抗が無いのかしら? リコはその光景をぼんやり眺めていたが、真っ裸のままフエが近づき、リコの前で跪くと手を取り、自分の額に押し当て「本当にありがとう。リコ」と涙を流して感謝を述べた。


 リコは浴衣を出してフエにかけ、「どこか苦しいところは無いですか? 違和感や何かおかしなところは?」と目線を吸い込まれそうになる胸元から必死に外して問いかける。


「胸が苦しい」


 ヒナが言った。


「嬉し、すぎて、胸が、苦しい」


 ボトボトと大粒の涙をこぼしながら、ヒナが跪き手に取った短剣を掲げ足元に置くと、もう片方の手を取り額を押し付ける。


 わぁやめてやめて。とリコは立ち上がり、みんなにそれぞれ浴衣をかける。


「リコ、見て」


 フエは前をはだけさせ、浴衣を肩から外して背中を向ける。


「私達2人は元奴隷で、身体中にそれはそれは醜い傷や焼印があったの」


 ヒナも短剣をとって立ち上がりテーブルに置くと、浴衣に袖を通し腕を伸ばす。


「とても人前では裸になれないような」


 リコがヒュっと息を呑む。


「でももう何も無い! あの馬鹿げた刺青も! 肉を削られ毒を染み込ませた後も!」

「拷問の痕も、逃げられないように杭を打たれた痕も、焼き付けられた奴隷紋を削り取った痕も!」


 フエが足をなぞり裾をまくり上げ、下腹をさする。


 リコはそれを聞いて、ただホトホトと涙を流した。

 ドアが ドンドンドン! とノックされる。


「リコ様! リコ様! 何かありましたか! リコ様!」


 リコは慌ててドアを少しだけ開けて答えた。


「大丈夫。みんなから話を聞いていただけ、何も問題無い大丈夫」

「でも」


 リュコスは心配そうに顔をみる。リコはあわてて顔を擦って涙を拭うと、「大丈夫。もうすぐ戻るから、もうちょっとだけ待ってて? お願い」イビルちゃんがテシテシ! とリュコスを蹴る。


「・・・わかりました」


 リュコスは仕方なさそうに店に戻った。


「夕飯の時間になったら起こしますから、皆さんも少しお休みください。欠損再生は身体に負担がかかるようです。絶対少し寝ておいた方が良いです。トイレとお風呂は1人用なので順番に使って下さい」


 使い方は15階と同じです。そう言って、ベットの足元にそれぞれ脱いだ装備を入れる箱を置き、スリッパを並べ、アメニティとバスタオルの入った籠を置く。

 長椅子の前のローテーブルに、林檎を山盛りにした籠と、水の入ったガラスの水差しと人数分のグラスを置く。


「18時頃に夕飯にしますね」


 リコはそう言って、それよりも2時間前にアラームを合わせる。少し別のものも作り足そう。「それまでお店にいるので、必要なものがあったらカウンターの呼び鈴を鳴らしてください。あとハヤシ様が起きたら声をかけてください。みんなもちゃんと寝てくださいね?」そう言ってリコはインク瓶とペンを持って部屋を出た。



 たった今作ったばかりの処置室の反対側の壁に、同じような部屋を作る。

 ベットを銭湯の休憩所と同じ仕様にして8つ並べ、寝具と天蓋はつけなかった。

 その方が気兼ねなく使ってくれそうだ。

 ゴーレムを作り、魔法陣を描きながら魔眼をつけ、リボンをつけると、出入り口側の壁に待機場所を作って座らせた。


 廊下に出て、向かい側の壁に、15階と同じ仕様で休憩所だけ作り、トイレと洗面所だけ設えて同じようにゴーレムを設置した。

 混乱しないように、日除け暖簾の色をこちらは藍色に変えた。


 セーフルームに戻ると、水場を挟んで、木製のアウトドアテーブルを4台開いて置いた。

 椅子と一緒にたためるタイプで、邪魔になるなら傍に寄せられるようにした。

 店に入ってキッチンのゴーレム達とハグをする。

 お店で、ウロウロ動いていたミミックにもハグをして、受付用ゴーレムにもハグをして、トボトボと作業場に入る。

 毛皮にブラッシングして気を紛らわせていたリュコスが、椅子から立ち上がったので、リコは両手を伸ばす。

 リュコスはまたハイタッチかなと、自分も手を出して一歩近づくと、リコの手はするりとリュコスの背中にまわり、ゴーレム達にしたのと同じようにリュコスに抱きついた。


「事後報告になっちゃって本当にごめん。また面倒ごとに巻き込んでしまうかもしれない」


 リコはギュッとリュコスに抱きつく。

 リュコスは固まって、手はその行き場を無くし、突き出されたままだ。


「どうしても、みんなを治したかった。絶対、絶対に。どうしても」


 そう言ってリコがホトホトとこらえていた涙を流す。


「どうして人間はあんな酷い事をするの」


 掠れ、消え入りそうな声で、リコが聞く。


「どうせ異世界に飛ばされるなら、私も人間以外のモノになりたかったっ」


 声を殺して咽び泣く。


 リュコスはリコを抱きしめた。

 あぁ、この人は、また他の人間がした事で自分を責める。


「リコ様は助けたじゃないですか」


 リコは顔を擦り付けるように首を振る。


「何もできていない。誰も助けられていない」


 どうせまた他の人間が彼女達を傷つける。

 そう思うと、ヒュ、ヒ、とリコの呼吸が乱れる。


「リコ様?」

「私が、身体を戻したせいで、もっと、酷い目にあったらどうしようっ」


 ヒッ、ヒッ、と息苦しそうにリュコスにしがみつく。


 リュコスはお姫様抱っこでリコをベットまで運び寝かせると、ポーションをとりに店舗に行こうとするが、リコの手が離れない。


「いかないで、置いてかないで、ひとりにしないでっ」


 ヒューヒューと浅い呼吸でリコはすがるようにリュコスを引き戻す。

 リュコスは武器の装備を片手で外して床に置くと、ベットに一緒に横になりリコを抱きしめる。


「エルフは・・・長命です。彼女らが・・・拷問を受けたのは・・・随分と前のことでしょう・・・もう奴隷では無いのです。知恵をつけ、大人になりました・・・今後・・・酷い目に遭う事は・・・ありません」


 リコを安心させる様、ゆっくりと、間を開けて、それらしい理由をあげていく。


「獣人は・・・元々・・・その身体的特徴を・・・切り落とすのがこの世界の常です・・・リコ様が・・・気に病む事で・・・はありません・・・」


 リコの、苦しそうだった浅い呼吸はやがて寝息に変わり、手の力もやっと抜ける。

 リュコスは、身体を離して、その顔に張り付いた髪を丁寧に慎重に剥がしながす。

 そっとベットから降りて、タオルを濡らし、涙と鼻水でドロドロの顔を優しく拭く。

 ゆっくり静かにリコの靴を脱がし床に置く。

 足元に避けてあった布団をかけ、自分は中に入らずその上から横になり、ピーピーと鼻を鳴らして寝こけているリコを眺める。

 どうしたらこの世の悪意からこの人を守ることができるんだろう。と考えながら。

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