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「そう言えば、魔法はないけど」2

本日2回目の投稿です 2/2


「ナカツ、なんで1人であんなとこいたの?」


 ナカツは下唇を噛みなにも答えない。

 ナカツ? とリコが顔を覗き込む。


「俺、戻りたくない」


 ナカツはまた、それ以上黙ってなにも答えない。

 仕方ないな。と、リコはため息をついて言葉をつづける。


「やっぱりナカツがいる回収屋ギルドって、子供を1人でダンジョンに放り込むような悪いギルドなんだね」

「違う!」

「でもナカツも戻りたくないんでしょ? 死ぬかもしれないのに置き去りにされちゃったもんね?」

「違う!! 回収屋は仲間を置き去りになんか絶対にしない! 仲間を見捨てたりしない!」


 ナカツは目に涙を溜めて否定する。


「知ってる。ごめんね。わざと嫌な聞き方した。でも、ナカツがダンジョンで死にかけていたのを見たし、周りに大人がいなかったの、私もリュコスも知ってるよ」


 ナカツはリコとリュコスの顔を見ると、歯を食いしばり「俺が、俺が勝手に。1人で来たの」と声を絞り出すように答えた。


「1人で16階までこれる子供がいるなんて聞いたことがありません」


 リュコスが煽るように口をはさむ。


「違うっ本当に1人できた! 15階をこっそり抜け出してきたんだ!! 俺には【隠密】のスキルがあるからっ」


 【隠密隠蔽】と同じようなスキルだとしたら、子供なのになかなかすごい。

 感心するリコと、眉をひそめるリュコスをよそに、ナカツは渋々語り出した。


「いつものように仕事をしてただけなのに、中にいる間に急に冒険者ギルドの奴らが命令に来て、下り階段には見張りが立って、誰も15階から降りられなくなったんだ。そのうち下にいた奴らも戻されて、14階は[湖岸フィールド]だから、問題なく戻れる人達は上に戻ったのかも知れないけど、[自然フィールド]をクリアするには絶対に野営が必要だから、[廃坑フィールド]に長く潜ろうと準備してきた多くの冒険者達や、俺達回収屋も15階で足止めを食らっていて、みんなすごく困ってた。俺も先輩と15階にいたんだけど、20階を目指したアマル達がいつまで経っても合流してこないから、俺、俺」


 勝手に探しに出てきちゃったのか。


「10歳の子供に出し抜かれるなんてずいぶんボンクラだなその先輩」


 リュコスが眉をひそめてリコの顔を見る。

 え、口に出てた? と言う顔でリコが自分の口に手を添える。


「違うっ! パハン先輩はアマルの兄さんだから、俺がいるせいで、絶対、アマルを助けに行かないのを俺知ってるから、俺のせいでっ」


 あぁ、なるほど[自己犠牲]の方か。

 こんな小さな子供がやることじゃない。誰かその概念を植え込んだクソ野郎がいるな。

 リコが鼻の頭にシワを寄せると、リュコスがそれを見て目を細めた。


 とにかく、アマル? のことは一旦置いといて「15階に行けばその『パハン先輩』ってのがいるのね?」リコの問いに、ナカツは首を横に振り答える。


「俺がいなくなれば、パハン先輩はアマルを探しに行ける。パハン先輩は19階の移転魔法陣を使えるから1人になったら19階に移動しているかも知れない」


 いや、それはどうかな。

 きっともっと上の階でも下階に行く魔法陣は閉鎖されてるだろう。

 ここ16階にナカツを探しに来ている可能性が微レ存あるとして、ナカツがいつ入ったのか定かじゃないことを考慮しなくても、私達はあの20階で全滅した討伐隊以降、ナカツに会うまで一度も他の人に会っていない。


「ねえ、ナカツ、パハン先輩とアマルって人間?」

「・・・獣人だよ。山羊の獣人と人間のハーフ。でも、でも魂がある」

「え? なにがあるって?」


 そう聞き返しながら〈探索〉マップで16階をできるだけ広く〈人間〉を指定して見てみる。うん。私達以外いないな。あら? 違う階層は見られないらしいな。上も下もあるってわかってるのに。

 階が違うからか? ダンジョンだから? どうゆう仕様だろう? と〈探索〉画面をいじっていると、


「俺もっ俺もアマルも魂があるから人間だよ! ラヴァル神官長も言ってた! 俺らは亜人、人間だよって! そのモンスターとは違う!」


 そうナカツが言い放った瞬間、リュコスが昨日ガマ達を黙らせた魔法を使ったのがわかった。


「ヒッ!」


 ナカツは悲鳴をあげ尻尾を絡み付かせてリコにしがみつく。


 【鑑定解析】[〈威圧〉]


 大人げない。大人げないよリュコス。でも、ナカツがよろしくないことを言ったのはわかる。


 言ってる意味はわかんないし、リュコスの表情筋が死んでるのも相変わらずだけど、ナカツが神様関連のクソめんどくさいこと言い出してるのはわかる。

 その言葉には、確かに明らかな「侮蔑」が感じ取れたのだけど、それ今関係なくない?

 あれか? 八つ当たり? 仲良しのアマルちゃんを助けられない、自身が不甲斐ないことへの八つ当たりか何かか?

 ズンダガマを大量虐殺した昨日の私みたいな。


 リコはわかりやすく大きくため息をついた。


 そもそもなんでナカツはリュコスをそんな風に言うんだ?

 はっきり聞いておいた方が後々別の人間に会った時対応が楽かもな。

 でも、リュコスの目の前で言う事じゃないのかもしれない。

 一瞬迷ったけど、これはついでに釘も刺しておこう。と、リコはこのまま口を開いた。


「なんでリュコスのこと狼とか奴隷って呼ぶの?」


 ナカツは、震えながら首を傾げて見上げると、潤んだ瞳をリコに向けて聞き返す。


「あの狼はリコの奴隷じゃないの?」


 カワイイ。

 でもなんか言ってる字面が不穏だな。子供に言わす言葉じゃない。


「違うよ。リュコスは私の護衛。すごく頼りにしてる」


 リコはなるべくナカツにわかるよう簡潔に答えた。


「リコは、あの狼が怖くないの?」

「なんで怖いの?」

「狼なのに、ヒトの姿をしている」

「へぇ! それが怖い理由なんだ!」


 リコは感心した。

 ちゃんと理由があるんだ。面白い。聞いてみるもんだな。


「ヒトの姿に見えてるのになんで狼だって思うの?」

「ヒトの臭いがしない。狼の匂いがする。僕を食べようとするモンスターと同じ匂い」

「へぇそうゆう見分け方するんだね。え、待って、私は人間の匂いがするの?」


 リコは自分の体をクンクンとかぎ「なんか嫌だな」とまた匂いを嗅ぎ直す。


「リコからはなんの匂いもしない」

「え!? まさかの無臭!」


 願ったり叶ったり。

 変な匂いがするわけじゃなくてよかったと少し喜ぶ。


「リコは、本当はすごく強い魔法使いじゃないの?」


 すごく強い人の気配や匂いは感じない事がある。と説明されリコはまだ自分の匂いを嗅いでいる。


「あぁ、物理的な香りのことじゃないのね。レベル差とかそうゆうやつ? スキルとかも関係あるのかな?」

「リコはあのモンスターが怖くないの?」


 ナカツにもう一度聞かれてリコは少し考える。


「どうしよう全然怖くない。だからなんでナカツがリュコスを怖がるのか全然わかんない。私おかしいのかな?」

「やっぱりリコがあのモンスターより強いからだと思う」

「そうかなぁ。私『非戦闘員』なんだけどなぁ。私よりナカツの方が強いと思うよ?」

「そんな事ない」


 ナカツは沼で死にかけていたことを思いだす。


「あるよ。だってその証拠に、私も、ナカツのことがちょっと怖い」

「俺怖くないよ!」

「そうなんだよねぇナカツが良い子ってもう知ってるのに、でもやっぱり怖くなる。だってリュコスは私のこと助けてくれるし、すごく優しいし、私達の嫌がることなんて何一つされた事ないはずなのに、ナカツはリュコスを、狼って呼んだり、奴隷って言ったり、モンスターって言ったりするから、とても怖い気持ちになるの」


 そうしてリコは、一際真剣な面持ちでナカツを見る。


「私の事も、後でアマルには悪い人間がいたって言ったり、キモい魔法使いって、いつかそう呼んだりするのかなって」

「呼ばないよっ! だってリコは人間でしょ!」

「どうかな? わかんないよ。ナカツが強くて腕力では勝てないから、騙して太らせてから、そのカワイイ耳から食べようとしてる沼地の悪い魔女なのかもよ?」


 手をワキワキさせてイーと歯を見せる。


「そんな牙じゃ僕を食べられないよ!」


 ナカツはイヒヒと笑って自分の鋭い牙を見せながら無邪気に答える。


「そうなんだよねぇ。でもリュコスも私と同じ歯だよ。いつも私と同じご飯を食べてる。私の作ったご飯を美味しいって言ってくれるのはナカツと同じだよ」


 ナカツはパチパチと瞬きをすると「・・・そういえばそうだね」と、俯いて考え込んでから「リコは、リュコスが狼って言われるのが嫌なんだね?」としょんぼりと聞いた。


「そうかもね。あ、でもリュコスが狼でも嫌じゃないよ。私にはむしろご褒美だし」


 ナカツの耳をモフモフと触る。


「私はね、ナカツがリュコスのことを『リュコス』って名前で呼んでくれない事が悲しいんだと思う」


 そっと頭を撫で抱き寄せる。


「・・・わかった」


 ナカツは、街では自分が『ケモノ』や『シッポアリ』と、呼ばれている事を思い出していた。


「僕も、リコが『ナカツ』って呼んでくれるの、すごく嬉しい」

「ほんと? やったぜ! ナカツが嬉しいと私も嬉しい」


 リコはワシワシとナカツの頭をなでさする。


「私はね、一緒にいる人が嬉しい方が気持ちがいいんだよね」

「うん。俺もこれからはリュコスの事はリュコスって言う」

「そう? 私も悪口みたいに『人間』て呼ばれる事が無いってわかって良かったよ」


 ほ〜と胸を撫で下ろすポーズをすると、リコとナカツは笑い合った。


「明日の朝になったら、とりあえず15階を目指そう」


 私達は19階から上がってきたけど、その時からナカツ以外誰にも会わなかった。きっともうアマル達も19階の魔法陣を使って外に出ているのかもしれない。

 ナカツの話からすると、『パハン先輩』は責任感の強い頼れる先輩みたいだし、14階を安全に帰れるように、きっと15階でナカツを待ってるよ。

 

 リコは、そう笑顔で言って()()


「アマル達のことは『パハン先輩』とちゃんと相談して決めよう? 大事な仲間でしょ?」


 ナカツは「うん。わかった」と返事をして、リュコスに駆け寄ると、少しモジモジした後「俺、これからはリュコスのことをちゃんとリュコスって呼ぶよ」と、はにかみながら伝えた。


 リュコスは、名など呼ばなくていい。と思いながらも、口の両端をわずかに上げた。


「俺、もう少しズンダガマを狩ってくるね!」


 照れ隠しのようにそう言って〈結界〉を出て行こうとするナカツに、リコは出しっぱなしのマップをみながら「私ここで背負子作るから、もう見えない所に行かないでね」声をかける。

 ナカツは振り向いて両手を上げ「わかったー」と飛び跳ねながら駆けていった。



「素晴らしい魔法です。どうゆう術ですか?」


 リュコスの視線はナカツを追って、リコの方を向きもせず言う。

 不機嫌そうだな。と、リコは、昨晩の風呂場でのことを思い、さっきまでのやりとりをリュコスの目の前でした事を少し後悔した。


 誤解されても仕方ない。


「リュコスのあれって〈威圧〉って言うんでしょう? 私のは『懐柔』って言うの。魔法でもスキルでもないけど、黙らせるって目的は一緒だよ」


 淡々と答えるリコに、リュコスは「魔法でもスキルでも無いのですか。なるほど。人間らしい術ですね」と、そのまま前を向いて無表情で言い、ナカツの後を追った。


「そういえば、魔法は無いけど・・・」


 呪いはあった。

 人の呼名に名前以外の意味を込めて呼んではいけない。とかなんとか。


 リコは元いた世界のことを思い出していた。

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