「悲しくなるのです」1
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ポーションを作っていた鍋を洗い流し、朝ごはんのスープを温めてから、2人で小屋の中に持ってくると、昨日拾った子供がベットの上で身体を起こしボーとしていた。
リコはリュコスに、トイレと洗面台の使い方を教えてあげて。とお願いする。
リュコスは頷くと、まだ起ききっていない子供をぐいっと高い高いするように持ち上げた。
「!? 優しく! お願いします!?」
リコが慌てて付け足す。
テーブルに器を並べて、足が長めの椅子を作り、リュコスとリコの斜向かいに置く。
「終わりました」
声をかけられてリュコスを見ると、その横で子供は我が身を抑え、ガタガタ震え立っているのもやっとと言う感じだ。
「え? なに? (【鑑定解析】[状態:衰弱気味 恐怖])」
あぁ、まあ、昨日死にかけてるし? そうなのかも? と思ったリコは、子供の前に跪くとなるべく優しげに話しかける。
「私はリコです。沼地に拠点をつくり魔道具の研究をしている魔法使い? 魔女? です。あなたのお名前は?」
「・・・あなたは、人間?」
子供が聞く。
「種族は人間です」
リコが答える。
「僕を、その狼と一緒に食べるの?」
「なんで!?」
驚きで早々に仮面がはげる。
「? 僕が小さくて食べやすいから?」
「なんで疑問系!?」
どうゆう事? とリュコスの顔を見るがリュコスは黙っているので「名前を教えても?」リコの問いにリュコスは頷いた。
「彼はリュコス。私の護衛です。私も彼も、あなたを食べたりなんかしない。でも私はお腹が空いたから朝ご飯にじゃがいものスープを作ったの。それを一緒に食べたいのだけど、じゃがいもは嫌い? 食べられない?」
子供はフルフルと首を振る。
「じゃぁ一緒に食べよう」
リコが立ち上がり手を出すと、子供はその手を掴み椅子までひかれていく。
姿勢がいいのは尻尾があるせいだろうか? 2人が席についてもリュコスがその場から動かないので、不思議に思ったリコは聞く。
「何やってんの?」
リュコスは少し困った顔をした。
リコは、なんかまためんどくさいこと考えてそうだな。と思いつつ『座って?』とゼスチャーして着席させる。
「いただきます」
リコが食べ始めると、子供も恐る恐るスプーンに口をつけ、ほわぁ! と言う顔をして夢中で食べ始めた。
とろみのあるスープだ。アツアツじゃなくて正解だったと思い返す。
リュコスももそもそと食べている。
顔は暗い。
なんだよ、そんな顔して食うなよ。
言いたい事は色々あるけど、あとでまとめて言おう。リコは食事を優先させた。
「少年。おかわりあるよ」
空いた皿に手を伸ばし声をかける。
子供は目の前の皿を黙って差し出す。
リコは何も言わず受け取って、スープをいれて「はい」とテーブルに置く。
「あ、ありがとう」
そう言って子供が皿を寄せる。
「お、良い子〜」
リコが思わずそう言うと
「・・・ナカツ」
子供が顔を上げて言った。
「僕は、ナカツ です。回収屋見習いです」
「そっか、私はリコ。こっちはリュコス。改めてよろしくナカツ」
リコは笑顔で答えて席を立ち、作業台で林檎を剥き始めた。
残されたリュコスとナカツは、無言でスープを食べている。
林檎を持ってリコが帰ってくると、2人そろってホッとした顔をした。
なんだ、2人とも私に輪をかけたコミュ障か。
リコはそんな2人の様子を「フフ」と笑って、林檎をフォークで刺して食べた。
が、2人とも林檎に手をつけない。
「なに? お腹いっぱい?」
2個目の林檎にフォークを刺すと、あぁ、と思い出して、ナカツに向けていたフォークを手に取り林檎を刺して渡す。
「これはフォークっていうの。こう刺して食べる。スプーンがあるのにフォークはないよね。いつもどうやって林檎食べてるの?」
「丸ごとか、半分に割って食べる」
ナカツは林檎の刺さったフォークを受け取って答えた。
「まあ手で持って食べても良いけど、手がベトベトになるじゃん」
リコの言葉にナカツが不思議そうな顔をするも、林檎をかじるとほわっとした表情になった。美味しいらしい。よかった。
結局、最後まで林檎には手を出さなかったリュコスを、本当にめんどくさいヤツだな。とリコは思った。
さて、ナカツは昨日死にかけていた。
もう少し休んでいたほうがいい。とベットに寝かす。お腹も膨れてウトウトしてるナカツの頭を撫で、ついでに耳をモフり、眠っていいよ。と声をかける。目が覚めたら、誰もいなくても、トイレも椅子もベットもお風呂も好きに使っていいからね。
「私達は素材集めに外に出かけるけど、暗くなる前に絶対帰ってくるから安心して寝てな」
しばらくしたらまた起こしてあげるからね。と胸のあたりをトントンと叩く。
ナカツは少し微笑んで目を瞑ると、すぐにスウスウ寝息を立て始めた。
「子供の寝付き良いな。寝る〈魔法〉とかじゃないよね?」
リコがリュコスの顔を見る。
リュコスは「違う」と首を振った。
「・・・ちょっといい?」
見つめたそのまま、リュコスに外に出るように合図した。
「そうだ沼だった」
周りは薄暗く、湿っていて、きっと〈結界〉から出たら匂いもひどいんだろう。
嫌なものは排除してくれる〈結界〉いい仕事するなぁ。
リコはため息をつくと「なんで林檎食べなかったの?」さっきの疑問をはっきりさせたかった。
「・・・奴隷は人間と同じ皿の料理を食べません」
「私と2人の時は食べてもなんともなかったじゃん」
「・・・食べろと、命令されたからです」
「そう。そうゆうこと言うんだ」
リコは、わざわざ口に出さなくてもいいような悪い言葉が次々と思い浮かんでくるけど、ひとまず、今後自分が快適に生活するための建設的な折衷案として、多様性について考える。
「じゃぁ、『命令』次からは、言われなくても席につけ。言われなくても同じ皿から林檎も食ベろ。これでいいですか? 満足ですか?」
「・・・」
リュコスが何も言わないので、リコは歯を食いしばった。
「ご不快を与えてしまい申し訳ありません」
するとリュコスはそう言って、胸の前で腕をクロスさせ、額を地面につけうずくまった。
リコはグッと息を呑むと【収納】から鎖のつながった馬車を ドン! と出す。
「1人になりたい」と〈結界〉の外に出た。
〈探索〉のマップを開いて、ズンダガマを探すと〈身体強化〉をかけて、目に入った端から石のナイフとクナイを投擲して殺して進んでいく。
移転小屋からはどんどん離れていく。
「ハア、全然ドロップしないな」
息が切れる。
もう〈身体強化〉は使ってられないな。
この〈身体強化〉ってなんなのだろう。と考える。
魔法陣ってつまりは[世界を構成するプログラミング]の一つなのだろう。
それを見て描けるって、これ以上チートなことってある?
意思あるものが独自の選択ができるプログラムだと仮定すると、自分が自分以外の意思ある者のソースを書き換えるのは、システム全体のバランスを壊した際の不具合が怖いので、書き換えるのは生き物相手にはしない方が良いだろう。
バタフライエフェクトに怯え、よくわからん事で気に病むよりずっと気が楽だ。
その上で、自分で試してみる事にする。
とりあえず物理攻撃無効にしてみるか?
他者からの攻撃が自分にダメージを与えるATKによるHPの減少と言う現象である以上、接触した瞬間、ATKによるHPの減少が0になるようソースを書き換えるだけだ。
自分の反射神経頼みな上、恐ろしくエネルギーとしてのマナを消費するだろうが、DEFを上げ続けるよりはエコだってんだから驚きだ。
ただこれが魔法攻撃を無効化する。となるとちょっと難しい。
魔法攻撃の影響を受けないソースを書き込むと、マナまで吸収しなくなるし、自分も魔法が使えなくなってしまう。かもしれない。
防御に徹するのなら、一度発動させてしまえば、魔石を媒介に自動でマナを吸収し、自動で悪意ある者を排出し、瞬間的にだけ“全ての”攻撃を弾く〈結界〉で空間そのものごと防御するのが今のところ最も安全だろう。
意思がある者と言う発動条件がつくので、難なくマナの吸収は分けることができる。
【隠密隠蔽】との併用で、積極的に攻撃を受けることもなくせば、激しいエネルギー消費も無いかも知れない。
一見完璧な作戦ではあるが、その中に篭りっぱなしでは何も訓練にはならない。
おそらく、そもそもの基礎体力が脆弱過ぎて〈身体強化〉=実力以上に早く動く。事しかできていないためにエネルギー消費が半端ないのだ。
先ずは何より、基礎運動能力をなんとかしないといけない。のだろう?
うん。なるほど。なるほど。
戦闘で〈結界〉を使わず、その都度何とかできる仕様を考えるとすると、結界のような反応にするには、瞬間的な防御は認知外で機能する必要があるのだろう。
外部AI、ガイドや、なにか、マスコット的なナビゲーターやコンパニオンがいてくれるといいんだけど、レベルアップやドロップ品などの色々をアナウンスしてくれている声の人はどうかな? やってくれないかな? どうですかね?
・・・返答は無い。
うん。なるほど。なるほど。
あれこれ考えながら、魔法も使わず、飛びついてくるズンダガマに、片手で握ったなんちゃってフクロナガサを振り回す。
「皮が厚めのただでかいだけのカエルだな。ハァハァ、ガマだけなら、しんどいけど、一般人でもなんとか殺せるのな」
〈身体強化〉でマナの減りが早いのは、こうやって戦うことに「自分の身体」が向いてないからだな。とつくづく納得する。
とはいえ、森で襲ってきた角ラビットより動きは鈍いしよく見える。
角や牙や爪があるわけじゃないし、麻痺も毒もないし、対処するのに全く無理ってわけじゃない。
それなのになんでこいつらは自分の体より大きな人間に襲いかかってくるのだろう。
「あぁ、心を折る系のフィールドなんだっけ?」
ここに止まって10匹以上殺したが、魔石どころか皮も一枚もドロップしなかった。
元より足場はドロドロで、ブーツに染みて気持ち悪い。
なんだこのブーツやっぱり全然使えないな。
「ハァハァ、くっさいなぁ沼!」
だんだん自分を取り囲むガマの数が増えてきたように感じる。
〈探索〉のマップは、どうせ見ている暇がないと閉じてしまっていた。
いつの間にか、ザブザブと泥水をかいて歩いている。
気づけば脹脛まで水で浸かっているじゃぁないか。
沼の中に誘導されていた?
夥しい数のズンダガマが、獲物である自分を囲んで、耳の奥が割れるほどの大音量で鳴いている。
この〈音〉は、仲間を呼ぶ系のなにかだったのかな。
なるほど他のクリーチャーが出てこないわけだ。
さすがダンジョン。上手くできてる。
考え事をしながら挑んで良いわけなかった。
よくわからんままだと死ぬなこりゃ。
あぁ、ナカツはすごい。
まだ10才なのに、いったいどのぐらい頑張ってたのかな。
私はまだ30分も経ってないのにっクソしんどい!
「ゲコゲコゲコゲコウルセェんだよ!」
飛びかかってきた1匹を、身をかわし振り下ろしたフクロナガサで貫く。
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
「ヨッシャァ!!!」
思わず水の中に座り込む。
泥水から初討伐ドロップ品を拾い上げ〈浄化〉【収納】して、片膝をたてて立ちあがろうとすると、後ろからバチンっとガマが1匹体当たりしてきた。
「痛ってっ」
ヤバい。体勢が崩れる。
そう思った瞬間。
耳鳴りの中、一瞬無音になって、閃光の中に何かが見える。
体育館
夕焼け
中学生の制服
クラスメイトに囲まれてバスケットボールを投げつけらている自分
ヤダ、こんなのが走馬灯じゃないよね?
再び割れんばかりのガマの鳴き声が響いて沼地に・・・
あ、なるほど、こうやって浅瀬で溺死させるのか。
と、リコが気づいた瞬間、体育館の時とは違って、身体はそのまま倒れる事なく引き戻された。
「何をしているのですか?」
リュコスが真っ赤な目をしてリコの身体を片手で支えていた。
ガマの鳴き声が大きくて、なにを言っているのかよくわからない。
飛びかかる3匹のガマを、もう片方の手に持つナイフ(小)一振りで同時に打ち殺す。
「何やってるんですかって聞いてんですよ!」
ビリビリと空気が震える〈威圧〉でガマを黙らせ、リュコスが大声を上げる。
「・・・リュコスが頑にその立ち位置を変えないなら、これからリュコスに1回命令する毎に、ズンダガマの皮3枚採取するって決めた」
リコは体の力を抜いて身を預け、片腕にぶら下がったまま不貞腐れたようにそう答えた。
「リコ様は『非戦闘員』なのではなかったのですか?」
リコは、自分の身体に回る腕に手を押し当てて力を入れ脱れようとする。
「さっき3回命令したからあと8枚自力で採取するまで帰らないっ」
全力で押しているのにリュコスの腕は全く動かない。
「だからってこんな戦い方、リコ様は死にたいのですかっ!?」
リコは、勝手なことばかり言うリュコスにイラッとし
「私はぁっ ここの人間みたいにぃっ 平気な顔して聖霊を殺さないしっ 当たり前のようにリュコスに命令もしないっ!」
そう叫んで立ち上がり、両手を開く。
「次にまた土下座しゃがったらぁっっっ!!!」
【収納】から初日に作った無数の杭やクナイや岩や鉱物の塊が空中に飛び出す。
「今度ぁ皮30枚ドロップするまで帰らないからなっっ!!」
取り囲む数多のズンダガマの頭上から勢いをつけて一斉に落とす。
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
[ズンダガマの皮 ドロップしました]
・・・・・
ドロップした皮と一緒に、出した物ごと全て一瞬で〈浄化〉【収納】して「もう動けない」とリュコスに倒れかかった。
目線の先に馬車がみえる。
道の無い沼地をまさかここまでひいて来たのか? 無理だって言ってなかった?
馬4頭分かぁ。
「すげえな狼男」
リコはそう言い漏らすと〈浄化〉して馬車も【収納】する。




