第21話 秀才ハリーヘイゼル
エリーブラウン11才のお話。
エリーは今日も軌道車両に乗って幼年学科に向かっていた。幼年学科制服の左胸には剣技大会優勝章が光っている。
エリーは車両内で明らかに目立っている。士官幼年学科学生は、近所の下宿から徒歩通学か、学科敷地内の学科寮、又は馬車通学が普通である。まず、軌道車両に乗ることは殆どない。
朝の通勤通学時間帯は、ほぼ同じ人達が乗り込むので、毎日見かける幼年学科制服を着た美少女は、同車輌の人達には不思議な感じに見えていた。
軌道車両内は、この時間帯は2両編成だが身動き出来ない程、一杯になることは殆どない。そして、幼年学科校舎に近くなる程、車両の乗客は減っていく。最後はエリーを含めて5人程度になる。エリーの護衛が2名いるので、純粋な乗客は2名ほどとなる。
そうして、幼年学科前駅舎まで3分くらいになった頃、1人青年がエリーに近づいてくる。すかさずエリーの男性の護衛が間に入る。気の緩んでいたエリーがハットして言葉を発する。「何か、御用でしょうか?」
青年は慌てて胸ポケットからなにか取り出そうとするが、男性の護衛に右手を掴まれ、その場にねじ伏せられた。
「イタターーッ!」
青年は声を上げる。もう一人の女性の護衛は周囲を警戒している。
青年は声を振り絞って「誤解です!私は幼年学科の職員です!」
エリーが青年を覗き込み、軍服を着ていないので怪訝そうに見ている。
「身分証がポケットに入っているので確認して下さい、お願いします・・・・・・」
青年が弱々しい声で言った。
抑え込んでいる男性の護衛が、青年のポケットからカードを取り出し確認する。
「エリー様、確かに嘘ではない様です」
「どう致しますか?」
男性の護衛がエリーに伺う。
エリーは、ふーと息を吐いて言う。
「起こしてあげなさい」
男性の護衛は青年を起こし、手を離す。
青年はエリーを見て言う。
「エリー様、申し訳ありません、そうですよね。やっぱり護衛付いてますよね。不用意でした」
そう言って青年は頭を下げる。
エリーは青年を観察する。適度に刈り込まれた薄紫色の頭髪、眼鏡を掛けているが奥に見える綺麗な朱色の瞳、顔は鼻筋の通った端正な顔立ち、顔色は白くあまり健康的には見ないが、イケメンの部類の顔である。白い長袖シャツに黒いスラックス、足元は黒い革靴、体型は細身でスラットしている。身長は高いが学科長程はない、年齢は20代前半ぐらいだろうか。
エリーは警戒した顔で、「先程は、護衛が失礼致しました。御用件をお伺いしたいのですが」
すると青年がエリーの耳に口を寄せて小声で呟く。エリーが目を見開き驚愕した顔をする。
「貴方は、何者?」エリーが声を漏らす。
そして軌道車が幼年学科前駅舎に到着した。
青年は、「ハリーヘイゼルと申します、一般教養課程教官をしております。御用があれば教官室へお越し下さいませ」
エリーから離れると、軌道車両から降りて行った。エリーは未だ動けないでいる。
(どうして、なぜ? 転生者か? 私を知っている・・・・・・)
「エリー様、どうかされましたか」
女性の護衛が声を掛ける。
「ううん、ユーリさん大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」
そう言ってエリーは軌道車から降りた。
護衛のユーリが、「明日からは、馬車にした方が宜しいかと思いますが?」
「そうだね、護衛のみんなにも迷惑掛けるもんね。ユーリさんお願いします」
エリーは元気のない声で言った。
護衛のユーリはエリーの横に並び幼年学科の正門前まで一緒に歩いて行く。
「エリー様、今日はさっきから元気が有りませんよ?」
「大丈夫だよ、ユーリさん気を付けて帰ってね」
護衛のユーリはエリーの顔見て、「お迎えは馬車で参りますので、心配なさらないでください」優しく声をかけた。
「それでは、帰って参ります!」
ユーリは駅舎の方へ引き返して行った。
エリーが正門をくぐると、直ぐにジェーンが近寄って来た。
エリーの肩に手を回し、左手でエリーの髪を掻き回す。「エリー、おはよう!」
エリーの反応が悪いのに気付いて、「どうした、腹の調子でも悪いのか?」
「お前、暗いぞ、いつも笑っているのに、美少女が台無しだぞ」
ジェーンが戯けた様に言う。
エリージェーンを見上げる。
「ハリーヘイゼル教官を知っていますか?」
ジェーンが少し眉をあげ不機嫌そうになった。
「エリーなんだ! アイツか、知っているが、私はあまり好ましく思っていない」
「ハリーヘイゼルは連邦国家大学主席卒の秀才だが、内務局に配属されて本来なら超エリートだった。だが、今は教育部門局付きでこの幼年学科教官に飛ばされた。間抜けな奴だ」
ジェーンはエリーの顔を覗き込む。
「お前の落ち込んだ原因は、ハリーか、なにか言われたか?」
エリーは顔を逸らして、「いいえ、今日、一緒の軌道車両に乗り合わせてお見かけしたもので、気になっただけです」
ジェーンはかがみ込んで、エリーの顔を両手で挟んだ。
「嘘をつくな、お前が奴を知る訳がない、授業でも校内でも名前を知る事は無いはずだ」
エリーは観念した様な顔をして「はい、実は、軌道車両内で、私にハリー教官が不用意に近付いて、私の護衛とちょっと揉めたのです」
ジェーンはエリーの瞳を見つめる。
「些細な事でも、私に報告しろ、私はお前の専任指導教官なのだ、お前の問題は私の問題でもあるのだぞ、それに、お前の元気のない姿など見たくもない」
ジェーンはエリーの両頬を軽くペッシッと叩いた。
「今後、ちょっとした事でも私に報告しろ、良いな」
「はい、わかりました」
ジェーンの言葉でエリーは少し瞳を潤ませ微笑んだ。
「少し、いつものエリーに戻ったな」
「ジェーン教官、ありがとうございます」
(ジェーンさんほんと良い人だ、嘘は言ってないけど、全部は言えないよね)
ジェーンは立ち上がり、エリーの頭を撫でながら言う。
「直ぐに、学科長のところに行かねばならんのだ。エリーに話があるそうだ」
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