ミリアの現状
深夜0時を過ぎたころ。
わたしは何かで突かれるかのような感触に見舞われる。
「誰?」
幸せな夢うつつから起こされる吐き気を催す感覚。
それに耐えて目を開けてみる。
傘。それからミリア。
外の立て窓からミリアがわたしの身体に和傘を伸ばしていた。
ミリアが顔半分だけ出してじっとわたしを見つめていた。
だからわたしはミリアをじっと見つめ返す。
目と目が合う。
瞬間、わたしは毛布を頭から被った。
君がどんな気持ちでいようとわたしは知らない。
「起きてよ!」
ミリアが再度わたしの身体を突いてくる。
流石にうっとおしいと思ってきたわたしは眠り眼を擦りながら、今度こそミリアに問いかける。
「常識を学んで。こんな時間に尋ねてきたらどう思われるのかを」
「とにかく入れて!」
「どうぞ」
わたしとしては別にその辺で放置させても良いのだけど。
わたしはミリアの腕を掴み、自分の部屋に入り込ませる。
ミリアはわたしの部屋で埃を払い、和傘を壁に立てかけた。
すぐに戻ってきたせいで気まずいのか、ミリアは何も言わず俯いている。
お互い何も言葉を言わないせいか、深夜の虫の音だけが良く響く。
このままでいるより何かマシかなと、わたしはミリアに言う。
「お風呂入りなよ。沸かしてくるから」
森に出向いたせいかミリアの身体は少し汚れていた。
汚れていなくとも、わたし的には毎日必ず欲しいものだけど。
少しだけ残った男の部分が持つ幻想って奴である。
水汲みをしにわたしがドアノブに手を掛けた時であった。
「なんで何も聞いてこないのよ」
ミリアがそう口を開いたのは。
なんで何も聞かないのか。
そんなのは決まっている。
「分かっていたから」
なんでミリアが帰ってきたかなんて想像つく。
その原因も。
最初から分かっているのだから、わたしとしては一々理由を尋ねるものでもない。
「お風呂、入って来なよ」
それだけ言ってわたしは部屋から出ていこうとして。
「待って」
ミリアは立ち上がりわたしの腕を掴んできた。
見上げてくるミリアの瞳は何となく、どこか覚悟を決めたものになっていた。
「私もやる。……魔法は得意だから」
そういうことならとわたしはミリアに手伝ってもらう。
ミリアがお風呂に手を掲げるだけでお風呂が水でいっぱいになっていく。
後はわたしがカグツチでお湯にするだけ。
神の炎を使って沸かすお湯。何か効能がありそう。
女神殺しとか。
何か不穏な感じがするのは気のせいなのかな?
服を洗濯籠に入れたミリアが何故かわたしの手を引っ張ってくる。
妙に膨れっ面で。
「一緒に入りたいの?」
……ミリアからの返事はない。
つまりはそういうことかと察せるほど長くいないのだけど……。
一応これでも元々男なので一緒に入らない方がこの子のためかもしれないと、わたしが拒否をしようとした時であった。
「話したい」
ミリアが顔も合わさずに言ってくる。
わたしはミリアの言葉をゆっくりと咀嚼した後、もう片方の手でミリアの頭を撫でた。
* * *
「私、こんなにも人望が無かったなんて」
ミリアが悔しそうに歯噛みした。
わたしは「うん」とだけ返して、泡立ったミリアの頭にお湯をぶっかける。
ミリアが帰ってきた理由は大方想像通りであった。
「私、本当にひとりなのね」
それにもわたしは「うん」とだけ返してミリアの背中を洗う。
今のミリアに味方はいない。
出ていったところでダークエルフが付いてきて優しくしてくれるわけも無し。
エルフの里なんてもってのほか。
夜の暗闇、暗視を持っていないミリアが外に出ようものなら魔物に殺されるかもしれない。
森の外に行こうにも行く先が分からなくて不安になる。
だから帰ってくる。帰らざる負えない。
家出する子どもなんてそんなもの。
真剣な話をしているのに内容が内容なせいで真剣になれないのよねぇ……。
それにあくまでわたしの予想であって、ミリアがどう思っているのかどうかは分からない。
ミリアは顔だけ振り向かせて聞いてくる。
「ねぇ……、あんたは私の味方になってくれないの?」
「わたしはあくまで、この村に居る間の君の監視役だから」
「じゃあなんで村まで見送ってくれなかったの?」
そんなの決まっているとわたしはミリアの心に言葉のナイフを突き刺す。
「君にそんな力は無いから」
ミリアは絶望か何かでか目を見開いた。
警戒するほどの力を持っているとでも勘違いしたのなら大間違い。
暴れたところですぐに捕らえられて、ホブゴブリンの部屋行きでしょうね。
その場合、管理管理不行き届きでわたしもホブゴブリンの部屋行きになるかもしれない。
けど多分、そんなことにはならない。だって、
「わたしは力を持っている」
そこがミリアとわたしの中にある決定的な差だと思う。
瞼を数回開閉させてミリアは喉をひくつかせた。
ミリアの背中を流す水音がお風呂場で反響する。
ミリアと場所を交代して今度はわたしが身体を洗い始める。
タオルが肌を擦る音だけが良く響く。
「ねぇ。……なんであんたはそんななの? なんでそんな……希望も絶望も無い目をしてんの?」
「それはわたしの過去を聞きたいの? それともただの煽りで聞いているの?」
「……何となく聞いただけよ。悪い?」
ミリアがむすっとした顔でそっぽを向く。
わたしの話ねぇ。
大したものじゃないと思うけど……そうねぇ。
それじゃあとわたしは自分の話をし始める。
先にひとつだけ前置きを入れる。
「君が嘘か真実か思うのは勝手。けどね、わたしにとっては本当のこと。わたしはここより違う世界から転生してきたの」
それじゃあひとつ話そう。
わたし、キリシマの転生前を。
次の日の6時に更新されるので読んでいただけると幸いです。
一気見したいなら01/25 18時
最後まで一気に読みたい方は01/27 00時まで待っていただけると完結いたします。
予約投稿をし終えているので絶対です。




