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わたし、どうしてこの奇天烈種族の社交性を学ぼうと思っていたのだろう。

 世界樹と精霊樹、二つの側面を持つ大森林。

 いつも青空の広がることが多い大森林は、肌を舐める陰気な曇り空に包まれていた。

 ダークエルフたちは進軍する。

 族長のラオウさん、副族長のメラチャルさん、メンマとわたしのお父さんに至るまで。

 全勢力を持って進軍する。

 ポツリ、またポツリと。

 天から雫が降り注ぐ。そして撃鉄の音が鳴り響いた。

 各自の判断でダークエルフたちは散開する。

 降り注ぐは銃撃の嵐。

 木陰に隠れたわたしたちは相手のいる位置を特定するのに勤しむ。

 

「ここは私めがやりましょう」


 ダークエルフたちの歓声を浴びながら、銃弾吹きすさぶ中颯爽と飛び出したのは副族長のメラチャルさん。

 拳を握り締めて一撃必殺の鉄の雨と対峙する。


「一族に伝わりし秘伝の塩味。とくと味わえ」

 

 メラチャルさんは拳に握りしめた物を解き放つ。

 広範囲に白い粉が舞う。

 粉に触れた弾丸は徐々に推進力を失っていき、遂には自由落下していった。

 ミリアは落ちた弾丸を見て一言零す。


「錆びてる?」


「そりゃ、塩だからね」


「まんまなの!?」


 メラチャルさんが投げているのは塩。

 ふざけているようにしか見えないけど、銃弾は鉄なので良く効くのである。

 本当にふざけているようにしか見えないのだけど。

 というか前、話したよね?

 わたしはミリアに解説する。


「メラチャルさんはね。塩を含む白い粉を身体から生み出せるの」


「ダークエルフもエルフのこと言えないじゃない」


「制約として身体の中に無い白い粉を生み出すことはできないのだけどね」


 けどね、とわたしは思う。

 この能力があればうどんを食べ続けても奇病に掛からないという利点があるのよね。

 だからメラチャルさんはうどんを食べる時、リンダの実を練り込まない。


「敵のいる位置を把握した。行くぞッ!」


 ほんと、ふざけた能力だけど銃弾に対して変に相性良いのどうかと思うの。

 指示に従って行動すると、敵の部隊が見えてくる。

 メラチャルさんは麻袋を開いて中に白い粉を入れ、柄付手榴弾と一緒に放り投げた。

 転生したての頃に感じて、今はすっかり忘れてしまった感想を思い出す。

 なんで森に暮らしているのに、こんな凶悪な攻撃方法を取るのか。

 粉塵爆発。

 密室ではないものの、朝昼夜おやつとうどんを食べるダークエルフ族。

 生成できる小麦粉は並大抵の量じゃない。

 

 エルフ群を中心として半径十メートルにも及ぶ大爆発が生じた。


「「「「ヒャッハーーーーーー!」」」」


 ダークエルフたちが色めき立つ。

 飛び散った火花が木々へ飛び散り引火する。

 しかして燃え移り勢いを増した炎は、


「調子良いなメラチャル!」


 ラオウさんの力と雨によって鎮静化していった。

 ミリアがわたしの首をがくがくと揺さぶってくる。


「ちょっと! これのどこが野蛮じゃないよ! どう見ても森を害する蛮族じゃないの!」


 慣れてしまったっていうのと、そう思わないとダークエルフの輪に馴染めないから何も思わなくなった。

 けれどミリアとの出会いを得て、自分の心に何か芽生えた状態のわたしならつい言葉を漏らしてしまう。


「せやな」


「せやな、じゃないわよ! あと何あれ!」


 ミリアは族長のラオウさんが操る武器を指さした。

 ラオウさんの力によって大勢のエルフたちが吹っ飛んでいく。

 あの武器の前では銃弾も爆弾も意味をなさない。

 それが例え、ミリアが放つような魔弾であっても。

 届かない。

 ミリアはもう一度ラオウさんの武器に声を荒げる。


「なんでお湯でみんな吹っ飛んでるのよ!」


「ナンで攻撃する部族もいるし普通だと思う」


「それはターメリックだけよッ!」


 ラオウさんのお湯は岩盤を砕き、木の峰を抉り取る。

 ダークエルフたちが士気を高めていく。

 わたし、どうやってこの種族のノリに慣れようとしたのだろう。

 わたしの自尊心ってもしかして、かなりちっぽけなものだったんじゃないかな。

 だって目の前の光景は、それ以上に馬鹿らしくなる光景で。

 そして、一番社会性が無いのはわたし自身だと自覚させられる光景で。


「さっすがラオウさん! お湯を注ぐことに関して右に立つ者はいない!」


「ナンがなんだ! カレーがなんだ! こっちはうどんで対抗だゴラァ!」


「前門の塩、後門のお湯、この布陣を銃弾如きで崩せるものか!」


 うおおおおおおと勝どきを上げる勢いのメンマとお父さんを含んだダークエルフたち。

 わたしとミリアは呆然と立ちすくむ。

 隣のミリアが面白そうな顔つきでわたしの横腹を突いてくる。


「社会性ちゃん、声を上げなくていいの?」


「ごめん、無理」


「へぇー、私にあんだけ周りに合わせることの大切さを学ばせたのに?」


「撤回、ミリア。わたしもう、周りに合わせるの止めるわ」


「そうしときなさい」


 お湯と塩は銃より強し。

 そんな不合理がまかり通る世界で、わたしは何常識を語ろうとしていたのだろう。

 エルフたちを全滅させたダークエルフ。

 わたしとミリアは天を仰ぐ。

 まだまだ、雨は止みそうにない。

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