昨晩はお楽しみでしたねって言われたけど、よくよく考えてみたら両親二人して娘たちの行事に聞き耳を立てていたのかなって
「それでこっから」
ミリアがわたしの下半身を脱がしてくる。
わたしの大切な場所を改めてマジマジと見つめた後、慣れた手つきで御開帳させてきた。
ミリアの目が釘付けになっていて恥ずかしいという気持ち。
それと、どうしてわたしは今こうなっているのだろうという複雑な気持ちが混ざり合う。
「それじゃあ――」
「……戦いたくない」
わたしは自然と本心を口にしていた。
いきなり神装だかなんだか言われて。真の力を解放するために必要な行為だと言われて。
言ってしまってからはもう遅くて。
わたしはどうしようもなく押し寄せる感情を吐露していた。
「本当はもう、すべてを投げ出したいの。なのにお前はその力を持っているから戦えって……わけわからないじゃん」
カグツチなんか手に入れなければ。
ダークエルフに転生をしていなければ。
わたしはきっと今とは違った人生を歩めていたのかもしれないのに。
なのに流されるままに突き進んできて。
多分、わたしはダークエルフに生まれて初めて我儘を言ったかもしれない。
「わたしは、こんな力持って生まれなければ――」
ふわっと、柔らかな感触がわたしの唇を塞いだ。
甘い匂いが脳を支配してかき混ぜてくる。
ミリアの顔が目の前にあった。
「ムッ!?」
わたしの唇を押しのけて舌が入り込んできた。
唇へと感覚が集中して、少女の柔い感触が直で伝わる。
生き物のように動く舌はわたしの口内を蹂躙する。
ミリアの甘い香りが鼻をくすぐる。
脳まで蕩かしてしまいそうで思考が纏まらない。
やがて口が離れる。名残惜しそうに透明な糸を引いて。
ミリアは糸を手で拭った後、わたしの顔を真正面から見つめてくる。
「私は感謝しているわ。あんた、キリシマがいなかったら今頃ガーリックにやられていたもの」
「あの時は別に」
「キリシマがどう感じていてもいいわ。確かに言えるのは、私はあの時助けられた。そしてキリシマも助けられている。紛れもないその神装で」
「あれはミリアが盾にしてきたからじゃん! あれが無ければ今頃わたしは」
「さっきも言ったでしょ。いずれガーリックは攻め込んでくる。そのカグツチが無ければ、平穏無事な生活を送ってこれなかったのよ」
それはそうかもしれないけどさ。
わたしは自分の口を手の甲で抑えて顔を逸らす。
「嫌いな人にキスするって」
「……言葉の綾よ」
ミリアは「それより!」と話を逸らした。
「この後どうすれば――」
「じれったすぎるであります!!」
痺れを切らしたのかメンマがミリアをわたしと一緒に押し倒した。
ミリアがわたしの上に重なる。
メンマは指をワキワキと動かして言い放つ。
「こっから先は私がやるであります!! ミリアちゃんはお姉ちゃんを抑えるだけで良いであります!!」
「情緒も雰囲気もないわね……。けど分かったわ!」
やっぱりなんにも分かっていない!
これがどういう行為なのかまるで分かってない!
「さぁお姉ちゃん!! めくるめく快感の館にようこそであります!!」
この後すんごい、カグツチの力が解放された。
* * *
昨夜はお楽しみでしたね。
どこかで聞いたことのある台詞を朝から親に聞かされ憂鬱。
やってやった感を出して肌を艶々させるメンマ。
昨日の行為がどういうものなのか分からず何事も無かったかのような溌剌とするミリア。
そして平穏とは何なのか心の底から疑問に思うわたし。
社会性を会得するためにわざわざ捨てた個性を取り戻して一体何になるというのか。
自我を捨てて、自分を捨てて、動くだけの人形になったわたしに一体何が残されているのか。
ミリアは躍起になって腕を突っ込んでくるけど、わたしでも分からない物を見つけるのなんて到底不可能だと思う。
そもそも見つかる見つからない云々は置いておいて、目先にいるガーリックを何とかしない限りどうにもならない。
生きている限り無情にも時は進む。
だからこうして考え事をしながら、今日の分の仕事をこなして行っている。
いつ振りなのだろう。
考え事をしながら仕事に励むのは。
「っと、ちょっと! 聞いてんの?」
ミリアに肩を叩かれてふとわたしは顔を上げる。
ダークエルフたちが集まっていた。
みんなの目がわたしに集中していた。
どうやらエルフの里に攻め込む会議をしている最中だったらしい。
わたしは聞いていなかったことを正直に白状し、頭を下げて謝罪する。
「キリシマにしては珍しいな。子どもらしい一面が見れて正直嬉しいが……。今は重要な話をしているからちゃんと聞くように」
ラオウさんの言葉が波紋のように広がり、みんなの笑いを誘った。
もういい歳なのに笑われた。
必死に積み上げてきた自尊心にヒビの入る音が聞こえてきた。
わたしは何か知らないけどおかしくなって、ふっと笑ってしまう。
自分自身でもおかしく思える。
まさかわたしに【自尊心】なんてものが心の奥底で眠っていたなんて。
本当、おかしくて笑ってしまう。
おかしくておかしくて。
ふとわたしはミリアの手首を掴んでいた。
「何! あんた、いきなり」
「いいから来て」
わたしは会議の最中だというのにミリアを連れて目的地まで走っていく。
ミリアがどんな顔をしているのか分からないけど来てもらう。
ホブゴブリンの部屋に。