なんかね、布製の傘なのに鉄を弾けるのはおかしいと思うの
そんな風にミリアがダークエルフの文化に染まるためか、手伝いをし始めてそろそろ二週間ほど経過しようとしていた。
時間が経てば経つほどミリアは順応していった。
「そっち行ったわ!」
「おっし、ナイスだ! あとは任せろ!」
今ではダークエルフたちに交じって狩りを行うほどである。
ミリアが使っている和傘はガトリングのように連射できる上に自身の魔力が続く限り撃てる。
そのため狩りを行う上で最高のパフォーマンスを発揮していた。
最も効率が上がったのは和傘のおかげなんかでは決してなく、
「今よッ!」
ライフルの銃声が木霊して、獲物をほとんど傷つけずに仕留める。
他の獲物たちもミリアの誘導によって次々と狩られていった。
そう、前に行っていた自分本位の狩りとはまるで違う。
ミリアとダークエルフたちの息が合い始めたのである。
しかも二週間ほど前は陰険な空気だったのに、今では仲良さそうにハイタッチすら交わしている。
最もすぐに打ち解けられるのは、細かいことを気にしないダークエルフの種族性が大きいと思う。
それにしたってミリアの変わりようには驚いてしまうわたしがいる。
「流石にやるであります!! そんなに心を開いたのならば今夜こそ!! 私の部屋に来てくださいで――!!」
ミリアは後ろから抱き着いてきたメンマを引きはがし、ゼロ距離からマシンガン連射。
ダークエルフたちにとってはメンマが撃たれるのはいつもの光景なので特に何も言わない。
むしろまたやっているよと笑うだけであった。
メンマ、もう既に何事も無かったかのように起き上がっているからね。
「どうよ、私だってやればできるでしょ!」
ミリアはわたしを見上げてドヤ顔で言ってくる。
こういう時、なんて返せばいいのだろう?
とりあえずわたしは普段通り、「そうだね」とだけ返す。
すると何が不満なのか分からないけど、ミリアはわたしの手首を掴んで引っ張ってくる。
「今日の用事は終わり? なら付き合って」
なんでか知らないけどメンマに向かって言うミリア。
あの、わたしの意見は無視な方向ですか?
「なんですと!! 野外で三人プレイでありますか!! そんなの……そんなの……やぶさかではないでありま――」
今日は良く銃声が響く。平和ねぇ……。
ミリアは和傘を振って硝煙を消すと一呼吸置く。
「あんたらには私を鍛えてほしいの」
「それでわたしに何の関係性が?」
「言ったでしょ。あいつはダークエルフも殺すって。それに……」
それでどうしてわたしを頼るのか理解できなくて首を横に傾ける。
ミリアはわたしの身体を「とにかくあんたじゃなきゃいけないの!」と大声を上げる。
あぁ、なるほどと納得したわたしは絶叫しそうなメンマを事前に押さえつける。
「立ち向かうための力が欲しいと」
「そう言ってるでしょ!」
今時ツンデレは面倒くさいだけなのではっきりと言ってほしい。
メンマは既にやる気なのか「ヤってやるであります!!」と両腕を振っている。
なんかヤるの意味が違くない?
わたしとしては本当に関わりたくない。
だって争いは無駄に怪我をして無駄に血を流すだけ。
そんなのは地球で起こった戦争が証明してくれている。
わたしだって戦いを望んでいない。
もう疲れた。平穏無事な生活を送りたい。
……けど、命を狙っている存在がいて。しかもいつ襲ってくるか分からない。
そんな生活を平穏と言えるのだろうか?
いずれ死ぬかもしれない怪我を負うことを無事と言えるのだろうか?
そんなの、答えは否よね。
それがどうしてミリアを鍛えることになるのかは分からない。
けど今のミリアは信用できるし、少しでも戦力の多い方が良いよね。
わたしは心を切り替えてミリアの特訓に付き合うことにする。
* * *
ガキィィンンと甲高い鉄の音が鳴る。
わたしのナイフがミリアの和傘で抑えつけられ、火花を散らす。
ミリアの和傘、刃物にも対抗できるのね。
どうしてこう、この世界は不思議な物ばかりが武器になるのか。
布部分が斬れないっておかしいでしょう。
ただこうやって斬っているだけでもミリアの問題点が見えてくる。
それは、
「傘で受け止めちゃダメ?」
わたしはミリアに気になったことを告げた。
同じように地面に体育座りをするメンマが手を挙げる。
「接近戦なのに受け止めちゃダメってどういうことでありますか!!」
「そりゃあミリアの武器が刃物じゃないからね。メンマ、練習用の竹槍貸して」
わたしはメンマから竹槍を投げ渡された後、ミリアに立つよう促す。
さっきと同じようにわたしとミリアは対峙する。
まるで剣でも構えるかのように傘を持つミリア。
わたしは地面を斬り、一瞬にしてミリアの懐に潜り込む。
ミリアが傘を横薙ぎしてくる。
わたしはその傘から数歩身体を逸らすだけで躱し、手に持った竹槍をミリアの胸に放り投げた。
「とまぁこんな感じに」
「ちょっと! こんなの接近戦とは言わないわよ! あんた武器を手放しているじゃない!」
「それ、魔物とか獲物にも言ってみる? そもそもミリアの傘は近接にも対応可能ってだけで接近戦が出来るってわけじゃないの」
やはりエルフとダークエルフという種族差は大きい。
ダークエルフとエルフは両方とも身軽な種族なのは違いない。
ただ問題点があるとすれば、ダークエルフは接近戦が得意でエルフは弓や魔法といった遠距離戦を得意とする。
なんかどっちも銃使っているけど。
一応、区分するならこんな感じである。
弓を使えると考えればエルフは決して筋力が低いわけではないのだと思う。
けれどね。多分使う筋肉の違いかな。
腕がしなるだけで勝てるほど接近戦は簡単なものじゃない。
いっそのことだけどとわたしは提案してみる。
「接近されたら連射してみたらどうかな?」
「そんなの前と変わらないじゃない!」
それは違うとわたしは首を振る。
こういっては何だけど、そもそも銃というのは近ければ近いほど命中率が増す。
誰もが知っている当たり前。
けれど、誰もが知っている当たり前というのは、見落としがちだけど最も重要なことである。
力学的エネルギーを考えれば威力が増す理由も分かるというもの。
ミリアはわたしの言葉を聞いて口元に手をやる。
「それじゃ、遠距離はどうすんのよ」
「それはわたしの管轄外。メンマ、交代」
「任されたであります!!」
わたしの代わりにメンマが前に出る。
交代際に胸を触ろうとしてきたのですれ違いざまに叩いておいた。
「さぁ!! わたしに師事をするということは分かっているでありますね!! わたしに負けたら今日一日性どれ――」
「メンマー。それ以上言ったらこれだからね?」
わたしは見せつけるようにカグツチを放出する。
メンマは分かりやすく首をガクンガクン縦に振り、自分のお口をチャックする仕草をして見せた。
まったく、この子は。
どこに理性というものを忘れてきたのかしらね?
「それじゃあ始めるであります!!」
そう言ってメンマは的の木偶人形を用意する。
それからミリアの近くに行くと、変に密着して肘やら腰やらに手を回し始める。
さらには頬までぴったりとくっつけようとしたので、その前にわたしがカグツチを使って食い止める。
ほんとこの子は……。
「今更だけどメンマで良かったの?」
「今更だけど師事する人、変えたくなってきたわ」
でしょうね。
でも村一番の銃使いがこの子なのもまた事実なのよねぇ……。
部族長と副族長の武器は……あれだし。
なんであれを武器として選んだのか本当に意味不明な武器だし。
ダークエルフの文化に染まっていくミリア。
けれどその性格はほとんど変わっていないようで。
わたしと二人きりになった時はその本性を露わにする。
もしも他のダークエルフに聞かれていたら処刑されることを平然と口走る。




