一章 少女人形が出来るまでの話
幼い頃、ボクは双子の姉弟であるスズエとシルヤとよく遊んでいた。
あの事件が起こってから、スズエの家で遊ぶことが多くなったかな?広かったから基本的なことは出来た。
スズエはボクによくなついてくれていた。兄であるエレンがいなくなってしまった後はさらになついてくるようになっていた。きょうだいのいなかったボクにとって、兄になったような気分だった。それが本当にうれしかった。
だけど、ボクはユウヤやエレンがいる村に引っ越すことになった。それからしばらくは二人に会うことが出来なかった。
生きていれば十八の時、ボクはシルヤ君やスズエさんに会いに行った。
――二人に久しぶりに会える!
モロツゥの指示というのが気に食わないが、それでも幼馴染達に会えるのは本当に嬉しかった。
ボクはシンヤに二人の「同意書」を書かせるという役目を任された。まぁ、もらえないならそれでいいと言われたけど。それでも、二人に会えるならよかった。
シルヤ君は同意書を書いてくれたけど、スズエさんは書かなかった。一応、ユウヤとエレンを含めて二十人は集まったからいいと言われているんだけど。
――本当は、ボクが二十一人目として参加するハズだったからね。
昔、ボクは同意書を書いていた。だけど……何かが行われる前に殺されたのだ。そして、「人形」として生き返った。正直、よくは分からない。
シンヤは、やけにスズエさんに執着していたけど……。
それが何でなのか、この時は分からなかった。
同意書を集め終わった後、シンヤがボクのところに来た。彼は既に死んでいて、その魂だけが人形に宿っている、らしい。見た目は双子の弟であるユウヤによく似ていた。シンヤもユウヤも、幼い頃からの顔なじみだった。
「アイト。お前に三回目のフロアマスターを任せたい」
「……別にいいけど、何をやるつもりなの?」
ボクが目の前の友人に尋ねると、
「デスゲームをやるんだよ。だから同意書を書かせただろ?」
そう言って、笑った。それは狂ったような笑顔だった。
――デス、ゲーム……?
つまり、シルヤ君やユウヤやエレンは……それに、参加させられるのか?皆、理不尽に殺されるのか……?
「それで聞きたい。どんな奴をサポート役にしたい?どんな性格の人形でもいいぞ」
ボクはうーんと考えて、
「……それって、参加者じゃなかったら誰でもいいの?」
もしいいと言うのなら、すでに決まっていた。
「ん?まぁ構わないけど」
「だったら、スズエさんがいいな」
ニコリと、ボクは笑う。シンヤは「スズエかー……」と少し苦々しい顔をしたが、
「まぁ、いいや。それじゃあシナムキに頼んでおくよ。丁度、スズエの人工知能もあるし」
何とか許可は出たようだ。そのことに、ボクは安心する。
――皆を、助け出す。
そのためにはどうしても、スズエさんの力が必要だ。あの知能と精神力が。なんでスズエの人工知能があるのか知らないけど……。
ボクはシナムキに頼んで、スズエさんの人形を作るところに立ち会った。しばらくすると、本物そっくりのスズエさんの人形が出来た。
「……ごめん、少し待ってくれるかな?」
目を閉じたままのスズエさん人形に近付き、ボクは細かなところを変えていく。ネクタイから、リボンに。花のブローチを取って。手の包帯は解いて。……これなら、シルヤ君達が本物のスズエさんと勘違いしないだろう。
「これでいいよ、ごめんね」
スズエさんを、憎まれ役にはしたくなかったから。
「い、いえいえ。大丈夫ですよ……ワタシも、デスゲームは反対ですし……」
シナムキはその人形に、スズエさん自身の、夏までの記憶と知能を植え付けた。そして、ボクはスズエさんを起こす。
「おーい、起きてー」
その声に、スズエさんは目を覚ます。
「ん……ここは……?」
「おはよう、スズエさん」
「アイト?なんでこんなところに?そもそもここはどこなんだ?」
当たり前だが、状況を理解出来ていないらしい。やっぱり、スズエさんでも混乱するんだなぁ。
「えっと……事情を話すと長くなっちゃうんだけど……」
ボクはスズエさんにすべてを話す。
彼女が人形であること。
本物は生きているということ。
近いうちにデスゲームが始まってしまうこと。
皆を助けたいから協力してほしいということ。
全てを聞き終えたスズエさんはため息をつく。
「……事情は把握したよ。まぁ、フロアマスター様のサポート役として任命されたからには精一杯やらせてもらうさ」
「スズエさんはツンデレなんだからー」
ボクが笑うと、スズエさんは「お前なぁ……」と呆れたような、それでいて優しい笑顔を浮かべた。
あぁ、これだけ見ると本物のスズエさんなのに。
これだけ見れば、誰もが本物だと勘違いするだろう。スズエさん本人も分からなくなるかもしれない。
そうして、三人で皆を助け出す計画を立てた。
目の前には、AIのスズエがいる。彼女は実家にいた時から一緒にいたパソコンの中の親友。そして、「恋人」だった。
AIが恋人、というと、お前頭大丈夫か?と言われそうだけど、実際このスズエに自由や愛というものを教えてもらった。そしてその一環として恋人ごっこをしている。
ボクは「高雪」が苗字だけど、どうやら養子らしい。本当は「七守」で、つまりエレンさんとは義理の兄弟ということになる。だけど本当の母さんが何かを察知したらしく、ボクを高雪家に預けたらしい。でも、高雪家も虐待するような人で、その時に会ったのがシナムキだった。彼女は同意書に名前を書けばお友達を作ってあげると言ってくれたのだ。その表情はどこか寂しげだったけれど、その時のボクは気付けなかった。
今思えば、それが罠だったのだろう。高雪家もモロツゥと繋がっていたのだ。でも、幼かったボクはそれに名前を書いてしまった。
ボクは、友達はあの時出会っていたスズエがいいと言った。シナムキは頷いて人工知能526をスズエのAIにしてくれたのだ。感情のなかった人工知能526はスズエになった。
「……あ、アイト君」
スズエはニコッと幼い子供のように笑った。
「スズエ、おはよう」
「おはよう。これからお仕事?」
首を傾げる彼女がかわいい。昔のスズエさんみたいで。もちろん今のスズエさんも好きだけど。
「うん。……大丈夫、ボクは皆を助け出すために……」
「私も、協力出来ることはするよ。任せて」
「ありがとう、この情報をここに置いていてくれる?」
ボクはシンヤからこっそり持ってきていた参加者の情報を預ける。スズエは頷き、それをシンヤ達には見られないように厳重に保存した。
後ろから、人形のスズエさんが来る。
「おい、アイト。話し合いの時間だろ?」
どうやらシナムキと話し合いの時間になっていたから呼びに来たらしい。
「丁度よかった、スズエさん」
「どうした?アイト」
スズエさんが近付いてくる。ボクは画面を見せて、
「ボクの情報を消していてほしいんだ。でも、もう一人誰かがいたんだって痕跡だけは残しておいて」
「了解」
言うが早いか、スズエさんはカタカタと操作を始め、十分もたたないうちに「これでいい?」と聞いてきた。
「……完璧だよ」
さすがスズエさんの記憶と知能を引き継いでいるだけある。
そうして、ボク達の「反抗」が始まった。
冬の日、シナムキに「お食事に行きませんか?」と言われ、人形のスズエさんと一緒にレストランに向かった。スズエさんは帽子を被って顔を見られないようにしている。
「スズエさんは何にします?」
「いえ、私は別に……」
「アイトさんは?」
「ボクは……」
シナムキは注文し、スズエさんの前にはショートケーキが、シナムキとボクの前にはハンバーク定食が置かれた。
三人で話しながら食べていたけれど、スズエさんは食べていないようだった。
「スズ、食べないの?」
「おなかがすいていないからな」
食べていいぞ、と渡され、ボクはそれを食べる。
「おいしいか?」
「うん。でも珍しいね、君ショートケーキ好きじゃなかった?」
「まぁね。でもそんなにおなかがすいていないの」
そうやって笑いあっているボク達を、シナムキは嬉しそうに見ていた。
「ありがとう、シナムキ」
「い、いえ……これぐらいなら、いつでも……」
シナムキがボクに向ける目は、どこか懐かしいものだった。




