戦場のクリスマス
僕は、戦っている。
日常という魔物は、知らないうちに、いつしかラスボスへと成長する。
人は、それを修羅場というのかもしれない。
でも、大体の修羅場はそこに至るまでのターニングポイントがあると思うんだ。
霞ゆく視界の端で、一瞬、黒いサンタを見たような気がした。
僕は、今もひとり戦っている。
クリスマスの華やかな世界の片隅で。
この世界には、まるで僕だけがいないような気がした。
意識が遠退いていく。
子供のころは、サンタさんが来るのを指折り数えていた。
小学校低学年の頃、サンタさんにお願いをした。
むげんに、2じゅうとびがとべる、なわとびをください。
今思うと、サンタさんもたまったものではなかったと思う。
クリスマス当日に。
もらった縄跳びは、ごく普通のものだった。
僕は大急ぎで家を飛び出して、まだ暗い中、縄跳びを飛んだ。
でも、全く飛べなかった。
僕は、泣いた。
泣きながら、もうサンタさんは来てくれないんだと悟った。
その翌年から、我が家にはサンタさんが来なくなった。
その代わりに、両親からプレゼントをもらった。
僕は、笑った。
その頃は、それなりに幸せなクリスマスを過ごしていたと思う。
また、意識が遠退いていく。
僕は、戦場にいた。
思い出すのは、家族とのあたたかい思い出と、ちょっと切ない思い出。
眼前には、得体の知れない敵の大群が押し寄せている。
僕には、いつものように味方はいない。
外の世界が遠く感じる。
はっきりした視界には、やはり、あの黒いサンタが佇んでいた。
僕は、この戦いに勝てるのだろうか。
腰に抱えた、黒いサンタにもらったクリスマスプレゼント。
そのプレゼントが爆発した瞬間、辺りは戦場に変わった。
砕け散った。
確かに砕け散ったんだ。
激痛で体が木っ端微塵になった気がした。
薄れゆく意識の中で思う。
あれ、クリスマスってなんの日だっけ。
あれ、サンタさんってそんなに黒くて凶悪だったっけ。
去年のクリスマスから新年は、砕け散ったこの忌々しいぎっくり腰と過ごすことが確定した。
動けなくなった僕は、ただただ窓から静かな世界を眺めている。
僕は、戦場の中にいる。
今も、終わりがないほどに押し寄せる激痛と、ひとり戦っている。
黒いサンタはもういない。
ふと気になって、腰を見やる。
そこには、どうやら、また、新しいプレゼントがぶら下がっているようだった。