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角の生えた少女  作者: aaa
2/17


 春の山は、活発だ。

 冬の間に眠っていた動植物たちが目を覚まし、それぞれの音色を奏で始める。

 そして私もまた、そのハーモニーの一部となっていた。




「……ごめんなさい」


 私は、目の前で無残に転がる山狼の死体に手を合わせた。

 その死体は大量の虫に食い荒らされたように、肉も皮もぐちゃぐちゃになってしまっている。

 ただ決定的に虫に食い荒らされた死体と違う点が一つあり、それは辺りに血の匂いが充満していることだ。

 腐敗臭ではなく、血の匂い。つまり、死んだばかりの死体だということ。

 当然この山狼を殺したのは、一番近くにいる私だった。


 つい十分ほど前、私は一匹の山狼に遭遇した。

 山狼は群れで過ごしている生き物であり、こうして一匹だけがはぐれているのは相当珍しい。

 そして、仲間との連携を活かして獲物を狩る山狼が一匹でいるというのは、まさに鴨が葱を背負ってやってくるというものだ。

 それは山と共存することで成り立っていた私の村では常識であり、まだ幼い私でも知っていることだ。私はすぐさまそのはぐれ山狼に狙いを定めて、狩りを始めた。


 結果はもちろん、私の勝利だった。

 しかし、勝者の私に待っていたのはご褒美などではなく、獲物を食らうという新たな試練だったのだ。

 私は今まで狩りをすることはあっても、獲物をどうこうしたことはなかった。それは大人の役目であり、私にはまだ早いと教えられていなかったからだ。

 それ自体に文句を言うつもりはない。実際に私は器用ではなく、解体という作業に魅力を感じていたわけでもなかった。


 しかし、結局それは甘えだったのだ。

 村を飛び出した私は、現状全部一人でなんとかするしかない。

 そして知識もないままに解体作業に手を出した結果が、この無残な死体を造り上げてしまったのだった。



 私はなんとか剝ぎ取れた少量の肉以外の部分を土の中に埋めると、その上に薪を並べて火を焚いた。

 そして、その火で肉を焼いて食う。

 なんでもこれは私の村に伝わる伝統らしいが、私にとっては習慣というものだった。


 肉が焼かれていく光景を見ていると、私は急に寂しくなってきた。

 はぐれ山狼。私も、人里から離れた一人ぼっちだ。

 人が恋しいと思うのは、私が人だという証なのだろうか。


 一月ほど前に生え始め、今ではもう髪の毛から顔を出してきた二本の角が、陽の光を浴びて輝いていた。


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