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角の生えた少女  作者: aaa
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プロローグ


 カイザーの娘に角が生えてきたのは、平和を告げる春の息吹がやってきた頃だった。


 十年前の冬。凍えるような吹雪の中、今にも死にそうな幼子を抱えてこの村にやってきた男のことを、この村の住人なら誰もが知っている。

 その男はどんな巨木でも切り倒し、どんな猛獣でも平気な顔をして狩ってくるような、人並外れた力を持つ男だった。

 こんな辺境の村では、常に人手が足りていない。彼がしばらくこの村に滞在すると告げた時は、村人全員で宴を開いたほどだ。その時に彼の娘が見せた笑顔は、まさにこの老い枯れた村に舞い降りたオアシスだと思えた。

 我々村人は、そんな彼───カイザーとその娘のペリットに影響されるように、徐々に活気を取り戻していった。

 そのことを何度カイザーに感謝しても彼は頑なにその言葉を受け取らなかったが、この村が活気づいたのは、間違いなく彼のおかげだろう。


 それから三年ほどの月日が流れた頃、我々の村にジルダニケ王国からの使者がやってきた。

 王国の使者はカイザーの顔を見た途端に、慌てふためいた。そしてカイザーに詰め寄るように近づくと、数言交わした後に、すぐに村を去って行った。

 今のはいったい何だったのか、とカイザーに詰め寄っても、カイザーは口を開かなかった。ただ唇を噛みしめて、首を横に振るだけだったのだ。


 そしてその夜。カイザーは『ペリットを任せます』という短すぎる手紙だけを残して、この村を去ってしまった。

 その手紙を我々に持ってきたペリットは不思議なほどに落ち着いていた。「いつかパパにあいに、じるだにけおうこくにいくの!」と笑顔で語っていたあの光景は、今でも我々の脳裏に焼き付いている。


 我々はそんなペリットの願いを叶えるために、全員でペリットを支え、鍛え、学ばせてきた。

 そんな日々を過ごす中で、我々はペリットという娘にある疑問を抱かざるを得なかった。

 ペリットは、優秀すぎたのだ。頭脳・身体能力・精神力・そして───魔力。どれをとっても、人の子とは思えないほどの成長を見せていたのだ。

 それでも、我々が教えたことをその何倍も吸収していくペリットに対して、我々は誇らしさを感じていた。それ故に、誰もその疑問を口に出すことはなかったのだ。


 しかし、その疑問は無視できるものではなかったのだ。

 それは、厳しい冬を乗り越えた春。今から、一月ほど前のこと。

 ペリットが突然長老の家を訪れ、角が生えた、などと言い出したのだ。

 長老が、そして村人全員がペリットの頭を確かめた。頭の上部。髪の毛に隠れて黙認はできなかったが、そこには確かに、角が二本生えていたのだった。


 その日から、ペリットはあまり口を開かなくなった。

 それもそうだ。人間に、角は生えてこない。つまり、ペリットは人間ではないということだ。

 そして角が生えてくる人型の生物といえば、魔族と呼ばれる、人間とは敵対関係にあるあの生物しか思い当たる節がない。彼らは人間よりも能力が高く、ペリットの過剰な優秀さが、ペリットが魔族であるということを裏付けているようだった。

 その事実は、我々とペリットの間に溝を生んだ。我々も、そしておそらくペリットも、お互いにどう接していいのかわからなくなってしまったのだ。


 十年前のあの日に忽然と現れ、何も語ることなく去ってしまったカイザーという男は、何者だったのか。

 ペリットという少女は、いったい何者なのか。

 誰もその答えを持たないまま流れた月日は、ペリットをたった一言の手紙へと変えてしまった。

 我々の村に突然現れた嵐のようなあの親子は、心の奥を騒ぎ立てるような余韻を残して、闇に消えるように去って行ってしまったのだった。



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