NHKスクランブル化はどうなった?――迷走するN国党について
初出:令和2年2月22日
最近、NHKから国民を守る党(以下、N国党)に関するユーチューブ動画が悪い意味でヒートアップしています。
人気ユーチューバー、”さゆふらっとまうんど”こと平塚正幸氏がN国党を離脱し、新党を結成するようです。N国党党首である立花孝志氏との間に確執が生じたとのこと。
それにせよ、NHKスクランブル化の話はどうなったのでしょうか? N国党関連の最近のユーチューブ動画は党内の内紛ネタ一色のようです。
1.プロレス方式でユーチューバースターが続々登場
プロレスでは無名の新人レスラーを売り出すとき、人気レスラーと”からませて”話題作りをします。
たとえば藤原喜明選手の場合、当時人気絶頂だった長州力選手とプライベートでけんかしたことを理由に両者の因縁対決マッチが企画されました。無名だった藤原選手はこれを機に一躍スターダムに駆け上ります。
私が佐々木健介選手をはじめて知ったのは、後に文部大臣にまでなる馳浩選手とのタッグマッチ。当時、馳選手の方は大型新人レスラーとしてマスコミから話題騒然でしたが、馳選手のタッグパートナー兼宿命のライバルとの触れ込みで、これまで無名だった健介選手がテレビによく登場するようになりました。
さゆふらっとまうんど氏(以下、さゆ氏)は陰謀論系ジャーナリストのユーチューバーとしては絶大の人気を誇ります。
そのさゆ氏と対決したり共闘したりして、無名のユーチューバーが多数、登場しました。これは前述のプロレスのやり方と同じです。
たとえばニックマック氏。さゆ氏と対決したり、共闘したり......。二人の関係は今どうなっているのかわかりませんが、いずれにせよ、さゆ氏とからまなければ、私はユーチューバー、ニックマック氏の存在を知らなったでしょうし、彼の動画も一度もアクセスしていなかったでしょう。
アンチさゆ氏、シンパさゆ氏。あるいはアンチN国党、シンパN国党。様々なユーチューバーのスターが登場し、何が何だかよくわかりませんが、とにかく賑やかになりました。
一方、地方公務員リストラ組のユーチューバー、失敗小僧氏がN国党の内紛劇を法律の知識を交えながら解説。彼もまた新しく登場したユーチューバースターの一人でしょう。
2.金銭的報酬でユーチューバーブーム
テレビをつけると芸能人、文化人、スポーツ選手がユーチューブを始めたことがよく紹介されます。
今、ユーチューバーがブームです。なぜでしょう。
第一にアクセス数の多い動画番組の投稿者は、ユーチューブから広告収入の一部を報酬として得られるからでしょう。一般に他の動画サイトより報酬が高いことが予想されます。
第二に一般大衆の若い世代がテレビをあまり視聴しなくなり、その分、ユーチューブをよく見るようになったため、プロの動画制作スタッフの中には、テレビ向けだけでなく、ユーチューブ向けに高品質の動画を作成するようになったことが考えられます。彼らはインフルエンサーとして、より大きな力を持つメディアを好みます。また彼らによりユーチューブ動画のクオリティーが上がれば、ユーチューブの視聴者もさらに増えることが予測されます。この循環により、メディアとしてのユーチューブはますます盤石なものとなります。
第三にこれまでニコニコ動画のボカロなどの人気アップ主が、より高報酬が得られるユーチューブにシフトしてきたことが考えられます。
3.陰謀論ユーチューバーのエンタメ化?
このようなユーチューバーブームの流れを受け、陰謀論系ジャーナリズムのユーチューバーたちもアクセス数を稼ぐために、”エンタメ”化を始めたのかもしれません。
また陰謀論をあまり論じすぎると、”垢バン”をくらうという罰ゲームがユーチューブにはあります。
プロレス方式で次々と新手のユーチューバースターを登場させるのは”エンタメ”として面白いですが、動画の内容が政治問題から完全に離れてしまうのは果たして本当にいいのでしょうか。
肝心のNHKスクランブル化の話はどんどん遠ざかっているようです。
N国党は今や国N党――国民からNHKの既得権を守る党に成り下がってしまったのでしょうか。
”NHKをぶっ壊す”以前に”N国党への国民の期待をぶっ壊す”のでしょうか。
4.専門政党は民主主義政治の実験
N国党は、NHK地上波のスクランブル化という単一の政策を掲げて立党しました。
既存政党が”総合”政党とするとN国党は”専門”政党といったところでしょうか。
世の中には総合〇〇と専門〇〇に分かれているものが多数あります。
総合商社はあらゆる分野の商材を扱うのに対し、たとえば半導体の専門商社は半導体だけを扱うディーラーです。
総合大学は複数の学部があるのに対し、工科大学は工学部だけしかありません。
政権政党たる与党はあらゆる課題を扱う総合政党であることが望ましいでしょうが、これに対し、単一の課題だけを扱う専門政党が出来て、国民投票替わりの仕事をする、というのも民主主義政治の新しい方式かもしれません。
ひとたび当選したら公約やマニュフェストを無視して勝手な政治を行う既存政党に対し、「首都機能移転を推進する党」、「東京五輪を返上する党」、「消費税を3%にする党」など、具体的な政策を政党名にして、目的を達成したら解散する、という専門政党は、直接的に民意を反映した民主政治の実験だと思うのです。
N国党がこのような専門政党政治の先駆けになれば、日本の政治もいい方向に変わる思うのですが、これは過大すぎる期待でしょうか。
(了)