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駆け出し冒険者、海へ行く  作者: ディーバ=ライビー
2/2

後編

「これが、人魚のうろこですか」

「へぇ、初めて見たわね」

「いや、てか、人魚って実在したのかよ」


 要するになんですか。

 モーガン神父は組織から人魚を連れて足抜けしようとして消された?


「もしかして、商品の筈の人魚に惚れちまったんじゃないか?」

「この手紙を見る限り、そんな感じよね」

「でも、これだとまだわからないですよ。なんであのエセシスターは教会にいるですか」

「あの教会が人魚の取引拠点、とか?」

「待ってくれよ待ってくれよ。教会のお偉いさんまでグルじゃないかこれ?」

「ええ。このS神父?はそれを知ってたんでしょうね。だから何もできなかった」


 たしかに、教会がまったく無関係ならば堂々と騎士団を動かすこともできたはずですよ。

 だいたいからくりがわかりましたね。わかりましたけど――


「で、どうするよ、これから」

「宿屋でのんきに寝てたら消されるかもしれないわね」

「そりゃもう首ちょんぱですね」

「おやじさん! いまから間に合う乗り合い馬車はあるかい?」

「いまから? ないね。次は明日の昼だ」

「だよねぇ、ありがと」


 逃げるのも無理ですか。徒歩は論外ですしね。


「逃げられないなら、戦うしかないんだよな」

「そうね。好きじゃないんだけどな、人殺し」

「扉の脇で飲んでる2人。あいつら教会そばの雑貨屋の前で見た顔です」


 村に一件ですしね。宿屋はバレバレですよね。


「おやじさん、ちょっと出てくるわ」

「ああん? いまからか? ここは都会と違って夜中に遊ぶ場所なんかないぞ?」

「山育ちなんです。夜の海って初めてなんですよ」

「そうかぁ? いいけど気をつけろよ」

「はーい。じゃあ行ってくるです」

「行ってきますわ」


 夜中に宿屋で襲われたら、おやじさんも巻き込んじゃいますからね。

 外に出て、5分も歩かないうちだったと思います。


「いい風だなぁ」

「もう冬だけどね。お酒にほてった体にはちょうどいいかも」

「イイ感じにあったまってるですよ、そこの乳でかエセシスター?」


「あらあら、気付かれてる? あんたたちまだ駆け出しでしょ? たいしたもんね」


 言って、出てくる出てくる、乳でかと3匹の手下たち。

 どうしようもなくわかりやすい黒装束の、いかにもな暗殺者(アサシン)たちだ。


「おばさん、人魚はどこにいるんです?」

「ああん? クソガキが、ヒトにものを尋ねる態度かい、それが」

「いいからさぁ、教えてよ、おばさん」

「あなたたちねえ、それだから育ちが悪いって言われるのよ。いい? こう尋ねるの。『おばさま、教えてくださらない?』ってね」

「ふ、ふふふふふ。ホントにかわいいガキどもだよおまえら」

「ベアちゃんが一番怒らせてるじゃないですか」

「そうだよ、丁寧に言えばいいってモンじゃないだろ」

「ああうるせえ!やっちまいなおまえたち!」


 これまたいかにもな悪ボス風の掛け声に従って、3人の暗殺者が動く。

 

 キィン! (あい)(くち)と呼ばれる異国伝来の短刀をキャシーの剣が受け止める。

 キャシーは剣士だから真っ向勝負なら分があります。あたしも短刀術ならそれなりの心得があるからまだいいです。

 マズい、ベアトリクスどこ? あたしたちの間にいろって言ったのに。メイジのあの子が1人で接近戦なんて。


「うわっと!」


 キィン。

 うー、くっそ。まずは自分のこと。それから仲間のこと。

 優先順位を間違えちゃダメだ。でなければ全滅だ。


「だー! 頭ザクロにしてくたばるです!!」


 外した。てか、しまったなぁ。あのおばさんは自分の気配にあたしが気付いたことに驚いていたけど、本来なら弓の間合いで気付く自信があったんですよ。慢心ですね。ムチャクチャ不利です、いま!


「どっせぇい!」


 ざしゅ。

 キャシーの雄叫び、肉を切り裂く音。大丈夫だよね、キャシーの勝ちだよね。

 カウント-1。残り3人。


 ひゅ!

 って、左から? 右にいたやつどこ?どこです?


 「アリシアしゃがめ!」


 ノーモーション確認無しで身をかがめる。頭のすぐ上をブロード・ソードがなぎ払っていくのがわかる。


 ざしゅ。が、2つ。


「キャシー、ベアトリクスは?」

「わからん、暗すぎるしちょっと離れると気配も読めない」

「私はここよ」

『ぎゃああああああああ』


 ビビった。暗殺者よりよっぽど怖かった。

 なんです? 耳元で突然ベアちゃんの声?

 まさかもうやられてて幽霊です?


「お、おい、ベア子、無事なのか?」

「ええ。こりゃダメだと思って、虎の子の不可視の指輪(インビジリング)を使ったわ。これ、金貨2枚すんのよ。大損じゃない」


 よ、よかった。無事でホントよかったよ。


「けちくさいこと言ってんじゃねえです。無事ならとにかく灯りを出して。そのあと周辺の気配探知」

「はいはい。人使いの荒いリーダーだこと」


灯り(ライト)』と『探知(サーチ)』の呪文。

 いずれも低レベルの魔術だが、もっとも役に立つ魔術でもあります。


「いないわね。50m四方にはだけど」

「逃げたか。手下の暗殺者は全員潰したしな」

「私たちを駆け出し冒険者だと侮って甘く見たんでしょうね」

「まあ、冒険者としては間違いなく駆け出しなんだけどな……」

「さて、どうするですかね。まだ1人残っている以上は宿屋でぐっすりともいかないですし」

「教会へ行くしかないでしょうね」

「やっぱりそうなるよな」



 ☆★☆★☆★☆★☆★



「人魚の肉を食べると不老不死になれるって聞いたことある?」

 

「そんな伝説があるのは知ってるけど」

「デマだろそんなの」

「頭のおかしい昔の王様がそんなの探してたって聞いたですよ」


 とぼとぼと教会へ行ってみれば、再び見事にシスターとして化けた乳でか女がにこやかに出迎えてくれた。


「いい加減に観念するですよ、エセシスター」

「まずそこね」

「どこです」

「『エセシスター』よ。勘違いしないで。私は中央教会に派遣されたホンモノのシスターよ」

「バカな」

「なんですって?」

「あぁ、そういうコトなの」

「そこの、おりこうさんのメイジのお嬢ちゃんはわかったみたいね。そう。人魚集めはね、教会の上層部が直々にやってることなのよ」

「はぁ?おばさんなに言ってるですか」

「だからね?あなたがさっき言ったでしょう。『頭のおかしい王様が人魚を求めてる』ってそれはね、教会の中にいるのよ。ま、『中のどこか』まで教えてあげるつもりは無いけどね」


 え? うそでしょ? そんなバカな

 あたしは礼拝もサボりがちだったし、そんな真剣に神様に祈ったりしたことはない。だけど、神様は信じてなくても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。生まれ故郷の神父様も、冒険者として生活を始めた街のシスターも、みんな、とってもいい人だ。


 不老不死の妄想のために人殺しをするような人たちじゃない。


「ふざけんじゃねえですよ。そんなの」

「事実よ。そのあたりはモーガンへの手紙に書いてなかった?」


 ベアトリクスはモーガン神父への手紙を読んで「教会の中に共犯者がいる」と言った。でもこいつの言っていることは「教会そのものが主犯」だ。そんなのって。


「これで手打ちにしようというお誘いだと理解していいのかしら」

「あら、あなたはホントに話が早いわね」


 え? なに? なんです?


「私たちは今後もあなたたちのことは誰にも話さない。だからあなたたちは私たちを襲うことはぜったいにしない。これでどう?」

「順当なところね」

「言うまでもないけど、私たちの誰か1人でもあなたたちにねらわれたら、私たちの生死とは無関係に全てが白日の下にさらされることになるから」

「ええ。でも、それで誰か教会よりあなたたちのことを信じてくれるかしら?」

「そうであるならばなおさらいいことよね。あなたたちが私たちをねらう理由が無くなるのだから」

「うふふ。いいわね、とてもいいわよ、あなた」

「ちょっと待つです!!」


 ベアトリクスのやり方は正しい。正しすぎるんだろう。

 これがあたしたちが助かるのに最適なんだ。それはわかる。でも。


「こんな、こんなの、おかしいですよ」

「おかしいわよね、わたくしもまったく同感よ」

「ふざけんなって言ってるです!!!」

「ふざけてなんか、いないんだけどね」


 乳でか女の表情が、少しだけ寂しそうな顔に見えたのは気のせいだろうか。


「あのさ、あんた――そういや、名前は?」

「ああ、名乗ってなかったわね。もう遭うこともないだろうからどうでもいいと思うけれど。そうね、ドリスとでも呼んでもらおうかしら」


「ドリス、このままじゃウチのリーダーの収まりがつかないみたいなんだよな。だから、今回はこっちに勝ちを全て譲ってくれ。そこで手打ちにしようぜ」

「ふぅん? 全ての勝ちとは?」

「人魚をよこせ。いやならいまここでお前を斬る」


 キャシーは剣の柄に手を添えて、憎悪の瞳でドリスを睨んでいる。

 そうか、いまここでは、それ以上のことは望めないんだ。


「渡すです」


 あたしは、それだけ言って、弓に矢をつがえた。



 ☆★☆★☆★☆★☆★



 人魚の肉はとても足が速いらしい。それが幸いして、彼女は生きたまま捕らえられていた。


「バイバイ。もう二度と人間の生息域に近づかないように」

「●※△♂*▼」

 

 何を言っているのかサッパリわからない。

 とても美人だけど、表情がない。人間とはまったく異質の生物なのだなと痛感する。


「ありがとうとお礼を言っている」のか「ヒドい目に遭わせやがって」と文句を言われているのかわからないままに、人魚は解放されたその日に海へ帰した。


 別に気分はちっともよくない。勝った気もしない。

共犯だったモーガンのためにやったわけでもない。

 でも、仕方ない。いまは。



 ☆★☆★☆★☆★☆★



「ところでさ、捕まえて持って行くとした場合、人魚の肉って具体的にどこ」

「どこ、とは?」

「いや、人魚って人部分と魚部分があるじゃん。どっち」

「やっぱり、人魚を人魚たらしめている部分じゃない?」

「というと?」

「海の中にいるんですから、基本形は魚なんですよ。人に魚パーツがついてるわけじゃなくて、魚に人パーツがついているのが正解だと思います」

「えっと、つまり?」

「食べるのは人部分ってことね」

「えー……」

「まぁ、食べるのはあたしたちじゃないですし」

「ていってもさ。まさか人間大のをまるまる持って行くわけにもいかないし、捌くのはアタシらだろ?」

「捌くのはあたしたちじゃないですし」

『ね~』

「おい『女の子の友情』ごっこやめろや!」

「だって、この中で人切り庖丁を振り回してるのはキャシーだけですよ」

「おいふざけんな狩人(アーチヤー)!動物をバラすのならお前の方がうまいだろ」

「あたしは人間なんてバラしたことないです!」

「アタシだってねえよ!!」


 そんな和気あいあいのかわいい女の子会話(ガールズトーク)に花を咲かせている間に、乗合馬車はあたしたちの拠点の街にたどり着きました。

 気を取り直してがんばる。冒険者はたくましいんだ。


 ――うん、いつかぜったい、なんとかしてやるんだから。です!


 今まで通りに短編でアップロードしようと思っていたんですが、想定の倍くらいのサイズに膨れ上がってしまって、急遽分割しました。


 当初は冒険者たちが金持ちの依頼を受けて人魚を捕まえに行くという、まったく逆のお話だったんですよね。それが行き詰まってしまって、どうしようかと考えているうちに、いつのまにやらこうなってしまって。


 とにかく、完結させようって、今はそれだけを考えて書いてます。

 こうやって続けて行けば、きっともっとうまく思い通りに書けるようになる日が来るでしょう、たぶん。


 それでは、読んでくださった方、ありがとうございました

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