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駆け出し冒険者、海へ行く  作者: ディーバ=ライビー
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前編

「海だ~~~~~!!」


 海だ。海です。実はあたし、海を見るのが初めてです。

 ずっとずっと、内陸の奥地の村で慎ましやかに暮らしてたですから。


「ああ、海だな」

「そうね、海ね」


 なんです? 仲間の二人のテンションが低いですよ。

 若い女の子が海を見てはしゃがなくてどうするんですか。


「ほら、海ですよ。白い砂浜、打ち寄せる波。ドキドキしないです?」


 浮かれるあたしに、心底めんどくさそうに答えるのは、ソードマンのキャシーです。


「まあ、アタシも海はキライじゃないけどさ」


 ざっぱ~~~~~ん。


「暗い空。黒い海。岩をも砕く荒い波。冬の弓海(きゆうかい)で乙女心は騒がないわねぇ」


 続いてそう言うのは、メイジのベアトリクスです。この子は理屈が多いんですよ。

 ちなみに弓海の由来は、大陸を出て船で1日くらい進むと弓形の大きな島にぶつかる閉じた海だからです。まあ、本筋に関係ないですけど。


「そうだな。乙女ってより恋に破れた大人の女が似合いそうな海だぜ」

「ウィード発の夜行馬車の終着点がこんな感じらしいわよ」

「ああ、こないだの酒場で吟遊詩人(バード)が歌ってたヤツか」

「そうそう。彼はいい男だったわねぇ」


 そんなこたどうでもいいんですよ。


「海なんですよ? ステキな出会い。一夏の恋。頭がフットーして盛る男と女。もっと興奮しましょうよ! なんでそんなに冷静なんですか」

「下品なんだよおまえは。だいたい夏じゃなくて冬だし」

「そうよ。これだから処女は」

「しょ、しょ、しょじょちゃうわ!」


 不意打ちについついどもってしまいました。

 てゆうかあ、ベアちゃんだってそうでしょ! ぜったい!


「ああ、はいはい違うのね、わかりました」


 くぁ~~。軽くあしらわれたです!


「ま、くだらない話は後にしようぜ。先にここにきた目的を果たそう」

「そうね、それがいいわ」


 うう。キャシーめ、自分に矛先が向く前に話を逸らしたですね。そういうところしっかりしてるんだから。

 ふう、まあしょうがないですね。いじめるのはあとにするです。


「わかりました。今回は、急ぎの荷物を届けにはるばると都から大陸の端っこの海までやってきたわけですけどぉ」

「んで、どこに届けるんだ?」

「なんで知らないのよ?」

「教会ですよ、教会。払いも確実だしいい仕事です」

「そう言うけどさ、アリシアの持ってきた話が本当においしかったことって今まであったっけ?」

「ないわね」

『だよね~』


 おい。『女の子の友情』ごっこやめろです。

 失礼な連中です。いつだってこの貧乏パーティにもうけ口をもたらすのはあたしじゃないですか。


 あ、そうそう。言い忘れてました。

 かく言うあたしは、アーチャーのアリシア。このパーティのリーダーです。


「ともあれ、まずは聞き込みです。刑事は何足の靴を履きつぶしたかで真価が問われますよ」

「誰が刑事だよ」

「黙るです。ほら、あれなるご老人に教会の場所を聞いてみましょう」


 腰がすっかり曲がってしまったおじいさんが、農作業を一休みしているようです。あたしはお年寄りにウケがいいですからね、声をかけてみます。


「おじーいさん。ちょっとお話いいですか?」


 にっこり。童貞なら秒で恋に落ちるに違いないキュートなスマイルです。


「あ?なんだおまえさんらは」


 むう、見かけによらず百戦錬磨のモボっぽいです。あたしの笑顔が効きません。


「おじさま、お忙しいところすみません。少しだけお話を聞かせていただけませんか?」


 ベアちゃん、いまあたしが話してるんですけど。


「え……あ、ああ、いいともいいとも。なんでも聞いてくれよお嬢さん」


 にっこり。へらへら、でれでれ。

 ……なんですかね、このじじい。いい歳して孫みたいな歳の娘に相好を崩して恥ずかしくないんですかね!!!


「あのじいさんは、ロリコンじゃ無かったようだな?」


 キャシーが小声で耳元にささやいてきました。だれがロリータですか、このヤンキー女が。違います。ベアちゃんみたいな色気だけの毒婦に引っかかるなんて、救いようのない愚かな年寄りなんですよ。

 まったく。貯め込んだ年金根こそぎかっぱいでやろうか。


「行くわよ、二人とも」

 

 あたしが爪を?んでそんなことを考えている間に、ベアトリクスの聞き込みは終わったようです。


「こんな田舎に派遣されてくる神父様だし、毎日ヒマを持て余してはぶらぶらしてる人だからな。荷物のついでに話し相手になってやってくれ。お嬢さんみたいな美人なら大喜びだろうよ」


 ふんだ。スケベじじい。



  ☆★☆★☆★☆★☆★



「ごめんくださ~い」


 そんなわけで、大通りにある村の教会へやってきたのだ。


「誰もいないのかしら」

「留守か? そういや毎日ぶらぶらしているとか言ってたな」

「なるほど、これが空の教会ってやつですね」

「なに言ってんだおまえは」


 誰も出てこない教会の前で騒いでいたら、裏庭の方から誰か歩いてきます。


「こんにちは。当教会に何かご用ですか?」


 あら、美人のシスター。こんな田舎でシスターをやらせておくにはもったいないぜ、へへへ、とかヒヒ親父がなれなれしく肩を抱きながら言いそうな、垂れ目で気の弱そうな人です。あと、乳がでかい。


「はじめまして、シスター。私たちは冒険者です。頼まれてこの教会の神父様に荷物をお届けに参ったのです。」

「それはそれは。遠くからいらっしゃったのですか? たいへんでしたね」


 こういう挨拶はベアちゃんに任せておけば一番なんです。

 リーダーは後ろでどっしりと構えています。


「ですが、神父はただいま他行中なのです。わたくしでよろしければお預かりしておきますが」

「すまないんだけど、必ず神父様に直接渡すようにと念押しされているんだ。いつごろお戻りに?」

「それが、急な用事で都に出向いておりまして。わたくしが留守番として入れ替わりにまいったわけなのです」

「……都に、ですか。遠いですね。お帰りの予定は?」

「それが皆目」


 ふむ。めんどくさいし、この人に渡しちゃってもいいかな?


「あ、じゃあ――」

「わかりました。日を改めてまたお伺いします」


 え? ベアちゃん?



「……そうですか。お手数おかけして申し訳ございません」



 ☆★☆★☆★☆★☆★


「気付いた? キャシー」

「ああ。おかしいよな、アリシア?」

「え、うん、明らかに変です」


 なにが?


「何者かしら、あの人。面倒に巻き込まれるのはごめんだけど、さすがにアレに気付かずに荷物を渡してしまったら『無能』のそしりを免れないわね。今後の仕事に差し支えるわ」

「ド田舎でも教会は教会だ。そこを乗っ取って関係者面してるんだから、下手すると大きな組織だぜ」

「マズいわね」

「うんうん、マズいです」


 えっと、つまりあのシスターさんは偽物ってこと? そうなの?


「この神父への荷物って、もしかすると?」

「そうね。コトによると、この件に対する警告文でも入っていたのかも」

「神父はもう殺られてる可能性が高いわけか」

「許せませんよねホント!」


 え、神父様そうなの?


「あいつもなぁ神父は『都へ行っている』なんて余計なことを言わなければよかったのにな」

「自分も『都から入れ替わりに』だものね。とても『都の教会に頼まれた荷物』を渡すわけにいかないわよ」


 おおっ!!! そ・う・い・う・こ・と・か!


「そーですよ! ぜったい渡しちゃダメです。ありえませんよ、バカですよそれ」

『…………』

「な、なんですか、その目」

『ううん。なーんにも』


 だから『女の子の友情』ごっこやめろです!!



 ☆★☆★☆★☆★☆★



 村に唯一の酒場に到着。2階にある宿に部屋を取って、ひとまず食事にします。


「んで、なんであいつはシスターの振りをして教会に残っている?」

「誰かが教会に何かを持ってくる。何かを伝えに来る、あるいは、もっと直接的にやがて教会に訪れるはずの誰かが目的、というところ?」

「わからないのが、なんで神父を始末したかだな。『何か』にしろ『誰か』にしろ、神父のもとに届いてから押し込んだ方がいい。今回のアタシらみたいに本人にしか渡さないことだってあるだろうし」

「神父がねらわれているのに気付いた。ううん、神父に受け取らせるわけにはいかない……神父がシスターたちの組織を裏切った?」

「それ、か?じゃあ、この荷物は」

「開けましょう」

『え?』

「荷物の中身を確認しましょう。するべきです」


 あたしはリーダーとして、そうすべきだと思ったんです。


「わかったわ。そうしましょう」

「いいのか? 教会のだぞ? 下手すりゃアタシら冒険者ギルドから追放だぜ?」

「バレなきゃいいんです。だいたいもう受取人の安否は不明です」

「だけどさぁ」

「いいわよ。私たち、ずっとここ一番ではアリシアの直感を信じてきたじゃない」

「……はぁ。冒険者をクビになったら、アタシなにができっかなぁ」

「うふふ。実家に戻れば? お姫様」

「やめろよそれ!」


 たしかに、これは大きな賭けです。外れてたら冒険者廃業。

 でも、開けるべきだって、あたしの心が叫んでいるから。


「これ、なんですかね?」

「うろこかしら?」

「でかいな。見たことがない」

「あと、手紙が入ってます。読みますね」



『モーガン君。キミが教会を裏切っていたことには心底驚いた。だが、その裏切りを告白して身の破滅を招いても、なお守りたいと思った“彼女”の存在にはより驚いた。だが、許して欲しい。私を信じて頼ってくれたことはとても光栄だが、キミの力にはなれそうにない。私の身に余る一件だ。全てを見なかった、聞かなかったことにする私を卑怯者と罵ってくれてもいい。だが、判って欲しい。私にも立場がある。家族がある。キミが教会を裏切って身を投じた組織を敵に回すことは恐ろしくてとてもできないのだ。

 人魚のうろこもお返しする。私は何も見なかった。何も知らなかった。この手紙は読み終わったら即時焼却して欲しい。キミの友人 Sより』


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