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ブラック? いいえダークです。

10/31 誤字報告による訂正を受けました。



 回収した兄貴を前に、彼方の要求はシンプルだった。

「なんで私が遥の代わりに男子校なんて通わないといけないのよ。絶対に納得がいかないの。だから、家出は速攻打ち切って学校通えバカ兄貴」

「はあ!? おま、俺が爺達にガッチガチに人生設計干渉されてんの知っててそんなこと言うとか鬼か!」

「何言ってるのよ。反発するのは構わないけど、私が巻き込まれない範囲にしてよね! こんな思いっきり巻き添え食って迷惑している妹を前に嫌とかぬかすアンタが鬼よ!」

「ぐ……っけ、けどなあ」

「けど、じゃないわよ」

「けど俺、就職だってしたんだぜ!? 今更一般人に戻って学校通うとか職場になんて言えば……」

「はあ? 就職? それってあの巨大ロボに乗ってたことと関係あるんじゃないでしょうね? 家出して身元保証人もいない中卒小僧を採用して巨大ロボに乗せるとか、どう考えても真っ当な職場じゃないでしょう! あの巨大ロボが一体何なのか知らないけど! 絶対、絶対、後ろ暗いところのあるブラック企業でしょ!?」

「な、ぶ、ブラックとか……違うし!」


「そうだね。『ブラック』じゃなくて『ダーク』だよね」


「そうそう……って今の合いの手入れたの誰だ!? 何を知っている!」

「ダークって遥ぁ!? どういうことなの!」

「ど、どうもこうも、お、俺には今の職場に拾ってもらった恩があんだよ! 相棒のゴールデンとも今は超いい感じだし! 今の職場に忠誠尽くすって誓約書も書いたし!」

「誓約書ぉ!? 書類のサインは簡単にしちゃダメだって死んだ父さんが言ってたでしょ!? 何やってるのよ!」

「う、うるさい! なんとでも言えよ。俺はもう、お前の兄貴だった『錦谷 遥』じゃない。一個人の前にゴールデンのパイロットなんだ!」

「父さん母さんどうしよう! 遥がなんか性質の悪い宗教に捕まったっぽい!」

 男子校に通えと迫る彼方。

 職場への忠誠を破る気はないと主張する遥。

 双子の主張は平行線かに見えたのだが。


「『ダークダイヤ』って学業支援プログラムなかったっけ。申請したら平日日中の業務は免除してもらえたよね。代わりに土日の業務が過密化するらしいけど」


 そこでさらりと口を挟むのが、我らが鉄壁マイペース昭君だ。

 彼は平然と、学業と職業両立すれば?と間を取った第三の道を示してしまう。

 鼻メガネのままさらっと口にした内容は、遥が頑なに口を割らなかった『組織』の内情に少なからず触れるもの。予想外の言及に、遥が瞠目する。

「な、な、な……なんで組織の名を……! いや、そもそもなんで学業支援プログラムとか知ってんの!? 俺もそんな制度あるとか知らなかったのに!」

「パンフレットの読み込み不足だね。企業案内のところに書いてあったよ」

「企業案内とかしてんのあの組織!? え、っていうかなんでそれ知ってんの!? もしかしてお前、内部関係者……」

「部外者だけど」

「部外者なのになんでそんな内情詳しいんだよ!! おかしいだろ、おいぃ!?」

「そうだよ、なんでそんなこと知ってるの昭お兄ちゃん!?」

「試し刷りしたパンフレットの誤字チェック手伝いに一時間千円っていうから。あと原稿の一部の推敲作業を手伝った関係?」

「何それどういうこと!? どんな経緯を辿ればそんなお手伝いすることになるの!?」

「知人に頼まれて」

「だから昭お兄ちゃんの人脈って一体どうなってんの!?」

「組織の内部について少しでも知った奴は組織に入るか死かって鉄の掟はどうなった!」

「え、ちょ……っ鉄の掟? 遥、やっぱりブラック……ううん、それよりもっと怪しげなところに就職を!?」

 秘密を知った者はただでは帰さない。

 そんな趣旨の、『鉄の掟』。

 うっかりぽろりと遥の漏らした情報が、あまりに聞き捨てならなかったのだろう。

 彼方さんは鼻メガネを取り去ると、真顔で双子の兄に詰め寄った。

「やっぱり怪しい会社なんじゃないの、馬鹿遥ぁ!!」

「ハッ……しまった! 彼方がここにいるんだった!」

「鉄の掟ってなんなのよ、鉄の掟ってぇ! 昭和のバトルマンガか何かなの!?」


「鉄の掟だったら恋の炎で燃え溶けたらしいよ」


「え、なにそれ……」

「ああ、上手いこと言うね、昭君。確かに鉄って溶けるんだよねぇ……ええっと、錦谷(兄)君? 実は君の上司、にあたるのかな……白い仮面の男の子知ってる?」

「【ダークダイヤ】アジア支部の司令官、通称【プリンス】だよ。和兄さん」

「え、プリンス、って……いきなりなんか超偉い人の名前が……」

「そうそう、その彼。口止めされてるから詳しいことは話さないけど、秘密を知っていることは彼の公認でね。僕と昭君に関しては、鉄の掟云々は度外視して大丈夫だから」

「待って! こんな混乱のさなかで平然と言葉のキャッチボール続けようとしないで! しかも情報量が酷い! 混線する! 混線するから! 多人数とそれぞれ別の話ができるほど、器用じゃないから俺ぇ!」

「っていうかなんで和お兄ちゃんまで謎の人脈作ってるの!? 【プリンス】!? いつの間に悪の組織の幹部と交流の機会なんてあったのお兄ちゃん達ー!」

 それぞれがそれぞれに引っかかるツッコミどころを見過ごせなかった結果。

 話は全然まとまらなかった。

 状況を見るに見かねたのだろう。

 身内の話し合いだろうからと口を閉ざしていた久連松くんが、パンパンと手を打ち鳴らした。

「はい、ちゅうもーく」

 まるで小学校低学年の学級担任みたいなノリで、淡々といきなりの自己主張を開始する。

 この混沌とした現場にあって、涼し気な顔をしている彼に遥は底知れなさを感じた。

「どっちがこの学校に通うにしても、寮で同室ってことになる俺から意見がある」

「あ……悪い、久連松。思いっきり、私達の事情に巻き込んじゃって」

「それは構わないんだが。そう、俺としては彼方には女子高に通ってもらいたいな」

「え……あ、今まで迷惑かk」

「そうしたら堂々と『男女交際』申し込めるし。人目を気にせず放課後デートもできるしな」

「「えっ」」

「けど別に、彼方が今のまま男のふりして通うなら、それはそれでも構わない。ただし」

「「た、ただし?」」

「俺はもう遠慮するつもりはないが。このまま一緒の部屋に住むつもりなら、四六時中人目のない間は俺に口説かれる覚悟を決めてもらおうか。その結果、まあ、いろいろ過ちってやつが発生するかもしれないけどな」

「「えええっ!?」」

 流石は、双子。

 彼方と遥の驚愕に染まった顔は、全く同じ表情をしていた。

 驚きに固まり、思考もフリーズしたらしい遥を見下ろしながら。

 この場において爆弾発言かましてくれた久連松くんは淡々と選択を迫る。

「――さて、どうする? 自由を取るか、妹の貞操を取るか決めるのはお前だ」

「て、貞操言うなしー!!」

 離れて暮らしていても、互いに嫌い合ってのことではない。

 両親亡き後、互いに支え合って生きてきた双子だ。その絆は、切っても切れない。

 先ほどまで一方的に切ろうとしていた立場で、遥の肩身は少々狭かったが。

 しかしやっぱり、妹は放っておけないらしい。

 本気では切り捨てられない。 

 その時点で、遥くんに選択の余地はなかった。


「へ、平日限定でフツーの男の子に戻りまっす……」


 とうとう己の意を曲げて陥落した双子の兄を前に。

 彼方は勝鬨を挙げた。

 



 



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