困惑の兄と妹
前回のあらすじ
突如として男子校のミスコン会場に飛び入り参戦とばかり乱入を果たした巨大ロボ!
そんな巨大ロボを討つべく降臨した魔法少女のお顔には、バンダナと中二加工の施された黒い包帯と鼻メガネが――?
10/16 誤字報告いただきました。ありがとうございます。
宇宙からやって来た巨大ロボ、ゴールデンスクラップαにとって今日はいつもと何もかもが違った。
大きな差異、小さいとはとてもいえない違和感……
その最たるものが、目の前のアレだ。
金属の体から合成された音声で言葉を紡ぎ、ゴールデンスクラップαは思わず問いかける。
『どのような故あって、そのような姿に……何があったというのか、斧璃帝雷武超よ……!』
「聞かないで。お願いだから、聞かないで……ううん、これ以上追及される前にあなたを倒すわ。名前の通りスクラップにしてあげる」
『す、スクラップ……某のトラウマを刺激するとは卑怯な!』
「あなたの過去なんて知らないわよ! くらえ、八つ当たりブーメラン!」
『いま堂々と八つ当たりと!?』
「ついでに日頃の栗鼠への恨みアロー!」
『そなた、栗鼠に一体どのような恨みが!』
なんだか負の怨念を背負って見える、プリティライムベリー。
いつもとあらゆる意味で様子の違う仇敵に、巨大ロボもたじたじだ!
本当に、今日はいつもと何もかもが違った……。
常であれば武器も一つひとつ使う魔法少女が、今日は二つの武器を一度に使っている。
変則的な動きで敵を翻弄しながら切り付けてくるブーメランと、貫通力極振りの弓矢。
そして今、更に三つ目の武装へとプリティライムベリーの手は伸びる。
「私の渾身込めて……その頭部にあるメインカメラを砕く!」
『は、破壊個所の宣言だと……!』
栗鼠の趣味で最近実装された新しい武器……世にいう『方天戟』(※ファンシー加工)を手に取り、メタセコイヤから飛び降りる魔法少女。
その降下軌道は、一直線に巨大ロボの頭部へと続いている。
ひらひらの短いスカートと、リボンを風になびかせながら。
ついでに顔に巻いたバンダナも風になびかせながら。
魔法少女が、巨大ロボのメインカメラへと方天戟を突き立てる!
『ぐぁあああああああっ! 目が、目がぁー!』
「痛覚のないロボットのくせに大げさに騒がないでよね!」
ひらり。
リボン(と、バンダナ)を羽のように躍らせながら魔法少女が飛び降りる。
次の瞬間、先ほどゴールデンスクラップαに避けられていたブーメランが巨大ロボの背中に突き刺さった。
残念ながら日頃の栗鼠への恨みアローは完全回避されていたので行方知れずだが、三つの攻撃のうち二つが直撃したのだから十分といえるだろう。
そして、攻撃の直撃した個所から。
なんだかやたらファンシーなエフェクトがぶわっと噴出した。
キラキラ輝くお星さまと、虹と、愛らしい小動物や花を形作る光のエフェクトが。
無駄なところで魔法少女効果が猛威を奮っていた。
傷口からあんなの噴出してきて全身にまとわりつかれたら、精神的にかなりの苦痛だろう。
戦闘中に不似合いなこんなファンシー効果は狂気すら感じさせた。
相手が無機物の巨大ロボだから破片が飛び散るくらいでまだマシだが……これが他の敵、つまりは生物が相手だったら肉片や血飛沫といった生臭いアレコレと一緒にファンシーが飛び散るのだろうか。
わあ、なんてクレイジーな光景。
このファンシー効果が原因なのか何に気が引けていたのか、今まで攻撃することにどこか及び腰だった魔法少女も、今日は人が変わったようだった。鬼気迫る勢いで、怒涛の攻めを繰り返す。
「今日この日、この場にやってきてしまったことをゴミステーションで後悔しなさい!」
『く……っメインカメラがやられたとしても、まだ負けぬ! まだ終わらぬ! カメラをひとつ潰した程度で某を侮ってもらっては困るぞ、小娘が……!』
しかし魔法少女の攻めが苛烈を極めようとて、敵もさるもの引っ掻くもの。
宇宙からやって来た巨大ロボの肩書は伊達ではない。
魔法少女がわずかに距離を取った瞬間に合わせ、ロボも自身に少しでも有利な間合いを位置取る。
呼び動作を感じさせぬ素早さで、即座に攻勢に転じた。
その腕部、胸部の装甲が外側に向かって弾けるように開く。
そして高らかと、人工音声が自らの覚悟を込めて叫ぶ。
『ホーミングレーザー!!』
レーザーと言いつつ、実際に飛び出てきたのはミサイルだった。
どうやら中の人が発射スイッチを押し間違えたらしい。
ああ、しかし、どうする魔法少女。
攻撃は広範囲に及ぶめちゃくちゃな軌道を取っている!
あまりに被害想定域が広すぎる。魔法少女の小さな体一つではとても全ての攻撃を防げそうにない。
ああ、なんてことでしょう。
まだ校舎には彼女の大切(?)な兄達がいるはずなのに……このままでは、校舎ごと爆死一直線かもしれない!?
こんな時こそ、魔法少女の所以たるマジカル☆なナニかで敵の攻撃を無効化するべきなのだが。
「……っお願い、防いで!」
杖の代わりに方天戟を構えて、魔法少女が光り輝く透明な盾を展開する。
だがそれは、とても学校全域を守れそうな大きさではない。
このままでは、ミサイルが校舎を襲う未来は不可避。
破壊に満ちた未来を予測し、いたいけな男子高校生達は頭を抱えてそれぞれに蹲った。
「くそ……っ彼女のひとりもできない内に死んじまうのかよ!」
「豊彦……実は今まで、ずっと黙っていたけど、俺……」
「な、なんだよ幸男、真剣な顔で」
「死ぬ前に、言っておきたかったんだ」
「や、やめろよ……改まった口調で何言ってんだ」
「実はな、俺……彼女いるんだ。三か月前から」
「……マジかよ畜生! 抜け駆けなしって男の約束だったろ!? 来年の夏! 一緒にバイト代貯めて海にナンパ行く約束はどうなったんだよ!」
「すまん。キャンセルで」
「今この場で死んじゃえよ、幸男ーっ!!」
校舎の中では、死を覚悟した男子高校生の悲喜こもごも彩られた絶望の叫びが折り重なって響き渡る。
魔法少女は己の力量不足で犠牲を出してしまうかもしれないと、歯を食いしばって『光る盾』の出力を上げようとしたが……
「こんな時くらいは……ううん、こんな時こそお兄ちゃん達を頼ってほしいな」
「そうだぞ、あk……あー、うん。兄貴ってのは弟妹の面倒見るのも仕事なんだからな!」
自分の命を削る覚悟を決めて、更なる力を発揮しようと魔法少女が覚悟を決めたその時。
声を張り上げて叫んでいる訳でもないのに、不思議と響く声が耳に届いた。
それは若さに満ち溢れた、青年の声で……
声に聞き覚えは、当然ながらある。
というかこの流れで、聞き覚えが無い筈がない。
ハッと振り仰いだそこに、校舎の屋上から魔法少女と巨大ロボを見下ろす影が……
逆光で、顔が良く見えない。
だけど並び立つ、ふたり。
片方は防御力の高そうなローブに身を包み、片方は不思議な虹色の光沢を放つ鎧を身に纏った姿で。
期待していなかった助力が、誰より頼りになる助っ人がそこに………………
助っ人が、そこに。
「うおおおおおおおおおおおおおっ 神意を帯びて輝け、『センチメンタル涙空』! 『涙ぐむ渚のマーメイド』ぉぉおおおおおお!!」
助っ人の片方、鎧の男が叫びをあげる。
その声に反応してか、装備している鎧と盾がチカリと不思議な色に瞬いた。
間を置かず、ぶわっと大きな風が吹き抜ける。
不可視の壁が、そこに現れたかのように。
校舎に向けて放たれたミサイルが、全て弾かれ……いや、下から掬い上げるように跳ね上げられて空へと打ちあがる。すかさずローブの人物が何かを投げつけ、ミサイルは上空で破裂した。
もうもうと、火薬臭い煙が空に一瞬留まり、風を受けて千々に流れていく。
だけど、そんな窮地を救ってくれた功績よりも。
何よりも、『彼ら』を見た者の視線を奪って離さない、その姿。
………………重厚なローブと、不思議な鎧に。
鼻メガネをしっかりぴしりと装着した二人組が、太陽の光を背負ってそこにいた。
無駄にバリエーション豊かなようで、鎧の鼻メガネはカイゼル髭でローブの鼻メガネはちょび髭だった。
魔法少女と、巨大ロボは向き合ったまま。
だけど互いに、空気が固まった気がした。
あまりに異様な光景に、鼻メガネ仲間の魔法少女も身動きが取れない!
しかし事態は時間と共にずんずん進む。
魔法少女と巨大ロボの時間が停滞しようとも。
ぴょこり。
屋上の、逆光の中で佇む怪しい鼻メガネ二人の脇に。
四人目(魔法少女含む)の鼻メガネがひょこっと頭を出してきた。
そして第四の鼻メガネの立派なお髭は、サンタクロース風味だった。
サンタ鼻メガネ氏はちょいちょいとローブ鼻メガネの袖を引く。
真っ直ぐと巨大ロボの方をさりげなく指差し、何かもごもごと伝えているようなのだが。
サンタ髭に阻まれて、その口がどんな言葉を紡いでいるのか全く見当がつかない。
そうこうする内に、伝達事項を伝え終わったのだろう。
ローブ鼻メガネは一つ確かに頷くと、
屋上で、弓を構えた。
「どっから出したのー!?」
魔法少女が思わず叫ぶ。
それまで手には、それらしい物なんて何も持っていなかったのに。
急に手の中に弓矢が出現したように見えた。
何処からともなく武装を取り出した、という点についていうのであれば魔法少女も先程ブーメランやら弓矢やら方天戟やら取り出していたが、方天戟以外は光で形作られた実体のない魔法だ。そして方天戟もマジカル☆なステッキが変形したものである。無から物質を作り出した訳ではない。
何が起きたかわからず、驚愕に魔法少女が打ち震える中。
ゼロコンマの短い時間で、ローブ鼻メガネの速射が放たれた。
それは、あきr……サンタ鼻メガネが指さした通り、真っ直ぐに。
風を裂き、空気を貫いて。
巨大ロボの左脇腹よりやや上部に突き刺さった。
『な――しまっ』
巨大ロボがその巨大な手で破損個所を押さえるも、もう遅い。
肝心の部分は、既に破壊されてしまった。
――『緊急開閉ボタン』が。
そうして巨大ロボとしてこの世に生を受けた時からの仕様通り。
巨大ロボの胸部――最も大事な『心臓部』が、強制的に開かれた。
「う、うわ……っ」
『錦谷殿……!』
焦りに満ちた、ロボの合成音声。
押し出されるように、転がる出る何者か――否、『中の人』。
パイロットスーツに身を包んだその人の名を、この場で巨大ロボと一人だけが知っていた。
「うそ、そんな……
はる、か……? 」
こうして一年半もの間、離れ離れになっていた双子の兄と妹は。
困惑と混沌の中で再会を果たすのだった。
ちなみに清和の最近のマイブームは『真・三●無双』。
ちなみに小林は無双系のゲームやったことありません。
とろい上にテンパるのでアクションゲームが苦手なので!