プロローグ
――あ。俺、死んだな。
ラヴィは魔王の最期の一撃を全身に受けながら、自分の死期を悟った。
勇者が繰り出した渾身の一撃に魔王は滅ぶはずだった。やっとここまできた。魔王討伐メンバーは誰もが安堵し、それゆえに一瞬の隙ができた。魔王は滅びる前に最期の力を振り絞り、稲光する黒い魔法を繰り出してきたのだ。
標的は聖女。それをラヴィは庇った。
聖女の体を突き飛ばし、黒い光に呑まれながら、呆気なく終わる生にラヴィは苦笑いをする。
――ここまでか……ま、それもありかな……
泥まみれのスラム街出身の自分が勇者に拾われ魔王討伐パーティーなんかに参加したのがそもそも奇跡に近いことだった。
しかも自分のジョブは、シーフ。盗むことしか能がない。多少、料理と薬草の心得があるため、旅路の中では他のメンバーのサポート役として参加していた。戦闘ではからっきし。まるで役立たずだった。
そんな自分が魔王討伐メンバーとして凱旋したら、ちゃんちゃらおかしい。
だから、ここで散るのはありだな、とラヴィは思ってしまっていた。
薄れゆく意識の中、聖女が眼を広げてなにかを叫んでいる。悲壮感に溢れた顔を見ながら、"気にするな"と言いたくて口角を上げようとした。固まり動かなくなる体では、ぎこちない笑みしかもう作れない。それでも、笑えるのであれば最期に見せる顔としては良いだろう。
絶望よりも笑顔を。
そう思ってしまうのは、ラヴィが仲間に会えたことを感謝していたからだ。
王女という立場にも関わらず自分に優しかった聖女サラリア。
いつも自分を可愛いと甘やかした魔法使いのモンフィス。
そして、自分を汚泥から拾った勇者バルバロス。
"ついてこい!"と、言われ伸ばされてた手に導かれ、自分はここまでやってきた。
あの時、あの手に導かれなければ、人の優しさなんて知ることはなかった。
だから、死のうというのに心は晴れやかだ。
――よかったな。サラリア。怪我なくて。
ラヴィは最後にそう思って、目を閉じた。