(短編その1)日によって変わる朝は巡る
魔術使い達の日常を淡々と垂れ流すだけの物語です。
最初、一人称、そのあと三人称視点に変わります。
歯車の音が鳴り響く。
軋むように音を上げ、壁を這い、この場所を世界と切り離す。
ポンプが唸り、心臓までをも振るわせる。
吐き出した深緑と蒼碧は溢れてしまっていた。
日の光はなく、自然光は此処には無い。
ただ、仄かに眩しい皮を被った太陽の種が、薄明かり橙に照らすのみである。
部屋の照明に使うために、麻のロープで纏められ、天井から吊り下げられている。
草の青臭さと紅茶の匂いが部屋を操り、動く空気の匂いに釣られて妖精もむくりと起き上がる。
ドアをくぐればここは魔術の星だ。
半開きのドアから差し込む光は、新鮮な空気を運んでくる。
時刻は六時半。
もう十分すぎるほどに朝だった。
朝日が廻廊を覗き、光の粒は白藍色に反射する。
体に朝を知らせるために一度中庭を通る。
冷えた空気は私を靄から覚醒させ、天窓から眩し過ぎるほどに差し込む輝く光は、私の髪をまるで純白であるかのように染め上げた。
朝食を取るために上階へと足を動かす。
話し声が微かに聞こえ始め、寥廓たる城にひとり、孤独に泣く白髪の無垢に家族の存在を知らせる。
日によって変わる朝は巡り、喜悦へと遷り変わる。
そこで私を待つのは、家族で迎えなければならない大切なときだった。
部屋に入ったとき、朝食の準備は既に始まっていた。
天井まで届く本棚が数十。
その横にキッチンと食事ができる場所がある。
作ったのは家族の一人だが、今では安らぎの空間だ。
朝の挨拶とともに、七つのカップに珈琲と紅茶を入れる。
紅茶を四つ、珈琲は三つ。手挽きミルを働かせ、ガラス製のティーサーバーを準備した。
これを淹れるのは私でなければ駄目だ、と口揃えて言うのが私の家族だ。
朝は飲み物とクロワッサン、リンゴやオレンジなどのフルーツやヨーグルト、ハム、チーズを薄くスライスなどしてさらに飾りをつけたものを一人分。長角皿に盛り付け、簡単なもので済ませる。
いつも朝を賑やかにするのは会話だった。
「今日はみんな何するの?」
予定を知りたいと、この中で最年少のサンが聞いてくる。
サンは白姫たちにとって、娘、もしくは妹のような存在である。
「私は実験で触媒が必要になって…翡翠炎と恋萃華が無いから、地下室に作りに行ってくるよ。多分、半日くらい潰れそう」
「あー…けっこう使うやつだよね、それ。頑張ってー」
サンは触媒づくりを応援してくれた。
「あ、じゃあロゼ葉のも作ってくれない?」
カイルはついでにと言わんばかりに頼んでくる。
「それって、華毒焔のことでしょ? 嫌、絶対に、嫌。そもそも、それって作るのに翡翠炎と恋萃華いるし、自分で使う用だったら自分で作ればいいじゃない。まあ、余ったらあげるけどね」
どうせ余らないけどと、作るのも使うのも面倒な触媒の話はここまでにしておきたかった。
「あんたこそ何するの?」
「じゃあ、俺も触媒づくりを―――」
「…ちょっと待ってください。さっきから黙って聞いていましたけれど、華毒焔って焔龍呼圧のやつじゃありませんでしたっけ。ひょっとしてまた山火事起こす気でいます?」
魔術、それも実験になると、事故を起こすのは仕方のないことだった。
「白姫も、なんでそこをスルー出来るんですか。冗談はやめてくださいよ、あのときも大変だったでしょう?」
「城の半分が吹き飛んだやつ? あれは別に許してくれても良いでしょ、私が五分で直したんだから」
「直したかどうかが問題じゃなくて、城が半分無くなったっていうのが問題なんです! あーほら、思い出してくださいよ……あのときのハバロスさんの顔、般若みたいな顔していましたよね!」
「…………ハンニャってなんだっけ?」
サンは疑問に思ったのか、白姫にそう聞く。
「あの…ほら…あれだよ…日本の鬼…の顔した女の人? のやつ。お面だっけ」
白姫も、たいして上手く説明ができなかった。
「確かサンスクリット語じゃなかったか?」
「それどこ情報? なんかで見たの?」
「なんの、話を、しているんですか! とにかく怒った顔ってことじゃあないんですか? もう…これからも十分気を付けてくださいね。お願いですから…」
アリスはため息を一つ。次の話題へと移ろうとする。
「私は今日も園芸しますよ。シクラメンが一昨日から綺麗でして…それに応じて花壇も整理しようかなと、思っています」
「あの花、シクラメンっていうんだ、近くに見に行ってみたいな。今日はアリスについていこうかなー」
「あ、来ますか? 歓迎しますよ」
「私はここで読書」
「あ、じゃあ僕もここで勉強します」
金髪にシアンが混ざった髪色の姉弟であるルーシーとアーサーはそう言いながら経済紙を読む。
一部を片方ずつ持ち、横に並んで見ている。時々、難しい意見が飛び交った。
通読どうもありがとうございました。