白 邂逅①
食い逃げ事件の次の日、おっさんの様子が変だった。何か考え事をしているようで、でこにしわを寄せながら爪楊枝を咥えている。
「どうしたの?おじさん、昨日のこと?」
食器を片付けながら気を利かせて由美子さんがおっさんに尋ねてくれた。おっさんははっと顔を上げて、笑った。やはり何か変だ。
「ん?あぁ…はは」
「何かあったのか?」
「・・・内緒なんだがな、昨日の犯人は誰かに頼まれて犯行に及んだらしい。」
「あはは!なーにそれ、食い逃げしてくれってお願いされたってこと?変なのー!」
「ガッハッハ!そうだな!変だなぁ!」
楽しそうだ、けど、おっさんの目は笑ってなかった。
「由美子ちゃん、お勘定ね。行くぞ白。」
「あぁ、ご馳走さま。」
「ありがとう!また来てね、」
店の暖簾をくぐろうとした時、由美子ちゃんと目が合った。微笑んでくれたけど、どこか寂しげで。
まるで、あの時の先生みたいーーー
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〜プレイリー公園〜
おっさんは俺と初めて出会ったベンチで立ち止まって、腰掛けた。俺も隣に座った。おっさんはポケットからタバコを取り出したが俺の顔を見ると少し笑って、またポケットにしまい直した。
「別に吸っても構わないぞ。」
「俺はガキの前じゃ吸わねーの。」
少しカチンときた、子ども扱いされたのは久しぶりだった。
「もうガキじゃねぇよ」
「お前なんか俺からしたら子供だっての。それよりさっきの話だが。」
真剣な顔になっておっさんは続けた。
「お前、気をつけた方がいいかもしれねぇ。」
「・・・」
「あいつは頼まれた、と言ったんだ、でもよ、俺たちが入った時、席は俺たちが座った2つしか空いてなかった。後から入ってきた客もいない。つまりそいつは俺たちが来る前にはそこにいたんだ。俺たちが来ることを事前に知らされてな、出ていったタイミングも妙だ。お前に因縁つけるためかも知れない、お前が″能力持ち″っていうのもあるし、何か気になるんだ。」
おっさんは俺の方を見た、優しい目だった。
「なぁ白、心当たり、ないか?」
「ある」
「・・・」
おれはおっさんに話すことにした。15年前のあの日のことを。
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「 て 」
な……んだ…?
「 お き や 」
姉…ちゃん…?
ベシッ
「いっ!!!」
鈍い痛みで目が覚めて飛び上がると同時に口を塞がれた。
「しー!静かにして。先生のところに行くのよ、急いで。」
真っ暗…まだ夜中じゃないか…でも何かがおかしい、姉ちゃんがいつもと違う。焦っている、のかな。よく分からない。
みんなでリビングに集まった。先生も落ち着きがない。
窓の外を見た。ひどい雨だ、遠くで何かが光っている、車のヘッドライトだ…。
ぼーっと眺めていたら突然姉ちゃんに腕を掴まれて引っ張られた。
「痛い!」
「何してるの!早く逃げるよ!」
先生は僕に近づいてきて、頭を撫でてくれた。
「白、恵水の言うことをきちんときくんだよ。」
いつもの優しい声、でも、どうしてそんな悲しそうな表情をしてるんだろう…
そのまま裏口から外に出た。まだ腕がジンジンする。
みんな駆け出していった。
僕も姉ちゃんの手を引いて走ろうとした、でも姉ちゃんは動こうとしなかった。
「白、あんたは一人でいくの。」
「姉ちゃんは?」
なんだろう、この感覚は
怖い、姉ちゃんにもう、会えないような
「後で追いつくわよ」
嘘だ、目を見て言ってよ、ねぇ
姉さんの腕を引っ張った、そしたら急に体が引っ張られて。
″あなたは生きて″
雨の音がうるさかった、けど確かに耳元で、姉ちゃんは優しく言ってくれた。
走った、とにかく走った。息が切れて喉が焼けそうだった。もう少し、あと少しだけ……!!
突然目の前が真っ白になった
轟音
目の前だったんだ。
ポケットで何かが震えた気がした
あぁ、死んだ、確かにそう思ったーーー
気がつくと地面に倒れていた、雨はやんでいた。
不思議と体が軽かった
なんだか…眩しい…
いや、光っているのは、僕?
姉ちゃんは、先生は、みんなは…?
周りの景色には見覚えがあった、確かここから家までは…急がなきゃ…一刻も早く…
気がついたら目の前に孤児院があった。
いや、孤児院だったもの、か。
屋根は落ち、壁もボロボロ、そこらじゅう水浸しでひどい臭いがする。
姉さんはどこに行ったんだろう、
いや、きっと車のヤツらにさらわれたに違いない、見つけてやる
絶対に
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「その車に乗ってきたやつらなら俺を狙うかもしれない」
「だけどよ、それって15年も前の話だろ?なんで今さら白を狙うんだ。」
「・・・分からない、手がかりがなさすぎるんだ。」
「…まぁ俺の方で色々調べてみるよ、15年前の資料一通り漁ってきてやる。」
「・・・ありがとう、おっさん。」
自然と笑みがこぼれた。
「おうよ!この正義のおじさんに任せとけってんだ!」ガッハッハ
おっさんは資料室に行くと手を振って去っていった。俺も何か情報を集めないと。やっと掴んだかもしれない手がかりなんだ。
尻が痛い、流石に長話しすぎたかな。
立ち上がろうとすると、ふと誰かが近づいてきて、俺の前で立ち止まった。黒いスーツをきた眼鏡の男だった。なんだ、この気味の悪い目は、どす黒くて、吸い込まれそうな…
「キミが″白色″だな。」
逃げようとした、だが、体がが動かない。気がつくと黒スーツの男達に包囲されていた。
「何、だ、」
脂汗が背中をつたっていくのがわかった。
「そんなに怯えることは無いじゃないか、君を探していたんだよ?」
優しく引き込まれるような声色が更に不気味だ。
「私は黒臣、君と同じ″能力持ち″だよ。」
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〜プレイリー警察署の資料室〜
薄暗く埃っぽい部屋の隅で正義はリビングライトの明かりを頼りにまずは孤児院について調べていた。
「あったぞ、アイリス孤児院!
『アイリス孤児院 院長 アイリス・ブライト ジーニー・クリーナー博士の多額の寄付により設立されたこの孤児院は……』
ジーニー博士、か、次はこいつだな。」
日本語が崩壊してきた