プロローグ
〜アイリス孤児院〜
真っ暗な夜だった。
叩きつけるような雨の音で僕は目が覚めてしまった。
同時に、勢いよくドアが開き、先生が入ってきた。
「皆!起きるんだ、早く!」
何があったんだろう…みんなも怯えた様子だ。
窓の外を見ると門の前に車が止まっている。
扉が開いて3人の男が降りてきた。近づいてくる…!
「君たちは裏口から逃げなさい。
ごめんね、最後まで面倒見てやれなくて
ーーお守りは持ったかい?いい子達だ、さぁ急いで。」
見た事のない先生の目
いつも優しくてのんびり屋さんだった先生
そんな先生がこんなにも焦るなんて…
′先生は?′
「先生は大丈夫だよ、あの人達と話が済んだらすぐに追いつくから先に行ってなさい。」
先生は笑っていた。
「大好きな、私の宝だよ、君たちは。さ、早く行って!」
みんな知ってた、先生は隠し事が下手だった
何か隠している時はいつもこの顔をする。
でもみんな先生が大好きだから。知らないふりをするんだ。
裏口から出ると森が広がっている。
薬草を取りに行ったり川で遊んだり僕らにとっての大きな庭だ。
でも、その日は雰囲気が違った、夜の森は初めてで…ーー
飲み込まれそうだった。
みんな散り散りに駆け出した。
先生は嘘はつくけど、約束は破ったことなかった。
だから絶対後で会える。
みんなその一心で走っていたんだと思う。
でも…僕だけは最後まで先生と一緒に…
ドアを開けると、先生が仕事の格好をしていた。時々先生はこの格好で出かけてしばらく帰ってこなかった。そんな時は1番年上だった僕が他の子の面倒を見ていた。
′先生′
ビクッと背中が動いて、振り向いた先生は僕に気がつくと悲しそうな顔をした。
「…っ!何してるんだ…!
…この部屋の中に隠れてなさい、絶対に音を立ててはいけないよ。」
優しいいつもの先生の顔だった。
扉が閉まる…
先生……!
手を伸ばそうとした。
ぼやけていった先生は
ーー泣いていた
僕は先生から貰ったお守りをもって震えていた。
突然
大きな雷鳴
ーーー光
目の前が真っ白になった。
手の中でお守りが震えて、真っ二つに割れた
何かが僕の中で動いている。
体が…ひかりだした…!
扉が乱暴に開いた。
男達が僕に手を伸ばしてくるーーー
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ーー暗い、眠っていたのか
寒い…ここは、どこだろう。
目が慣れてくる
ーー辺りは水浸しになっていた。
真っ青に変色した奴らが2つ転がっていた
僕が、やったのか?
水に映った姿
これが、僕か。
みんなは大丈夫だろうか、無事逃げ切っただろうか。
楽しかったあの頃はもう戻ってこない
先生…
「先生!」
周りを見渡すが、先生の姿はなかった。
どこに行ったのだ…
探さなきゃ、先生を。
連れ去ったのはこの腐った水袋どもの仲間に違いない。
2つ…
降りてきた奴らは確か3人だった。
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車の音がした。