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雨の降る日に二人、共に在れたなら

雨の降る日に貴方と二人、共に在れたなら

作者: 夜狐の千年歌

梅雨を、雨を、夏をテーマに書きました。




 湿った空気、灰色の雲に染まる空。

 生ぬるい風は湿気でベタつく肌にまとわりつく様でした。

 もうすぐ雨が降る、と(ツバメ)が鳴きます。

 やがて降る雨は激しく地面を叩き、雨粒は水面に波紋を広げます。

 それでも、そんな日にも嵐の日も傘を差して雨を眺める少女が居ました。


「雨の日は精霊さんに会えるから、嫌いじゃないわよ」


 少女はそう言って穏やかに微笑むのです。



 これから紡がれるのは、雨が嫌いだった少女と、少女に雨を好きになって貰う為に奮闘した精霊の物語です。






 雨の日の小さな雨粒から生まれた精霊が少女に初めて会ったのは、少女が随分幼い頃の夏でした。

 やはりその日は雨が降っていて、少女は傘も差さず迷惑そうな表情で走っていました。


 ()()()は僕ら精霊が見え、触れる事や会話も出来る。

 そして愛し子が精霊を愛し、精霊も愛し子を愛する事が出来る。


 そう他の精霊に聞いていました。

 だから精霊は目の前の愛し子もきっとそうなのだと思っていました。

 そして精霊は自ら愛し子に声をかけました。


『ねぇ、(愛し子)

雨は嫌い?』

「……え?」


 雨の降る中、精霊が声をかけた事で幼い少女は戸惑いました。

 それは、二人が傘も差さずに雨に降られながら立ち止まっていた為、当然の戸惑いだったのかもしれません。


『僕は(愛し子)に雨を、好きになって欲しいんだ』

「お兄ちゃんは、雨が好きなの?」

『うん、勿論

雨は植物の恵みにも、巡ってまた雨にもなる愛し子の飲み水にもなるんだ』

「……むずかしい」

『そっか、じゃあ雨が綺麗って事を教えれば好きになってくれる?』

「きれい?」

『ふふっ、見せてあげるね』


 精霊はそう言って雲だけを操り、少女に美しい青空と虹を見せました。


「きれい……」


 少女は拙い声でそう言い、呆然と虹を眺めました。

 精霊が生み出した虹は少女の目に焼き付き、時々夢を見る様になりました。

 そして精霊はそんな雨を好きになったと幸せそうに笑った少女を見守っていました。



 幸せそうな愛し子を見て、心がぽかぽかと暖かく感じた。

 だから僕は愛し子に呼びやすい名前を教えた。

 元の名前はエルレインだが、愛し子にはレインと呼んで欲しかった。


『覚えててね

僕の名前はレイン

雨の精霊なんだ』

「れいん?

私は時雨って言うの」


 そしてこれは後に精霊が本人に聞いた事だが、愛し子が挨拶とは言え名前を教えてくれた事が嬉しかったのです。






――――――






 いつからか季節を問わず、雨の降る日に私の前だけに精霊さんが現れる様になった。

 私の覚えている限りでは高校生になってから間もなく、その日はやっぱり雨の日だった。

 この様子だと折角咲いた桜が散ってしまうと窓の外を眺め、残念に思いながら学校の廊下を一人で歩いていた放課後。


『久しぶり、僕らの愛し子(時雨)

相変わらず、雨の事は好きでいてくれてるかな』


 穏やかで柔らかい声が私を呼んでいるのだと気付いたのは、私の名前を呼ばれた事と、精霊さんが目の前に立っていたからだったのをよく覚えてる。

 精霊さんの日本人とは違う顔立ちや身長が、サラリと流れる白銀からグラデーションの様に紺色に変わる美しい髪や、柔らかな雰囲気を作り出す垂れ気味な紺色の瞳が、ほんの少し懐かしさを呼ぶ。

 精霊さんの「久しぶり」と言う言葉から、以前どこかで会ったかな……と、最近の記憶を掘り返したけど思い出せなかった。

 一度会えば忘れなさそうな程に綺麗な顔だったのに……

 私はナンパと断定した。


「雨?今降ってる雨ですか?

こんな厄介な物、嫌いに決まってるじゃないですか

それに、放課後とはいえ学校で堂々とナンパですか?」


 その時の私は雨なんて大嫌いだった。

 一度、幼い頃に見た夢の中で雨について誰かと話して虹を見せて貰ったけど、私にとってそれは結局は夢の様な出来事に等しかった。

 その後、私は精霊さんに私の名前を何故知っているのかと、精霊さんの名前を聞いた。


愛し子(時雨)は以前僕と会っていて、その時に名前を教えて貰ったんだ

改めまして、僕の名前はエルレイン

以前の様に、レインって呼んで』


 この時、精霊さんがほんの少し悲しげだったのをよく覚えてる。

 これが、私が覚えてる精霊さんとの出会いだった。






 あれから一年、相変わらず精霊さんは雨の日に何故か、いつも私の前だけに現れる。

 そしてこう言う。


「やぁ、今日も可愛いらしいね、僕らの愛し子(時雨)


 いつも通りの湿度と気温差の激しい朝。

 いつも通り唐突に降る雨。

 いつも通り気温の高い昼。

 いつも通りの日常。

 いつも通りに友人と別れる放課後。

 一年経って私の変わった所と言えば、精霊さんへの恋愛感情が芽生えた事ぐらいかな。

 それから、私は精霊さんの事をもっと知りたいと思う様になった。

 そしてそう思ってる内に気になる事が出来た。


「ねぇ、そう言えば私最近精霊さん(レイン)以外の精霊さんに会ってないんだけど、精霊さんは普段他の精霊さんとどういう風に接してるの?」

『あぁ、僕はほら見ての通り、雨の精霊だからね

雨の降って無い日なんかはよく――――

『エル!

愛し子!

そろそろ大きな風が来るよ!』


 レインが何かを言いかけた所で、小さな風の精霊さんが楽しげに声をかけてきた。

 そして風の精霊さんに言われてから数秒後、本当に大きな突風が来た。


『ひゃっほーい!』

「きゃあっ!」

『っっ!?』


 風の勢いに乗って風の精霊さんはやはり楽しげに流されて行った。

 その拍子に私の持っていた傘が勢い余って飛んだ。

 多分、この時に私の着ていた制服のスカートも……


「レイン……見た?」

『…………』


 レインは頬や耳の先をほんのり赤色に染めて目を逸らした。

 いわゆる、突風によって起きたパンチラ……。

 精霊さんでも恥ずかしいんだ……と思うのと同時に、私自身も凄く恥ずかしかった。


 後でレインから他の精霊さんからは『エル』と呼ばれていると聞く事が出来た。






 最近、何故か精霊さんと一緒に居て不意打ちの様にドキッとする事があった。

 最近で言うと、台風の日だろうか。

 あの日は休日だった。

 そして台風と言ったら雷。

 私は雷が嫌いだ。

 ちょっとだけ違うか。

 嫌いと言うより、怖い。

 あの大きな音は心臓に悪い。

 そして私は雷の音を聞くと動けなくなる。

 だからその日、私は学校からの下校中に動けなくなった。

 勿論、隣には精霊さんが居る状況で。


愛し子(時雨)、もしかして雷苦手?』


 ピッシャーンッッ!!


「っっ!?」


 精霊さんが隣に居てくれている事への安心感よりも雷への驚きと恐怖で腰が抜けた。

 しかも学校の外で。


「……精霊さん、ごめん

腰が抜けちゃったみたいで、立てない……」

『え……』


 精霊さんを困らせちゃ駄目だろう。

 分かっていても、腰は抜けてるし動けない。

 力が入らない……。

 身体が雨で徐々に濡れてく。

 傘はさっき驚いて手放したせいで地面に落ちた。

 本当に何やってるんだろう。

 色々最悪過ぎて頭が自然と俯く。


 ザァー……


 雨音がやけに大きく耳に残る。

 精霊さんの私を呼ぶ声が少しだけ遠く聞こえる。

 その時、ふと身体が浮いた。

 ……浮いた?

 そう思って上を向くと、精霊さんが真剣な顔で私を抱き上げていた。


『とにかく雨宿り出来る所に行くよ』


 そう言って近場の公園まで行き、屋根のあるベンチまで、いわゆるお姫様抱っこされた状態で連れて行かれた。

その時精霊さんが格好よく見えて、本当にドキドキした。

 その後、私の冷えた身体をどうにか温めたくて、精霊さんと手を繋いで肩寄せ合って……雨が止む頃には背中を合わせて座ってた。



 もう本当に恥ずかしいやら心臓がドキドキするやら後半はちょっと安心しきってたけど……。

 後から考えると、あれがきっと私と精霊さんが二人きりの甘い時間を過ごした事になるんだと思う。




 雨が降る日は朝から精霊さんに会えるし、ずっと一緒に居るけど、長くは話してないのがいつもだ。

 それでも精霊さんと一緒に居ると話さなくても安心するし、精霊さんと目を合わせて話す時や、精霊さんのほんのりと冷たい手に触れられる時は心臓がドキドキする。

 今や精霊さんは私の大切で――――好きな人だ。






 自分の想いを自覚したのは、クラスの友人である蛍ちゃんに指摘されたからだった。

 その日は晴れていて、精霊さんは傍には居なかった日だった。


「ねぇ時雨、最近何か良い事でもあった?」

「え、どうして……」

「最近凄く表情が豊かだし、雨の日なんかは凄く楽しそうだから、そうなのかなーって思ったんだけど」

「えっと……」


 どう答えれば良いのかが分からなくて、どうにか誤魔化そうとしていたら、蛍ちゃんはイタズラを思い付いたかの様にニヤリと笑って爆弾を落とした。


「もしくは、好きな人が出来たとか?」


 ドキッ


「…………」

「え、図星?」


 一瞬思考が止まった。

 心なしか顔も少し熱い気がする。

 蛍ちゃんも冗談のつもりで言っただけで、本当に当たるとは思わなかったみたい。


「好き……

もしかして私……」


 レインの事が好きなのかな……。


 口に出す事は出来なかった。

 まさか蛍ちゃんの何気ない一言で自覚するなんて……。






 そしてまた一年後、私は高校を卒業する歳になった。

 前日は凄い雨で、今朝も白み始めた霧の中でレイン(精霊さん)はいつも通り、穏やかに私に微笑みかける。


『おはよう、僕の時雨(愛し子)

「おはよう、レイン

今日も雨降るの?」

『いや、今朝は丁度朝靄があるから、時雨と会えているだけかな』


 いつもと違うのは、レインが私の名前を呼ぶ様になった事。

 そして僕ら、では無く僕の、と言ってくれる様になった事。

 ほんの少しの些細な違いだけど、それでも私はそれが嬉しくて幸せだと思える。

 そして、レインに私と最初に会った頃の話や、私自身の事を最近聞いた。

 私は精霊さん達の間では力のある人間として、「愛し子」と呼ばれている事。

 「愛し子」は他の人間とは違って、精霊さん達や他の存在が特別に見える事。

 そして、「愛し子」は精霊さん達と愛し合う事が出来ると言う事。

 この説明を聞いた時、私はレインと愛し合う未来を想像してしていた。






―――――






 精霊は時雨(愛し子)に人として生きるか、精霊と共に生きるかを選択させる事が出来ます。


 遠回しに説明に織り込む事しか出来なかったけど時雨は気付いただろうか。


 精霊は、ほんの少し悲しげにそう呟きました。

 実際、二人が気付いていなくても必ず選択する時は来ます。

 精霊が時雨自身の事を考えるなら、きっと人間と一緒に過ごして欲しいと少女に言うのでしょう。

 それでも精霊は、自分の気持ちを優先させて良いのなら……僕は時雨とずっと一緒に居たいとそう願うのでした。




終わりが見えないので今度、連載版書きます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雨の精霊と時雨の淡く儚い触れ合いが、雨音を背景にするように描かれて、優しさと少しの切なさを感じさせました。 薄い藍色の紗がかかったような世界観が綺麗でした。 [気になる点] 時雨がどのよう…
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