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因みに

作者: 滝乃睦月

 おねえちゃん良かったら手に取ってみて、すごい似合うと思うよ、興味無い? んじゃまた今度! お兄さんかっこいいね、これつけたらさらに格好良くなるよー。無視って、おーい。

 何してんだ、俺。

 近所の公園でフリーマーケットがあると聞き、掘り出し物を手に入れ転売、あわよくば小遣い稼ぎになればと思いやってきたもののほとんどが子供服等の古着ばかりで来る前に想像していた楽器や絶版本、美術品なんかは無かった。暇つぶしとあわよくばというのが目的だったので一通り見て回って帰ろうと思い出口へ向かった。日曜日という事もあって小さい公園ながら沢山の人が見に来ていた。娯楽の少ない田舎なのでこういった催しはやたらと人が集まる。巡回中のパトカーも暇つぶしに来ているみたいだった。天気が良い。

「お兄さん、ちょっとこっち来て」

 声の方を向くと、出口近くで店開きをしていたお姉さんが手招きしていた。見た目が好みだったので近づいて見ると商品は他の店と違い用途がよくわからない物と手作りっぽいアクセサリーが並んでいた。適当に商品を見て、へぇーとか、うーんとか言って帰ろうと思っていたらお姉さんが急に手を掴んで「少しの間店番してくれない? 漏れそうなの」と言ってきた。「漏れそう」という言葉に反射的に「いいっすよ」と返すと、お姉さんはにっこり笑って、商品の値段は僕が決めていいって事とその間の売上はバイト代って事であげるからと早口で伝えるとその場から立ち去って行った。そんな適当でいいのか? と呟きながら、トイレならすぐに戻るだろうとお姉さんが座っていた折りたたみ式のイスに腰掛けた。頭の中で、どうにかしてあのキレイなお姉さんと仲良くなれないもんかなと考えながら。

 女のトイレは長い。店番のお礼に差し入れでも買いに行ったのかな? 歳はいくつだろうか? 彼氏はいるのだろうか? あれやこれや考えるのも飽きてしまったので暇つぶしに、並べてある商品を見てみることにした。 手作りっぽい皮のブレスレットのアクセサリーやら変な文字が書いてあるお香、お茶の葉のパック、何かの種、瓶詰めの灰のような物がずらりと並んでいる。それはもう小洒落た洋服屋のそれに見えた。家族連れが多いフリーマーケットの客層を考えると売れそうに無いなと思いつつも暇だし、今自分は店番している訳だからせめて一つでもさばきたいという気持ちが湧いてきた。まあ少しでも売れればあの姉さんがご褒美をくれるかもしれないという下心なんだけど。

 手当り次第に通りがかる人に声をかけてみると意外と立ち止まって商品を見てくれた。家族連れのお客さんには得体のしれないお茶の葉を勧めてみる。そもそもお茶の葉かどうかも知れないパックを。嘘も方便。

「これはミャンマーのお寺で最も好まれている茶葉でそのままでもミルクをいれても美味しいですよー」なんて言うと、旦那さんの食いつきは良かったものの、奥さんの方がインド産なら買うけどねぇ、なんて言いながら立ち上がって行ってしまった。

インドでもミャンマーもたいして変わんねーから、なんて心の中で悪態をつきながら見送る。次に立ち止まった若いカップル。

「このブレスレットお兄さんが作ったの? ヤバイ、チョーウケるんだけど」「ヤバイ、この葉っぱ吸ったらキまんじゃね? てゆーかこれその辺に落ちてるやつじゃね?」「リョーちん天才!」「だろ? おにーさんゲスな商売してんねー、俺は引っかかんねーけどあんま無茶すると捕まるよ?」と散々冷やかして行ってしまった。そもそも俺の店じゃねえんだよと聞こえないように呟きながら、一向に戻って来ないお姉さんにだんだん腹が立ってきた。

とりあえず一服って煙草を吸うついでに客寄せになればとお香に火をつけてみた。ゆっくりと立ち上る薄紫色の煙り。匂いを嗅いでみるとよくあるお香の匂いは全くなく、ただただ煙い。それこそ枯葉を燃やした時の煙りのようだった。お香はすぐに地面に突き刺して消した。さっきの若いカップルが言っていた事を思い出して、急に不安になってくる。これは詐欺になるのか? そもそも得体の知れない物を並べて頼まれたとはいえそれを売ろうとしているこの状態は良いのか悪いのか。ここにある物自体合法な物なのか。周りを見渡してもお姉さんの姿はない。公園の出口当たりにパトカーが見えた。

 逃げてしまおうか。

 もうお姉さんの事なんてどうでもいい。一刻も早くここから離れたい。警察官に職務質問されたら何て答えるんだ? 頼まれて? 誰に? そんな奴いないじゃん。捕まる。どうすればいい?

「あのー」

「はいっ?」

 声を掛けられるまで気が付かなかったがお香とお茶の葉みたいな物を手に持った気の弱そうな若い男が目の前にいた。「これ欲しいんですけどいくらですか?」と言うので少し考えてからこう返した。

「タダでいいよ。その代わりさ、少しの間店番頼んでもいい? 漏れそうでさ」


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