彼女の姿
そして、それから数分が経って着替えを終えた如月が部屋のドアを開けた時、千景は一人暮らしをしていたことで女性用の服を持っていないことを心底残念だと思った。
何故なら、千景は思ったからだ。
如月の風呂上がりの姿を可愛いと。
千景は如月の顔でなく、姿、つまりは如月自身を可愛いと思ったのだ。
千景も可愛いと思ったことがある人は今まででたくさんいるが顔でなくその人自身を可愛いと思ったことは初めてであった。
「お風呂ありがとう」
如月はそう言うと、頭を下げてきた。
「ああ、大丈夫だよ」
千景は一瞬固まったが、如月のお礼にすぐ応答した。
「大丈夫?」
千景が如月の姿に気を取られて何も話せずにいると、如月は心配そうに聞いてきた。
「ああ、大丈夫だよ。気にしないで」
千景は咄嗟に答えたが、今さっき答えたことと同じ答えを言ってしまった。
「ふふふっ」
それを聞いた如月が我慢出来ずに少し笑った。
「あの、ごめん。ちょっと面白くて。だって、同じことを答えるんだもん」
如月に笑われて、千景は顔が赤くなった。
千景はすぐ話題を変えようとした。
「お風呂、大丈夫だった?」
「うん、お風呂ありがとう」
「じゃあ、ちょっとこっちに来て」
千景は如月を自分の座っている横に座らせて、両親との電話の内容を話した。
「分かった」
如月は頷いて僕の両親と話をすることを了承した。
「お母さんが明日、如月に合う服を持ってくるって言ってるから、それまでは俺の服で我慢しててね」
僕がそう言うと、如月はすぐに言い返してきた。
「そんな、悪い。私は大丈夫」
「いいんだよ。これが僕の母さんがしたいって言ってるんだから。それに母さんは一度決めたら、お父さんや僕が何を言っても聞かないから。だから明日は大変だと思うけど、我慢してね。あと、君のことは明日にゆっくりと話すとして、今日はのんびりと一日昼寝でもして過ごそう」
僕がそう言うと如月は頷いて言った。
「ありがとう」
そうして僕達は一日中、ずっと寝たり、ご飯を食べたりと、のんびりと過ごした。