風邪の君
千景は固まった。
如月は、体中の見える部分だけでも何箇所も傷だらけで、着ている服もボロボロで、そして、何より如月のあまりにも弱々しく悲しげな顔に何も言葉が出なかった。
それどころが体さえ動かすことが出来なかった。
千景はもう一度深呼吸をして、勇気を振り絞って声を出した。
「大丈夫?辛くない?」
そんな言葉を掛けたところで彼女の辛さは変わらない上、小さい頃から裕福な暮らしをしていた彼女の辛さを何も知らない自分が彼女にそんな言葉を掛けていい資格があるのかと思った。
そんな千景の問いに対して如月は何も言わずに笑って見せた。
だが、千景には如月の瞳は助けを求めているかのように見えた。
だからこそ千景は言った。
「病院に行って診てもらおう」
だが、如月は顔を横に振ってから言ってきた。
「私にはお金が無いから」
如月の声は弱々しく怯えているようにも千景には聞き取れた。
如月の服装を見て分かるとおり、病院に行くお金も診察を受けるお金も無い。
僕は言った。
「なら、お金は僕が出す。だから病院に行こう」
その言葉に如月は驚いた。
普通はそうだろう。
言った千景自身もなぜこんなことを言ったのか分からなくて驚いているのだから。
千景は近くの営業所を調べて、電話を掛けて現在地を言い、タクシーを呼んだ。
如月は千景に悪いと思って
「大丈夫、行かなくていい」
そう言っていたが、2分ほどした時にはタクシーが来てそんな如月を千景は無理にでもタクシーに乗せ、近くの病院に向かってもらうことにした。
「運転手に迷惑だから病院に行くまでは喋らないでね」
そう言うと、如月は以外にもすんなり聞き入れてくれた。
病院に着いて受付を済ますと意外にも早く診察を受けることができた。
女の子の診察に同伴するのもどうかと思い、診察室には如月一人で行かせることにした。
それから少し経って戻ってきた如月に診察結果を聞いた。
「大丈夫。普通の風邪で熱が出てきただけって言われた」
それを聞いて、千景は安心した。
風邪薬と熱冷ましを貰い、会計を済ませた後に病院を出た後に千景は如月に聞いた。
「これから、どうするの?」
如月は言ってきた。
「お金を返すのは無理だと思うけど、これから頑張ってお金を貯めようと思います」
千景はその言葉に自分でも驚く言葉を言っていた。
「もし、またあの河原に戻るなら俺の家に来ない?特に何も無いけど、熱が治って体調が戻るまでは、きちんとした生活ができる場所で過ごさない?」
そう言うと、如月はずっと不思議に思っていたであろうことを聞いてきた。
「どうして、そこまでしてくれるの?なんで?」
千景は答えた。
「確かめたいんだ」