さあ、復讐劇を始めよう
マカラ視点になります。
まず、私は母の肖像画を父の部屋から盗んできた。それはもう大騒ぎになっていたらしい。持ち運びやすいように小さなやつにしたのに、心が狭い男だわ。
そして、母そっくりの髪型、メイク、ドレスを身につける。母は毒花のように美しい人だった。私と違い、飾り立てて堂々と立っていた。私は作業の邪魔になるからドレスは好まない。一生ローブを着て過ごしたいぐらいだ。
母を思いだし、振る舞いを真似る。
「あら、そんな所にいたの?相変わらず辛気臭い顔ですこと!」
「マスラ…?」
母に生き写しの私に、男は(多分)歓喜した。間抜けな顔だった。
「お願いいたします!踏んでください!!」
「どうしようかしら?」
「いやいや、足蹴にされるのはこの私ぐふぁ!」
夢魔がやたらと男に張り合った。そういえば母の下僕志願者と男が熾烈な争いをしていた気もする。私も自分の家畜を相手にする方が気が楽なので、やめさせず両方を適当にあしらった。
「次はいつ?次はいつ帰るんだ帰るんだい??」
私がいつ帰還するかを執拗に聞いてくる父。だいぶ私に依存したようだ。
「気が向いたらね」
血縁上の姉達の声すらも、血縁上の父には届かない。最初からこの男は母しか見ていなかったのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。
母はこの男の執着に耐えかねて自殺したのではないかとも思う。
この男と母が睦まじくしている姿を、よく考えたら見たことがない。今私は母の真似をしているが、これは夫婦と言うよりも私と夢魔の関係に近い。男が喜んでいるので、対応としては多分正しい。
私はついでに調べてみることにした。
さて、あれから1ヶ月。男はすっかりと私に依存した。帰らないでくれとすがる男を蹴り飛ばす。
「明日、また来るわ」
「本当かい!?待っているからね!」
その幸せそうな笑顔が絶望に変わるのが楽しみだわ。私は笑顔で頷いた。
「来てあげたわよ」
「お帰りなさ……い?」
私の傍らには美しい男性が一人。蜂蜜のような滑らかな金髪、青空を溶かしたようなアクアマリンの瞳。顔も身体も名工が作り出した彫像のように均整がとれていて美しい。ルージュに勝るとも劣らない美貌の持ち主だ。
「うふふ。彼は私の友人でリヒャルト=コンラッドと言うの。よろしくね」
「あ、ああ…」
男が嫌々ながらもリヒャルトに挨拶をする。凡庸な容姿である男は、コンプレックスを刺激されているらしい。
当然、客がいれば普段のように蹴られたりはできない。
「リヒャルト、向こうに薬草畑があるのよ。ああ、今日はリヒャルトを案内するから、もう行くわ」
「え………」
魂が抜け落ちたかのような様子の男に爆笑しないよう注意しながら屋敷周辺を散策した。
ようやっとリヒャルトとイチャイチャできるわ。美貌の男性…リヒャルトにひっつく。疲れてるみたいだから、ちょっと遠慮していたのよね。いつもならアワアワして逃げるのだが、彼は優雅に微笑んで私の額にキスした。
「…マカラ、あまりくっつかれると僕も悪戯したくなっちゃうよ」
「……むしろ悪戯してくれないかしら」
「えええ!?」
やっぱりリヒャルトはリヒャルトだわ。相変わらず可愛いわ!ぽっちゃりも好きだけど、痩せてても好きだわ!可愛いもの!!
リヒャルトはすぐに立て直して私の腰を引き寄せた。いつの間に身に付けたのか、その立ち居ふるまいは上級貴族にもひけをとらないほどに優雅だ。
それを見て、男が悔しがるのに気がついた。これが『ざまぁ』ってやつね。
それからというもの、リヒャルトは毎回私に同伴するようになった。
「……少しは家族団らんの邪魔になるから遠慮しようと思わないのかね?」
私に聞こえないようにリヒャルトへ苦言を告げる男。なんと心の狭い男なのだろうか。それにしても『いい父親』の擬態が剥がれかけている。私はこっそり笑った。
「すいません…マカラがどうしてもと言うものだから…。マカラ、今日は帰るよ」
「ええ!?嫌よ!リヒャルトが帰るなら私も帰るわ!何を彼に言ったの!?」
大袈裟に怒ってみせると男は慌てた。それにしても、リヒャルトに気がついているのかしら。気がついてないのかしら?
「……リヒャルト、昔よく行った池に行きましょう」
「!??」
ああ、ようやく気がついたのね?男はやはり彼が『リヒャルト』であると気がついたらしい。
「そうだね、マカラちゃん」
わざとあの日のように…いつものように私を呼ぶリヒャルト。
「貴様、娘に触れるな!この平民風情が!!」
特にリヒャルトが貴族だとも平民だとも言っていなかったが、男は私とリヒャルトを引き離す。
「…いいえ、今の僕は平民でなく貴族です。改めてご挨拶いたします。僕はリヒャルト=コンラッド。ソルレイクにて先日、伯爵位をいただきました。僕の爵位は、他国とはいえ貴方より上ですよ」
「な…っ!?」
うちは子爵だから、伯爵位の方が上。リヒャルトは
なんと転移魔術の簡略化に成功した。ソルレイクでなくとも、彼の技術を欲しがるだろう。この技術があれば、いくらでも稼げる。彼の技術を得るためならば、爵位も金も惜しみ無く積むだろう。誰もが欲しがるであろう技術だ。
彼はその実力で、地位すら手に入れた。
「それから、ご息女のおかげでちゃんと魔法を扱えるようになりましたよ」
「旦那様は、リヒャルトが魔法を使えるようにと色々してくださったようですね。彼はその過酷さに、魔力を諦めたそうですが…そもそもそんな野蛮な方法は必要ありませんでしたわ。長年研究して成果がないなんて…見当違いなことをなさっていたのかしら?今も結果が出てないようですし」
口にこそしないが…『この無能が』と態度に出した。それが解らない男ではない。
「……………そうですか。では我が娘と添い遂げるのは不可能ですな。彼女は我が家の後継ぎですからね」
男は私の無能呼ばわりをスルーしてリヒャルトに話しかけた。あえて、私は後を継ぐことを望んでいないと言わなかった。ふふふ、楽しいわ。
リヒャルトは詳しく語らないけど…あの男は魔力実験と称してリヒャルトに拷問をしていた。
彼はそれでも私を恨まなかった。しかし、あのリヒャルトが復讐に反対しなかった。あの男はそれだけの事を彼にしたのだ。許さない。
「あら、気が早いこと。私と彼は、まだあくまでも友人よ。先のことなんて誰にもわからないわ」
なにせ、私は過去にも知らないことがあったのだもの。後悔してもしきれないわ。
「マカラ、来ていたんだね」
落ちこんだ私に声をかけてきたのは、車椅子の美丈夫。私の伯父様だ。
「ええ、お久しぶりね」
「…こちらは?」
「彼は私の父方の伯父ですの」
「初めまして。マシューと申します。可愛い姪がお世話になっております」
男と違い、伯父様は美しい。伯父様はたまに私を見るとお菓子をくれていた。お腹を空かせている時は、自分のご飯を分け与えてくれたりもした。本来ならば伯父様が嫡男だが、彼は生来病弱だから家を継げなかった。普段は離れで暮らしており、あまり会うことはない。
「………あの、僕は魔具師のリヒャルト=コンラッドと申します。車椅子も開発しておりまして、良ければ一度使ってみてはいただけませんか?」
「…え?私は構わないけど…」
「だ「いいわね!伯父様、どうせだからソルレイクに行きましょうよ!どうせ屋敷に引きこもるだけでしょ?ね?お願い!」
「……マカラにそうお願いされてはね。いいかい?」
「……どうぞ、ご自由に」
男は渋々ながら承諾した。リヒャルトが何故かホッとした様子だ。あんなに押しが強いリヒャルトも初めてだし、何かあるのだろうか。
「…ありがとうございます。では、さっそく今日調整しましょう!」
その日は伯父様と共にソルレイクに戻った。伯父様は私が借りている屋敷にしばらく滞在することになったのだった。




