恐ろしき女子会
リヒャルトを職場に送り届けたものの、私は自分の仕事に戻る気にならなかった。
「ルージュ!知恵を貸して!!」
仕事中のルージュに悪いとは思ったが、今火急の案件は無いはず。ルージュの執務室に駆け込んだ。
「あら…どうしたのかしら?」
首をかしげながらも、手元の書類をよけるルージュ。話を聞いてくれるらしい。
「人払いが必要?」
「ううん…できれば信頼できる人に聞いてほしい。私は今、冷静じゃないから」
「………そう。レッタ、ファンデとピアス、それからイーリとアイラ嬢を連れてきなさい」
「…アイラ嬢も、ですか?」
「彼女は味方につければこの上ないわよ。私を出し抜いた女なのよ」
「私も異論無いわ。ルージュは私寄りだから、多分冷静にならないと思う」
「かしこまりました」
私が同意するなら、とレッタは退室した。すぐに全員が揃い、執務室だと誰が来るかわからないのでルージュの私室に移動した。
そして、私は話をした。初恋のこと、記憶を封じたこと、リヒャルトのこと。父の悪意ある話。
私にも罪はある。彼に会えば封印が解けるようにしたとはいえ、彼があの男のせいで苦しみ、私はそれに気がつかず…彼を探したが…結局は諦めたのだ。
「いや、どう考えても親父さんが悪いだろう」
ファンデ…その…顔が……リヒャルトが言ってた般若ってこんな感じかしら?
「……そう、なの?いえ、私がリヒャルトを諦めなければ……」
「いいえ、多分逆だわ」
ルージュが悲しげに表情を歪めた。
「マカラがリヒャルトさんの記憶を封印したからこそ、おじ様はマカラが諦めたと思ってリヒャルトさんを解放したのよ。おじ様…マカラに偏執的だと思ってはいたけど、まさかここまでとは思いませんでしたわ」
「…そう、かもしれない」
どちらにせよ、私のせいで犠牲になったリヒャルトがあまりにも可哀想だ。
「…オハナシは興味深いですが、私はなんでここに呼ばれたんです?これめっちゃプライベートな話ですよね??」
暗い話が嫌で抜けたいのか、アイラが挙手した。
「…貴女は一時的にとはいえルージュを負かしたわ。その知恵を借りたいのよ。私は、あの男を許さない…!」
怒り狂う私を見て、アイラは愉しげに笑った。
「ふふ…貴女も人らしい感情があるのね。いいでしょう、知恵を貸すわ。せっかくこんなに才媛が集まっているのだもの…復讐したい男の情報をもっとちょうだい。そいつにとって最悪の悪夢を見せてあげましょうよ。最高の『ギャフン』シナリオを考えてあげるわ!」
「おお!アイラが殺る気だぁ!私も力を貸すよ~ん。マカちゃんって呼んでいい?」
イーリの言葉は軽いが、その瞳は明確な怒りに燃えていた。本人も平民だし、かなり思うところがあるのかもしれない。
「……ありがとう。マカラちゃん以外なら好きに呼んでいいわ」
「じゃあマカちゃん!なんでマカラちゃんはダメなの?」
「…リヒャルトだけに呼ばれたいから……」
頬が熱い。リヒャルトを想うだけで心臓は熱くなり、鼓動が速くなる。
「マカラ様……ようやく人間らしく……そんなうちの子を傷つける男なんて、アヒルにしてやりましょう!ね、ルージュ様!」
「ちょ、落ち着きなさいよ!マカラ嬢よりあんたが先にキレてどうするの!」
「そうよ、レッタ。ここは冷静に…アヒルにする程度では生ぬるいですわ。相手はマカラのお父様…あの方はアヒルにしても動じない可能性があります」
「ええええええ!?わ、わかりました!もっとエグい方法を考えま「だから落ち着きなさいよ!ルージュもよ!!」
普段ストッパーのレッタとルージュが激怒して、キレやすいピアス嬢が止めている。とても珍しい光景だ。
多分レッタはきっと私が泣くのを見たから怒ってくれているのだ。優しい親友に、優しい気持ちになる。
「……このメンバーなら効果的におじ様に大ダメージを与える方法を考えられると思いますわ。特にアイラ。期待してますわよ」
「任されたわ」
ルージュとアイラが悪い笑顔を浮かべた。
「私は力仕事専門だから頭脳労働は苦手だが、頑張って考えるからな!」
しかし、この会議において実は私が一番役立たずだった。血縁上親子ではあるものの、私はあの男についてほぼ知らないのだ。知っていることは全て最初に話してしまった。ルージュとファンデの方があの男の事をよく知っていた。
「とりあえず、先ずは相手が好むものから教えてくれる?」
「…………………」
※何も思いつかない。
「食べ物ならチーズかな」
「確かパイプを収集するのが趣味でしたわね。乳製品や甘味がお好きでしたわ」
「嫌いなものは?」
「フニャフニャ食感が嫌いなんだよな」
「そうですわね。あと海藻類。動物なら猫。机の上で薬品をこぼされたことが」
嫌いだったから極力関わらなかったので仕方ないとはいえ、情けない。
「おじさんはマカラというよりマカラのお母さんを溺愛してるよな。たまに目が怖いもん。リヒャルトさんがどーのじゃないよ。相手が世界一いい男でも邪魔したと思うよ。本当は私達にも妬いてたしな」
そして、役に立たないと言っていたファンデだがその勘の良さで誰より本質を見抜いていた。
「…そうですわね。何度も羨ましがられましたわ。そして、おじ様はマカラのお母様の事を話すとき…いつも幸せそうでしたわね」
ルージュも同意した。不本意だが、あの男が母似の私に執着しているのは間違いない。
「……そのマカラ嬢のお母様の肖像画とか、ない?」
「ああ、なるほど」
アイラの言葉で察したらしく、頷くルージュ。そして、美しく私に微笑んだ。
「マカラ、貴女は目的のためなら自分の意思をどこまで殺せまして?それから、コンラッド氏に協力を求める必要がありますわね」
「リヒャルトは……巻き込みたくない……」
「いいえ、これはコンラッド氏の復讐劇でもありましてよ。私達を敵にまわすとどうなるか…後悔させてあげますわ」
「うおお……ルージュたん、マジギレしてない?」
「流石はルージュ様…アヒル的に危険なルージュ様を敵にまわすなど、愚かですね」
「ちょ!レッタちゃんもガチギレてる!?」
こうして、頼もしい仲間達を得た私の復讐劇は幕をあげた。




