理由と結論
マカラちゃんは昔と変わらず…いや、昔よりもずっと綺麗に綺麗になった。服を着たことで冷静になったせいか、ついみとれてしまう。
「リヒャルト」
「はい」
「何故私の前から消えたのか、話してくれるわね?」
「……うん」
散々情けないところを見られているのだ。今さら隠すことなどありはしない。
僕は、彼女の前から去った…いや、逃げた理由を話し始めた。
マカラちゃんと僕は将来を約束していたけれど、現実的に無理だと知っていた。前世の記憶もあるから、大人並みの知能があった。だから、ちゃんと互いの立ち位置を理解していた。
僕は魔力のない平民だった。せめて魔力があれば、あの国ならば結婚できたはずだ。稀に魔力がない貴族が生まれる。それが嫡男や娘である場合、平民と結婚して魔力を補うことがある。貴族は強い魔力保持者を欲するから、魔力なしの貴族と結婚したがることはない。魔力持ちでもさらなる魔力を求め、相性がいい魔力や強い魔力保持者ならば平民と婚姻するのは珍しくなかった。
魔力がほしかった。でも、僕に魔力はなかった。異世界に転生したのだから、チートのひとつぐらいあれば良かったのに…チートなんかなかった。
ある日、身なりのいい紳士が僕を訪ねてきた。その人は、マカラちゃんのお父様だった。
「君は娘と結婚したいのだろう?ならば、私の実験に協力したまえ」
マカラちゃんのお父様は、当時潜在的に魔力があるが使えない人間の治療研究をしていた。もし成功すれば、確実に爵位が上がるほどの功績だ。マカラちゃんのお父様だけでなく、かなりの人間がいまだに研究をしている部門だ。
彼いわく、僕が使えないだけで僕には強力な魔力が眠っているのだと言う。愚かな僕は、喜んで彼に協力した。
どんな無茶な要求にも応えた。身体を極限まで痛めつけたり、窒息死しかけたこともある。どんなに辛くても、この世界で見つけた唯一大切な人の側にいるために、僕は耐えた。
そして、マカラちゃんのお父様の研究は半分成功して、半分失敗した。
僕は特定条件下で魔力を使えるようになった。
醜く肥えた姿の時にだけ使えるのだ。一定以上魔力を使うと痩せるので、なぜかカロリーを魔力に変換しているのではないかと思われる。結局僕自身の魔力を使えていないという結論に至った。そのうえ、醜く肥えることが条件であると貴族には使えない。美しさもいい結婚をする条件だからだ。
そして、肥えて魔力を使えるようになったせいか、すぐに毒が中和されたり傷が治るようになった。これでは極限まで追いこむことができない。
「残念だが、君は魔力を得られなかった。いや、多少は得たようだが娘の婿にするには足りないし、君のような醜い豚に娘をやりたくない」
あの男は、僕を『使えない実験体』と判断した。わかってはいたんだ。あの男は僕をマカラちゃんと結婚させる気なんてはじめからなかった。
わかった上で、話に乗った。僕は魔力が欲しかったし…どこかで『前世の記憶もあるのだから、僕には特別な力がある』と思っていた。
追い出され、僕は考えた。手元には口止め料を含めた大金。特別な力は無いが……知識はある。
それから、僕は前世の知識をフル活用して魔具の製作者になった。最初は小さな店だったが、王城に招かれる立場にまでなった。
そして、ソルレイクの技術支援員として招かれた。受けた理由は、資金が潤沢だから。今やっている研究が成功すれば、爵位をもらえるかもしれない。無駄かもしれないけど、僕はあがいた。僕はマカラちゃんがどうしても欲しかった。マカラちゃんだけが欲しかった。
そんな時、僕はマカラちゃんを見つけてしまった。
「後は、マカラちゃんが知っての通りだ。利用されるだけ利用されてポイ捨てされたあげく、醜くなって…君に合わせる顔がなかった」
「……………そう」
何かに耐えるような声に顔をあげたら、マカラちゃんが笑顔だった。ただし、瞳は冷たかった。目から冷凍ビームとか出そうだと現実逃避するレベルだった。
「リヒャルト、すべて私に任せてくれないかしら」
よくわからないが激怒しているマカラちゃんに、頷くことしかできなかった。
そう、彼女は激怒していた。僕は理由を聞かされて、とんでもない勘違いをしていたのだと知った。マカラちゃんに寂しい想いをさせてしまったことを何度も何度も謝った。
「いいのよ、リヒャルト。これからずっと私の側にいてくれるなら、もういいの」
彼女の言葉はあたたかくて、優しかった。しがみついた僕の背中を何度も何度も撫でてくれた。
彼女に許されて安心しきっていた僕は、静かに呟いた彼女の台詞を聞きのがしていた。
「…リヒャルトは、いいのよ。あの男は許さないけど」
マカラちゃんは、とてつもなく怒り狂っていた。




