僕の後悔
コンラッド視点になります。
大好きな女の子がいた。
僕は、幼い頃『異質』な存在だった。別の世界で生きていた記憶があった。子供になるには羞恥心が邪魔をした。僕は大人に奇異なものと判断され、子供の輪に入ることもできなかった。
そんな時に出会ったのが、彼女だった。
独りぼっちの彼女は、僕が奇異なものだと解らなかった。なんの偏見もなく接してくれた彼女。その存在が、僕にとってどれほど救いだったのか…彼女はきっと知らないだろうね。
数年ぶり、一方的に再会したその子は、とてつもない美女になっていた。そして、僕の教えたことを完璧に体現して立派な『女王様』になっていた。
3日ほどうなされた。
余計な知識を与えた己を5日ほど責め続け、僕は彼女のストーカーになった。
こんなキモデブが、あんなにも美しく気高く成長した彼女に話しかけられるはずもない。遠くからそっと見つめるだけでいい。
彼女が階段から落ちたとき、咄嗟に助けた。そこから、僕らはまた近くなった。彼女は僕に気がつかないけど、それでいい。彼女を一度裏切った僕に、思い出してほしいと願うことなど許されない。
それに、僕は幸せだった。彼女が僕に興味をもって、僕に触れてくれるだけで幸せだった。
いつも通り、彼女が僕の昼食を持って人気のない裏庭へ来た。
「あ」
彼女の姿に思わず微笑んだ。彼女は僕の顔を両手で挟み、観察しだした。何かに気がついたような表情に焦る。
「ちょっ、なななななな!?」
「コンラッド、観察中ですからうるさいとディープキッスの刑に処します」
「!?いやむしろご褒美…いやいやいや!なんで急にんんんんん!??」
彼女は一切躊躇いなくディープキッスの刑を実行した。こ、呼吸ができない!しかし、気持ちいい!!僕はそのまま意識が遠くなっていった。
「ん……」
目を覚ましたら、彼女がレザーボンテージとハイヒール姿だった。
なにこれ、ホラー?
いまいち現実感がない。蝋燭の光に照らされたレザーボンテージの女王様。マゾヒスト以外の人間は恐怖しか感じない。どっちかというと大人のビデオ的なシチュエーションだよなぁと現実逃避していたら、彼女は機嫌よく僕に話しかけてきた。
「ダーリン、おはよう」
「おは…よう?」
いまいち頭が働いていない。これ、夢?しかし、彼女からのキスでこれは夢じゃないと確信する。そこでようやく頭がフル回転し、自分の状況を正確に把握した。
「な!?なんで裸!?しかもダーリンって何!?う、動けない!??」
「逃がさないため。貴方は私と結婚するの。約束、したでしょう?」
必死で縄を外そうともがく僕に、彼女は僕が昔贈った玩具の指輪を見せた。彼女は僕を覚えている?僕はすっかり混乱してしまった。
「……え?その、指輪……まだ、持ってて……」
混乱していたら、彼女が僕の額にキスをしてきたので悲鳴をあげた。
「ダーリン…悲しいけど浮気は許してあげる。だから今すぐ結婚しましょう」
混乱する僕を、彼女はさらに混乱させてくる。浮気?自分でもどうかと思うけど、僕が好きなのはずっとずっと彼女だけだ。
「…………………はい?」
だから、間抜けな返事しかできなかった。
「まあ、では今すぐこちらにサインして!ああ、他に好きな女がいるのよね?先に始末と調教が必要かしら」
「は、はいぃ!??始末!?調教!??」
物騒な単語に驚愕する。今の格好もあって、洒落にならないよ!!
パニック状態の僕に対して彼女は冷静で、物わかりの悪い生徒に接するかのように穏やかに話してくれた。
「ええ。ダーリンは私だけを愛さなきゃダメなの。だから障害を取り除いて、ダーリンが私以外に反応できないように念入りに調教しなきゃ!先ずは鞭?それとも蝋燭??ああ、楽しいでしょうね…ダーリンが泣きながら私に許しを乞うのは」
うっとりと恍惚の表情を見せた彼女に、今更ながら身の危険を感じた。
「ぬな!?マカラちゃん、やめて!!」
「わかったわ」
あっさり鞭と蝋燭をポイ捨てしたマカラちゃん。レッタさんの助言は実に的確だった。女王様の鎧の内側は、あの寂しがり屋で素直な『マカラちゃん』だった。
「へ?え…えっと…逃げないから服が欲しいんだけど…」
「それはダメ。ダーリンの対応次第で既成事実を作る予定だから、服は邪魔だもの」
そこはお互いのためにも回避しよう。それより、ずっと気になっていたことを叫んだ。
「せ、せめて股間を隠したいんですが!」
そう。僕はずっと全裸DE☆亀甲縛りという、変態度120%な姿だったのだ。
「そのぐらいならまあ、いいわよ」
マカラちゃんがそっと下半身に毛布をかけてくれた。ちょっとチクチクする。とりあえず、下半身が隠れたのでマカラちゃんに気になることを確認した。
「マカラちゃん…いつ気がついたの?その指輪を君に贈ったのは『コンラッド』じゃない」
「ええ。私と結婚の約束をしたのも『コンラッド』じゃないわね。約束をしたのも、指輪をくれたのも『利人』だわ」
マカラちゃんは笑顔で肯定した。つまり、マカラちゃんは……僕が利人だと確信しているのだ。
「今の僕は以前と似ても似つかない…なんで!?いつ気がついたの!?」
マカラちゃんはクスクスと笑った。それは心からの笑みだった。
「ごめんね、利人。いいえ、リヒャルトかしら?私は私に魔法をかけて貴方の記憶を封じたの。ようやくその魔法が解けた…それだけのことだわ。空色の瞳も、髪も変わらない。ちょっと太ったぐらいじゃない」
「いやいやいや!ニキビもあるし、汗っかきだし、臭そうじゃない!昔みたいに美少年じゃないし!そもそもちょっとどころじゃないデブだし!!」
髪と瞳の色こそ同じだが、現在の僕の外見は以前の面影など全くない残念な仕上がりだ。むしろあの美しかった過去の姿と似ていると言われたらなんかショックだ。
「そりゃ、色々変わっているけど…何か問題が?」
心底わからない、という様子で首をかしげるマカラちゃん。知ってはいたが、彼女の感性はかなり独特らしい。
「こんな醜い僕じゃ、マカラちゃんに釣り合わない!」
昔と違い、醜い僕に価値はない。頑張ってここまでのぼりつめたけど…彼女を娶るにはまだまだ足りない。
そもそも、女王様の隣が潰れたヒキガエルだなんてありえない。
「…私はリヒャルトが醜いなんて思ってないわ。周囲の目が気になるなら、どっか山奥で暮らしたらいいわね!二人きりで山小屋暮らしなんて、楽しそうだわ」
名案だ、と本気で考えているようだが…それはかけおちと言うのでははないだろうか。
いいかも、と一瞬思ってしまった自分に愕然とする。
「…コンラッド、利人、リヒャルト……私は寂しかったわ。耐えられなくて、貴方の記憶を封じたの。そして、いつか貴方に会えたなら…解けるようにしていたのよ」
「マカラちゃん」
「姿なんてどうでもいいわ。貴方が貴方ならそれでいいの。だから…私といるって…もう離れないって、言って!」
ぎゅううっと僕に抱きついた身体が、微かに震えていた。抱き返せないのがもどかしい。
「じゃないと、拉致監禁して調教してするから!」
マカラちゃんからこぼれた涙を舐めとることしか出来なかった。何を勘違いしていたんだろう。彼女は爵位も美しさも要らなかったんだ。僕を…僕だけを望んでいたのに。
「いや、そこまでしなくてもずっと一緒にいるよ。今度こそ約束を守る。マカラちゃん…ずっとずっと、大好きで…今も君が好きで仕方ない。何も言わずに君の前から消えた僕が君のそばにいる資格なんてないって悩んだけど…君といると、どうしようもなく幸せなんだ」
そう。認めてしまえば単純なこと。僕は今でも彼女を愛していて、彼女がしでかす破天荒な行動も込みで愛おしいのだ。側にいられるだけでいいのだ。
「リヒャルト!」
「…で、そろそろほどいてくれない?服もください!」
気持ちが通じあったのだ。全裸待機は勘弁していただきたい。若干下半身がヤバいので、ぜひ隠蔽させてほしい。
「え~」
マカラちゃんは不満げに僕の体をまさぐった。やめてえええ!!この状況で反応したら気まずすぎるよおおお!隠すことすらできないし!!
「いやああああ!?どこ揉んでるの!??」
「胸。なかなか巨乳ね」
男だから不要な乳ですよ!あまり感じないとはいえ、状況が状況だから勘弁してくださあああぃ!!
「きゃああああああああああああああああああああああああ!?」
さらに悪戯しようとしたので本気で説教した。レッタさんの助言は実に的確だった。僕はマカラちゃんに説教しながらレッタさんに感謝の祈りを捧げていた。




