友人の励まし
さっさとソルレイクに戻るはずが、面倒な相手に捕まった。
「何か御用ですか?旦那様」
面倒な相手とは…生物学上私の父に当たる人物である。ただ、父と思っていないのであえて旦那様と呼んでいる。
「…ルージュちゃんに迷惑をかけてないだろうね?」
「いいえ、かけてませんわ。多分ね」
父親面するのはやめていただきたい。私の親は母だけだ。ルージュにいい父親のフリをしているのもむかつく。死ねばいいのに。
「…かけてるんだね。まあいい。言いたいことはそっちじゃない。君の姉達への仕打ちも仕方がないだろう。だが……『彼』を探すのはおやめ」
失敗した。魔力が揺らいだ。私が動揺したと…この男ならば解ってしまうだろう。
「君はうちの当主「にはなりません」
「…君しか該当がいないんだよ!我が家が「潰れてもかまいません」
まだ私に後を継がせるのを諦めていなかったのか。ため息を吐いてしまう。確かに該当するのは能力的に私しかいない。だが、この男が私に家を継がせたい真の理由は個人的な感情によるものだ。私が奴の言うことを聞いてやる義理はない。
「私は、我が家が潰れようが擂り潰されようが木端微塵にされようが、微塵も興味がございません。無能な女達に良さげな婿をとらせればよいでしょう?」
「……いい婿が、いなくてねぇ……」
でしょうね。ただでさえ我が家は毒と薬で有名な家だ。黒い噂も絶えず、敬遠されている。まともな人間は婿になるまい。しかも、女達の顔は平凡で性格も悪い。そりゃあ、婿も来ないだろう。わざわざ私が女達の仕打ちを嘘泣きしながら暴露したかいがあったというものだ。
「それは女達の自業自得でございましょう。私は…こんな家に来たくなかった」
それこそ、こんな家に来るぐらいなら庶民として暮らしたかった。今更なのは理解している。それでも、愚痴りたくなる。
「…君は本当に、彼女に似ているね」
「それはどうも」
母はとても美しかったが、毒花のような美しさだった。似ていると言われても、あまり嬉しくはない。
「そんな事より、私の捜し人をご存知ですの?」
「…さて、ね」
「なるほど。一応女達の純潔までは奪いませんでしたが、貫通パレードでも「待て待て待て!!なんてことを言うんだ!どこに穴をあけるつもりだ!しかもパレードって見世物にするつもりか!?いや、言わんでいい!!」
流石にこの男も慌てた。まあ、気にしているのは体面だろうけど。とても嫌だが、この男の小賢しさを私も受け継いでいる。
「では、教えてくださいませ。利人はどこ?」
「会ってどうする?アレは失敗作だ」
「……失敗作」
どういう意味だ?彼は間違いなくこの男の血族ではない。私と同じく妾の子?あり得ない。この男の血がある者は、例外なく紫水晶の瞳を持つからだ。彼の瞳はサファイアのように美しかった。
だが、現実はそれよりも惨いものだった。
「マカラ様?」
「レッタ?」
どこをどう走ったか記憶がない。あの男に新開発した肥溜めより凶悪な汚物臭がする薬品を投げつけて走ったのは覚えている。
「レッタ…レッタぁぁぁ!!」
私は恋などしている場合ではなかった。レッタにしがみついて泣きじゃくる。
「えええええ!?マカラ様!?」
最初こそ動揺したレッタだが、すぐに冷静になった。
「アヒル様達!マカラ様を隠して!マカラ様は私以外に泣き顔を見られたくないと思うの!」
「「くわわ!」」
白と黒のアヒルが結界をはった。
「すいませんが、今日の狩りには同行できません。私は泣いている友人を見捨てるようなことはしたくないのです」
「くわ」
「くわわ」
アヒル達は頷くと、飛び去った。ぼんやりとアヒルの尻を見つめながら呟く。
「すっかり立派なアヒル使いね………」
「こらああああああ!誰がアヒル使いですか!心配したのに元気じゃないですかああああああ!!」
レッタは怒っているが、仕方ない。レッタのおかげで少しだけ精神的に回復したのだから。
「…レッタの気遣いが嬉しくて、少し元気になったのよ」
「んん!?な、ならいい…のかな?とにかく、私はマカラ様の友人で、マカラ様の味方です!何か困っているなら力になります!いってください!私は生半可な覚悟でマカラ様の友人になったわけではありませんからね!」
私、やっぱり人を見る目があるわ。レッタを友人にして良かった。
ちなみに生涯友人でいるつもりらしい。レッタもかなり変わっているわよね。
「…ありがとう。実は……」
レッタにここ最近の話をした。コンラッドのこと、利人のこと。利人が消えた理由も。
「…それ、全部本当のことなんですか?」
「…………は?」
「マカラ様、そのご自慢の頭をフル回転させてください。全部本当のこと、なんですか?」
「………………全部、では、ないかも」
あの男は私を後継にするためなら嘘の一つや二つや三つや四つ…いや、いくらでも平気で嘘を吐くだろう。
嘘は、真実を混ぜた方がバレにくい。どこからが、嘘だ…?
頭をフル回転させるが、判断材料が少なすぎた。
「判断材料が少なすぎるわ。現時点では嘘かどうかの判別がつかない」
「じゃあ、まずはリヒトさん?を探すところからですね!大丈夫!ルージュ様とか顔広いし、すぐ見つかりますよ!」
すでに死去している可能性もある。見つかる確率は限りなく低いだろう。
「…ありがとう」
それでも私は前に進むと決めた。優しい友人達もいてくれる。
心からレッタにお礼を言って、私は仕事に戻った。




