恋…なのかしら
いつものようにブタに乗って移動していたら、リストバルト様からお茶に誘われた。
「やあ、最近はどうだい?」
「えっと……」
この人、知っていたけど意地が悪いわ。
少しだけ…仲が良かった。側妃にならないかと言われた。
「魔具開発室のコンラッド君だっけ?進展はあった?」
「…別に」
「面白い報告が毎日くるんだけど……ひとつだけ忠告してあげる」
「え?」
「彼にダイエットをさせてはいけないよ」
どういう意味だろうか。むしろあれほど肥えたままでは、寿命を縮めると思うのだが。痩せさせてはいけない理由が思いつかない。
「フラれてしまったけど、君は私の命の恩人だ。くだらない嘘はつかないよ」
そう、私はリストバルト殿下の求婚を断った。パートナーとしてならば相性がいいのは自分でも理解している。
断った一番の理由は…私自身が妾腹だったので妾腹の子の苦労を知っているから。それに、私はリストバルト殿下を気に入っているが愛していない。彼も同じだ。愛は愛でも…友愛、家族愛…のようなものではないかと思う。
「……そう」
本人が言う通りくだらない嘘はつかないだろう。理由を教えないのは本人に聞けということだ。それはいいが、正しくない部分は訂正させていただこう。
「ひとつだけ訂正させてくださらない?リストバルト殿下は私を妹か愛玩動物のように思ってらっしゃるでしょう?私がふっただなんて思ってないくせに」
「ふふふ、私達はいいパートナーになれると思うんだけどね?」
そう言いながら、彼の瞳に熱はない。恋を知らない私でも解る。いや、私だからこそ解る。この人は、私と同じで『欠けている』のだ。
異常だと思われている私より性質が悪いかもしれないわ。彼は自分が異常だと周囲に認識されないように上手くやっているもの。
祖国にいる頃は私もそうだった。ルージュ以外の人間にも優しいと言われていた。そうやって擬態していたのだ。そうせざるをえない状況下にいたのもある。やや下位の貴族でおまけに妾腹。擬態は処世術…必須技能だ。
裏では今と変わらず奴隷を従えていたけれどね。身分が高い人間ほど、解放を求めるもの。私は『蔑まれたい』と望む人間を探すのも上手かった。
私の表と裏を知りながら私を『優しい』と言うのはルージュと…もうひとりだけだったわね。
少し思考が脱線し過ぎたわ。雑念を振り払うように頭を振ると、リストバルト殿下と目を合わせた。
「ええ、いいパートナーにはきっとなれますわ。だけど、そこに愛はない」
「あい?」
意外だ、と言わんばかりだ。まあ、自分でも子供じみた願いだと思っている。絵本を親から読んでもらって夢見る時期はとうに終わった。
「ええ、愛です。私、恋をしてみたいのです」
結ばれなくてもかまわない。一度だけでいい。妾腹とはいえ私も貴族だ。恋愛結婚ができるなんて思っていない。
「…そうか。君の願いが叶うことを祈っているよ。ところで、少し聞きたいことがあるんだ」
「なんでしょうか」
親しげな空気は消え、冷たくリストバルト殿下が笑う。
「あの『真実の結晶』なんだけど、量産できない?」
「ああ……かしこまりました。可能かどうかは後日お返事いたします」
あの薬は元保健医の実家に伝わる秘薬だ。後で本人に言っておこう。ああいう秘薬はデリケートだから作るのが大変で、ものすごく嫌がりそうだが仕方ない。諦めていただこう。
「魔法ってスゴいよね」
「それは否定しません。それよりも、毒の追加発注はありませんか?面白いモノを作ったのですが…いかが?」
「詳しく!!」
そして、私とリストバルト殿下は楽しく毒について語り合うのだった。




