恋の実験をしてみた
今日もコンラッドを誘いに行く。ブタはよくわからないけどうるさいので強制送還した。
人気のない城の裏庭に敷物を敷いて座り、昼食を並べる。コンラッドはこの間の件で常に一定の距離をとってこちらをチラチラしている。幸い、嫌悪の表情はない。
対策として、今日は小さい敷物を持ってきた。最初は地面に座ると抵抗したが、そもそも口下手な彼が私に敵うはずもない。私の隣にチョコンと座りながら、チラチラと私を見ている。
「!??」
手首に触れて、脈拍を計測する。94……やや速い。
「少し脈が速いようだけど、普段はどのくらい?」
「脈を計ってたんですか!?し、知りません!」
また真っ赤になってアワアワしている。両頬をガッチリ固定して瞳を覗きこむ。
「!!??」
確認したいのは瞳孔。瞳孔がひらいているかが知りたいのだ。
「なななななな、なんですか!?何するんですかああああ!??」
コンラッドは真っ赤になりながらふるえている。なんて可愛い生き物なのだろう。家畜ではなく、私の愛玩動物にしたい。
「瞳孔を見ているの」
「どうこう?」
「書物で読んだのだけど、特に男性は好きな女性や女性の裸を見ると瞳孔がひらくらしいのよ」
「!!!!」
コンラッドが私の手から逃れて横を向き、目を固く閉じた。
「……コンラッド?」
「だ…だめ…です………」
コンラッドの固く閉ざされた瞳から、涙がこぼれ落ちた。
「みないで………ください……ぐしゅっ……」
何がそんなに嫌なのだろうか。そして予想外なことに、私自身がコンラッドの涙にとても狼狽している。頭が働かない。父が泣こうがこんなに動揺しなかったのに。
どうしよう。どうしたらコンラッドは泣き止んでくれる?どうしたらいいの??
オロオロする私のもとに救世主が来てくれた。
「こらあああああ!マカラ様はまた何をやらかしてるんですか!あああ、先日の!私の友人がまたご迷惑を……泣いてるじゃないですか!何をやらかしたんですか!??」
「い、いえ!彼女は悪くないです!僕、涙腺がゆるいみたいで…誤解させて申し訳ありません」
流石はレッタだわ。空気を一瞬で変えてしまった。コンラッドも落ち着いたみたいで私は悪くないと必死に訴えてくれた。コンラッドがあまりに必死なのでレッタも納得したようだ。
「では私は仕事があるので行きますけど、あまり迷惑をかけてはいけませんよ?あの、マカラ様は意外とちゃんと話せば話を聞いてくれます。先に加害した場合でなければ、本気で人が嫌がることはしません。上手く付き合うには、明確な線引きが必須ですよ」
「ふふ、私のことをよく解ってるわね」
レッタが言うなら善処するわ。優しく勇敢な友人に手を振って見送った。
「…仲がいいんですね」
「そうなの!仲良しなのよ!!」
コンラッドにレッタがいかに勇敢で賢く、優しいかを語ってあげた。レッタは幼馴染であるルージュ・ファンデ以外で初めてできた友人なのだ。レッタがいかにいい友人かを語る私に、コンラッドは穏やかに微笑んでくれている。よかった、もう完全に泣き止んだわね。
とはいえ、私の何かが彼を傷つけたのだろう。
「ごめんなさい、コンラッド。もう嫌なことはしないわ」
「へ?」
「……許してくれる?」
「あ………は、はい……その…嫌だったわけではない…です。ただ……瞳孔を調べるのはもう……やめてください」
「わかったわ」
瞳孔を調べるのは駄目なのね。覚えておこう。
「じゃあ、食事にしましょう。はい、あーん」
「…………はい?」
「あーん」
「なん…むぐ!?」
口をあけた隙にフォークで刺した焼魚を入れてやった。魚は骨を取り除いているから問題ない。コンラッドは行儀がいいから口の中にものがある状態では喋らない。
「……ごくん!も、もうダメです!なんでこんな…!」
「やってみたかったのよ」
「………………………」
「あら、脈がさらに速い」
「…脈拍数計測もやめてくださあああああああい!!」
コンラッドが真っ赤になりながら叫んだ。仕方ない。食事を続けよう。
「よいしょ。はい、あーん」
「ぬああああああ………もぐもぐ」
コンラッドに座って食べさせる。姿勢としてはあぐらをかいているコンラッドの足の間に姫抱きのような状態だ。コンラッドが悲鳴をあげた瞬間にサンドイッチを口内に入れた。
「うん、楽しいわ」
親しい友人達…ルージュやファンデにしかしないことなのだが、コンラッドにするのは楽しい。
「…………………」
いつもなら慌てて逃げようとするコンラッドだが、今日だけは大人しかった。
「は、はははははははい………あ、あああああ~ん」
痙攣しているのでは?と思うぐらいに震えながらサンドイッチを差し出すコンラッド。まさか彼までやってくれるとは思わなかった。仲良く食事をたべさせあい、今日のランチは終了した。
散歩する時にさりげなく手を繋いだが、一瞬ビクッとしただけで大人しくしていた。彼も私になれてきたらしい。
コンラッドを仕事部屋まで送ると、大きな声が聞こえてきた。
面白そうだから覗いてみる。
「コンラッド、見てたぞ!お前、あの美女にあーんしてもらった上に手を繋いで歩いてただろう!!」
「!!!!!」
コンラッドはアワアワしていて、返事がなくとも事実だと周囲に教えてしまった。
「お前、あんな美女と付き合ってんの!?」
「ち、ちが……」
「付き合ってないのに膝に乗せてあ~んとかさせるか!?」
「ぐふっ」
「しかも、あんな手を繋いで幸せそうに「きゃあああああああああ!!」
ヤバいわ。コンラッドが面白すぎる。悲鳴が可愛い!面白すぎてよろけたら、物音がしてしまった。
「誰だ?…………あ」
「こんにちは?」
「きゃあああああああああ、いやあああああああああああああああああああ!!」
パニックを起こしたコンラッドが絶叫して走り去った。
「ぐふっ…」
そして面白すぎてその場にうずくまる私。
笑いの衝動がおさまってからコンラッドと私は恋人関係ではなく、ダイエットを教える代わりに恋を教えてもらっていると話した。一応納得してくれたらしく、数人が恋の教師に立候補してくれたが…やはりコンラッドがいいのでお断りした。
さて、次は何をしようかしら?
コンラッド帰室後の出来事。
「コンラッド…事情はわかった」
「恋を教えてるんだってな」
『俺たちに代わってくれえええ!!』
開発室のモテない男達は必死だった。プライドもポイ捨てして土下座した。
「だ、ダメでしゅ!ダメですううう!!」
それを必死にお断りするコンラッドなのでした。




