恋とはどんなものかしら?
新章開始です。マカラ視点になります。
ルージュもファンデも婚約者と仲良くしている。以前と違い、私にもちゃんとかまってくれる。
特にファンデの婚約者であるクレストさんはいい人だ。私にまで気を使う。気にするなと言ってみたら、ファンデの大切な人だから当然だろうと笑った。ファンデは本当にいい婿をゲットしたと思う。
「マカラ、どうしましたの?」
ぼんやりしていたら、優しい親友に心配されたようだ。少し、くすぐったい。彼女達だけは、私に『普通』の態度で接してくれるから。
「ああ、ファンデはいい婿をゲットしたなって思っていただけよ。借りを返しただけなのに、わざわざお礼まで言いに来たわ」
「そうだろう!クレストさんは最高なんだ!………じゃなかった、クレストさんはとっても素敵ナノデスワ?かな??」
あの野猿のようなファンデが、彼のために礼儀作法を学び言葉遣いも改めようとしている。
あのクソ王太子と婚約中は辛そうだったルージュ。今は穏やかに微笑んでいる。
彼女達を輝かせているモノ……
「…『恋』とはどんなものかしら」
物語や伝承ならばいくつも読んだことがある。知識としてならば知っている。
「そうですわね……『する』のではなく『落ちる』ものかと思いますわ」
「……落ちる」
「ええ『あっ』と思ったら、もうダメなのですわ」
恋に落ちる、その言葉通りに。
「そうだな!私もいつの間にか好きになっていたぞ!もしかしたら、最初に出会ったときから好きだったかもしれないな!」
彼女達が幸せそうだったから、私も『恋』が欲しいと思った。
「…私も、恋がしてみたい」
「マカラのお相手はどのような方なのかしら」
「楽しみだな!」
穏やかに微笑む親友達とお茶を楽しんだ。
「恋、か」
今日は珍しくブタを魔界に還したので自分で歩いている。周囲の視線を感じるが、怯えるものが大半だ。
「…まともな恋は無理そうだわ」
そもそも、誰か一人を大切に想う気持ちがわからない。沢山の人から求婚されたが、私の鞭さばきを見たりちょっと実験体にしただけで奴隷になるか逃げていった。
「あ」
考え事をしていたら、階段で足を踏み外した。レッタが好きな恋愛小説だと颯爽と美形な男が助けたりするのよね、とどうでもいいことを考えながらどう着地するか思案する。まあ、落ちても薬で治せばいい。たまには自分を実験体にするのも悪くないわと結論した。
「………え?」
私はぶよぶよした生き物を下敷きにしていた。ブタ…ではなく太った人間の男性だ。
「いてて……あ、あの、怪我はありませんか?」
「そっちは私じゃないわ」
何故か植木を見て話す男。足元にはひび割れた眼鏡があった。
「すすす、すいません!怪我はありませんか!?」
私の声に向き直り近寄る男。そして、男が眼鏡にとどめをさした。男の体重でうっかり眼鏡を踏んだので、割れてしまったのである。
「めがねぇぇぇぇ!!」
「眼鏡、割れたわね」
「めがねぇぇぇぇ!!」
「うるさいわよ。黙りなさい」
何故それほどに眼鏡が割れたぐらいで嘆くのか。この男、リアクションが地味に面白いわ。直してやろうとしたら、魔法を弾かれた。
「??」
複雑すぎて読めない。私が魔法を使ったのに気がついたのだろう。丸々と肥えた男が苦笑した。
「それ、視力を治療する眼鏡なんです。外部魔力に干渉されては困るんで、ロックをかけてあるんですよ」
「……生意気ね」
「はい?」
「この私が直してやろうというのに!いいわ、術式の阻害をかいくぐって直してさしあげますわ!」
「いや、僕が直せば……」
丸々と肥えた男がなにか言ったけど、集中していた私には聞こえなかった。
「やったわ!」
「おお…術式を歪ませずに直すなんて、スゴいですねぇ。ありがとうございます」
丸々と肥えている男は眼鏡を受けとると装着した。この私にかかれば、眼鏡ぐらいあっという間に………男はポカンと口を開いて固まっていた。
「ちょっと……」
「あああああありがとうございましたああああああ!!」
あの肥えた体からは想像できないほどの早さで、男は逃亡した。
あの男は私を私と知らずに助けた。だから、あんな風に普通に接してくれた。いつものことだし、私は行動を改めるつもりなんてない。
無駄な時間を過ごしてしまったと、自分の研究室へ戻るのだった。




