お気遣い従者の暗黒時代
クレスト視点になります。
夕飯まで時間があるからとファンデの実家周辺を案内してもらっていたら、ファンデが爆弾を投下した。
「あの、クレストさんの昔の話が聞きたい!」
「んあ~…つまり、ファンダルに会う前のやらかしてた頃の話ってこと?別に面白くはないだろうけど…」
別に隠してないし、どこから話すべきかなぁと思いつつ、思い出す。
俺は産まれてからずっとバングナルト様といた。あの人は俺にとって弟みたいなもんで、俺が守らなきゃいけない人だった。
彼をあらゆる事から守るために強くなろうと決めた。手っ取り早く騎士団に入ったことが正しかったのか…今となってははわからない。ただ、単純な当時の俺はこれが正しい道だと信じて疑わなかった。
ソルレイク騎士は当時二種類あった。貴族は近衛騎士、平民は一般騎士になる。俺は当然ながら近衛騎士だったが、騎士に失望した。近衛が腐っていたからだ。
能力ではなく身分でしか見ない上司にも、馬鹿のくせに一般騎士を見下す同僚にも失望して………
キレた。
暗黒時代ってのはその時期だ。ものすごーく荒れてて狂暴だった。めっちゃ尖ってたので思い出すと恥ずかしい。
当時の俺はそれはもう短気だった。上司だろうが年上だろうが同僚だろうが気に入らなかったり納得いかなければ決闘という名のケンカをしまくった。馬鹿だったけど、格上を挑発して『決闘をさせる』程度の頭はあったから、クビにはならなかった。
格下の馬鹿貴族が一般騎士に嫌がらせをしていたら、即殴ることもあった。そのぐらい血の気が多かったんだ。今じゃ考えらんねーけど、バングナルト様にフォローされることがあったぐらいだ。
騎士なら決闘を受けなければ腰抜け扱いだ。そして、俺は近衛騎士が無能の集まりであるとソルレイク王族に示した。
方法?貴族のお遊び剣術してるような奴ら、俺一人で倒せるって豪語してまとめて決闘して勝ったんだよ。
おかげで今でも元近衛からは恨まれてるし嫌われてる。別にそこに後悔はないけどな。逆に元一般騎士だった奴らからは慕われているし問題ない。未だに元一般騎士からは目が合うと頭を下げられたり、訓練や手合わせに誘われる。
兄ちゃんに元一般騎士はほぼクレストの舎弟だよねと言われたが、微妙に否定できないのが悔しい。ちなみに下級貴族にも舎弟モドキはいたりするのだが、これは言いたくないので黙っている。
その後、騎士団が統合されて実力主義になったのは良いことだが、俺はすっかり目標を失った。
あれだけ熱意があった剣術なのに、楽しくなくなってしまい、騎士団を抜けた。バングナルト様のこともあって、騎士団との両立は難しいと判断したからでもある。
仕方なくバングナルト様の補佐ができるよう勉強をする日々。そんな中でソーディアン剣術大会に参加しないかと誘われた。
世界にはもっと強いやつがいるかもしれない。久しぶりに心が浮き立った。バングナルト様に頭を下げて修行に勤しんで…失望した。
ソーディアン剣術大会でも俺より強いやつがいなかったからだ。
そして決勝戦でファンデ…ファンダルに出会った。全力で挑んでも勝てなかった。剣聖ファンダル=ウェルスは本当に強かった。ずっと求めていた俺より強い相手。俺はファンダルと友人になろうと勝手に決めていた。
選手控え室でファンダルに話しかけた。
「…なあ、お前はなんで強くなったんだ?」
ファンダルは目を丸くした。話題を失敗したかと後悔したが、ファンダルは一生懸命考えて答えてくれた。
「鍛練が好きだったんだ。強くなりたくて頑張った」
そう言って笑うファンダルは純粋で眩しかった。
「お前、何になりたいんだ?」
ファンダルはまたキョトンとした。目標がないってことかと思ったが、俯きながらも答えた。
「……きしに、なりたい…」
ファンダルは泣いていた。騎士になって、大切な人を守りたいと言った。
それは、かつての俺の願いそのもので…確かに俺が取り戻したいと願ったものだった。なんで忘れていたんだよ。騎士じゃなくたって大切な人を守ることはできる…自分の願いを取り戻したのを感じた。
そして、願いを取り戻してくれたお礼にファンダルの背中を押してやることにした。
「…なら、なれば?なんか事情でもあるわけ?」
「なりたい…!」
彼ならきっと、立派な騎士になるだろう。心から応援した。
「なら、がんばれ」
「ああ…!」
そこから先はファンデも知っているはずだ。手紙のやり取りをして…ファンダルが死んだのを知らされた。なんか…かなりショックだったな。
でも、ファンダルのおかげで取り戻せた願いを見失うことはなかった。従者としてバングナルト様を支えて…守れるように俺なりの努力をしたよ。
「いやもう、マジで大変だったよー。バングナルト様、社交がガチでポンコツだしそもそもやる気ねーし。フォローしまくったよ、俺が」
「…その、ファンダルのこと…」
「謝罪はもう受けたからいらねー。ファンダル…ファンデが生きてて、また会えて良かった。お前のおかげで、自分の本当の願いを思い出せたよ。ありがとうな」
「どどどどどういたしまして?」
んんん…俺の婚約者、マジ天使。真っ赤で震えてるよ。可愛いな!
左右確認!周囲に人間の気配ナーシ!!
「…男の前でそんな顔してると…食べちゃうよ?」
「ひあ!??」
耳を舐めたら悲鳴をあげた。しかし、抵抗はない。
「そーいや、さっき続きするって言ったよな?」
「ぶにゃあああああ!?」
首を舐めたら、ファンデが真っ赤になって気絶した。えええええ!??これからだったのに!!
いや、やり過ぎたんだな。仕方ない。ゆっくりと思ってたのも嘘じゃないし。
気持ちを切り換えてファンデを抱き上げたら、幸せそうに笑いながら言った。
「…クレストしゃん…おいろけ…む~んむん……」
「………………………」
可愛い婚約者の脳内で俺がどうなっているのか、大変問い詰めたくなりました。




