元剣聖の謝罪
ファンデ視点になります。
ただの顔合わせは私のせいで大混乱になってしまった。うるさい兄達をクレストさんが追い出てくれていてよかった。
「ファンデ、ごめん…」
「いや、故意ではないから仕方ないさ。その…すいません。以前ソーディアン剣術大会で優勝したことがあるんです」
バレたからには仕方ない。私は潔く頭を下げた。
そして、どうしてこんなことになってしまったのか。私は語り始めた。
剣聖ファンダル=ウェルス。かつての私の偽名だ。最年少でソーディアン剣術大会優勝を果たした後に死去したとされている。
死んだことにするしかなかった。私は男にはなれないのだから。まだ少年の時代ならば誤魔化せるが、それ以降は無理がある。しかも国内ならまだしも、他国の栄誉ある大会優勝者。注目も集まる。仕方ないことだったと納得している。父にも陛下にも迷惑をかけてしまった。
「…すいません。我々の読みが甘かったせいもある。ファンデは強いが、まさか優勝するほどとは思っていなかったのです」
父様はそう語った。私は物心つく辺りからずっと強かった。鍛練をすれば強くなれる。単純に強くなりたくて、ひたすら鍛練と実戦をしていた。
気がつけば、父を含めて領内で私に敵うものは誰もいなかった。だから、父は私と賭けをした。
『ソーディアン剣術大会で優勝したなら、好きに生きてよい。負けたなら、女として家のために生きろ』
そして私は優勝したわけだ。賭けに勝った私は女性としての教育を受けず、兵士や騎士としての訓練を続けることができた。
「…少しだけ、後悔しているよ。父様は意地悪で私に女性としての教育を受けさせようとしていたわけではなかったと…今頃理解した。だが、あの大会に出たことは後悔してない。クレストさんに会えたからな」
今より少しだけ若かったクレストさん。とても強かった。誰よりも強かった。試合の後で私は彼と話をした。
「…なあ、お前はなんで強くなったんだ?」
誰も私にそんなことは聞かなかった。上手く答えられただろうか。鍛練が好きだった。強くなりたくて頑張った。
「お前、何になりたいんだ?」
誰も、私にそんなことを聞いてくれなかった。
ずっと自分でも…そこから目をそらしていたから。
「……きしに、なりたい…」
気がつけば、泣いていた。騎士になりたい。騎士になって、大切な人を守りたい。
「…なら、なれば?なんか事情でもあるわけ?」
「なりたい…!」
女だからなれないって知ってた。でも、諦めたくなくて見ないふりをした。女になんかなりたくない。私は私でいたいんだ!そして、騎士になりたいんだ!!
彼に会って、自分の中の目標がこの時ハッキリと定まった。
「なら、がんばれ」
へらりと笑ったクレストさんは優しかった。なんの事情も知らない彼だが…確かに私の背中を押してくれた。
「ああ…!」
それから私たちは文通をしていた。届くのに何ヵ月もかかるから、忘れた頃に手紙が届く。ほんの数回のやり取りだったが、今でも大事にあの手紙達はとってある。
剣聖ファンダル=ウェルスの名声に興味はないが、友人であるクレストさんとの関係を絶たねばならないことがとても辛かった。彼との数えるほどしかないやりとりは、私にとって大切なものだった。
いつか、ソルレイクに行こうと決めていた。立派な騎士になったら彼に会って、謝罪する。それが私の目標だった。
だが、その前に彼が祖国へ来るなんて思わなかった。
私は一目で貴方がわかったよ。貴方は私に気がつかなかったみたいだけどね。
「…きっと、私の初恋はクレストさんなんだと思う」
男として接していた頃は友情と憧れだったんだと思う。
私として接して、恋をした。
「ふつつかな娘だが、貴方に相応しい女になれるよう努力する。末永くお願いします…旦那様。それから、嘘をついて消えてごめん。ずっと謝りたかった。貴方に貰った言葉のおかげで私は私になれたんだ。ありがとう」
「そっか。よくわかんねーけど、俺の言葉がファンデの助けになってたんなら良かったわ。それから、お前が生きてて良かったわ。事情もわかったし、謝罪は受ける。もう気にしなくていいよ」
私の婚約者は優しくてかっこよすぎる!抱きついてニッコリ笑った。
「クレスト、だいすき!」
「ぐぶっ!??」
クレストさんが真っ赤になった。私にドキドキしてくれてるようだ。嬉しいな。
「おやおや」
「あらあら」
「流石は婿殿…」
「姉様、本当にお義兄様を逃がしたらダメよ!」
「…ついギャラリーを忘れた…ファンデ、後で続きするから」
「!?あ、ああ」
幸いクレストさんのご家族は私の素性を知っても気にしないでくれた。婚約破棄にならなくてホッとしつつ、続きが気になってソワソワしてしまうのだった。




