顔合わせと失言
クレスト視点になります。
うちの実家とファンデの実家で顔合わせをすることになりました。通例通り、嫁側…ファンデの実家にうちの家族が出向きます。
便利な転移陣で今回も快適な移動…のはずなのだが……
「え!?こっから歩き!?」
「私、今日歩ける靴じゃない…」
「………目的地が見えないが?」
特に二番目の姉はハイヒールだから、着く頃には足から出血しているかもしれない。
「しかたねぇな、馬か馬車を借りて……」
「迎えに来たぞ!」
「乗ってくれ!」
「思ったより多いな!」
ハッスルなマッスル達が迎えに来てくれた。ありがたいのでうるさい姉達を運搬していただき、両親のために馬車を呼んでほしいとお願いした。
「「「任された!」」」
「「「きゃあああ!?」」」
颯爽とうるさい姉達を運搬してくれたハッスルなマッスル達。ありがとう。このままどっかに置き去りにしてくれ。そんな物騒なことを考えていたら、豪華な馬車がすぐ来た。
早すぎないか!?
「クレストさん!」
そして馬車からファンデが飛び出してきた。
「ファンデは元気だなぁ」
今日も俺の嫁は可愛い。頭を撫でていたら、あることに気がついた。
馬、足多くね?
「ファンデ、あの馬…」
「スレイプニルという魔獣だが、うちで繁殖させて家畜化に成功した。速いぞ!」
しかも、馬車自体スレイプニル仕様のため揺れも少なく快適な移動であった。ただ、景色を楽しむ余裕がないほど速いことが難点かな。
ハッスルなマッスルを追い抜き、優雅にお茶をしていたら姉達も到着した。慣れていないと二人乗りでも乗馬は厳しいがどうだろうか。
「……筋肉ッション、ありだわ……」
ナニがだ。
「うふふ…美しいですって…うふふふふ…」
どうした、落ち着け!
「……………」
そしてふらふらと門扉に激突する姉。
姉達が全員おかしくなって……いや、ハッスルなマッスル達もだった。めっちゃ鼻の下伸びてる!!
「…うちの娘達も片付くといいな……」
「最初はいいけど、後がね…」
「あなた、人生諦めが肝心よ」
兄と母は現実を知っているためか、なかなかに厳しいコメントだ。
「なんの話だ?」
そして、にぶいうちの嫁(予定)が可愛い。俺はニコニコしながらファンデに告げた。
「大したことじゃないから、大丈夫。もうすぐファンデと結婚するのが楽しみだ」
「……破壊力…これが胸キュンというやつか……」
ファンデが真っ赤になってなにやらブツブツ言っていたが、よく聞こえなかった。
そして、両親が挨拶しているのだが…
「なんと美しいのだ…」
「そんな…美しいだなんてぇ」
「少し触れても?」
「その筋肉に触れてもいいならいいわよ」
「………(ひたすら見つめる)」
「………(ひたすら見つめている)」
最後の無口でやや男っぽい末の姉はいいとして、長女と次女!とりあえず、デコピンしてやった。
「痛いじゃない!」
「いたぁぁいぃ」
勝ち気な長女はキレ、のんびりした次女は額をおさえてブツブツ…
「甘い!」
なんかの呪いだったらしいが、こっちにはルージュ様のアミュレットがある。
「クレストの、けち!こないだ教わった、おもらしの呪いなのにぃ!」
「地味に恐ろしい呪い仕掛けてくんなよ!」
よりにもよって婚約者の家で漏らすとか、洒落にならんわ!!
「はっはっは。クレスト、いいじゃないか。我が家の難あり物件が一気に片付くかもしれないよ?」
「…………」
うちの兄ちゃん、かなーり腹が黒いよな…。嫁への嫌がらせをいまだに許していないしな。
「うざったくてもいいじゃないか。難あり物件が一気に片付くなら」
「…………」
クレストとお兄ちゃん酷いとギャンギャンわめく姉達に、俺は円滑に話が進む手段を選んだ。
「お義兄さん達、姉達を案内してあげてくれますか?両家の顔合わせですし、ここからは両家の家長と跡継ぎである兄、婚約者の俺達で話をしたいと思います。堅苦しい話は苦手でしょう?」
あくまでもお義兄さんと姉達を気遣ったように言いつつ、内心お前ら邪魔だろうから出ていってほしいと思ってます。
そもそも脳筋は本気でこういう真面目な話し合いが不得手だし、ハッスルなマッスル達は素直に俺に感謝して姉達をエスコートして退出した。お義父さんも出ていきたそうだったが、さすがに無視した。
「……………お見事。伊達に問題児様の操縦してないね」
「…今はルージュ様が尻に敷いてますから、そんなに問題児じゃないですよ」
しかし、過去わりと問題児だったのは否定しない。かなりの人間嫌いだったからなぁ…。つい幼馴染兼主の問題児っぷりを思い出してしまった。昔に比べたら、お互いにかなーり丸くなったよな。ルージュ様のおかげでよく笑うようになったし、今は幸せそうで俺も嬉しい。
「…バングナルト様ってそんなに問題児だったのか?」
「基本的に女が…いや、人間が嫌いでなぁ…どんなに言っても社交が改善しなかったんだよなぁ。基本は無視。返事はああだけ。無愛想にも程があるっつーか…」
ガンガン冷えていく場の空気は新手の拷問のようでした。空気が読めないやつが羨ましかったよ!
「本人にも色々思うとこがあってな。仕方ない部分もあったけど、従者としちゃあ気苦労が絶えなかったな。バングナルト様は弟みたいなもんだから見捨てらんねーし、状況がわかるだけに頭ごなしに叱れねぇし…」
「クレストさんは本当にいい従者さんだったんだなぁ」
「は?いや、フォローしきれてなかったから、よくはないんじゃね?」
本当にバングナルト様を思うなら、もっと宥めたり説得すべきだったかと思ったこともある。
「いや、お前が適度にバングナルト様を思いやっていたからこそ、バングナルト様は孤独にならずお前だけは側に置いたんだよ。お前まで遠ざけたら、あの人おかしくなってたんじゃない?」
そこは否定できない。変なとこで不器用な主を思い出す。
「だからこそのデキテル疑惑か…」
「え!?ナニソレ!ナニソレ!ファンデちゃん、それ詳しく!!」
ファンデちゃんの呟きに、めっちゃ反応する兄。兄にしては珍しく、この噂は知らなかったらしい。
「ファンデ?ファンデは俺の味方だから黙っててくれるよな?」
全力でファンデに口止めをする。顎をクイッと持ち上げて、目を合わせる。
「ふぁい…」
ファンデの口止めはできたが、思わぬ伏兵がいた。
「ああ、バングナルト様とうちの息子ができてるって噂ね?聞いたときにはあり得なさすぎて笑っちゃったわぁ。うちの息子はバングナルト様みたいな美人より、可愛い子が好みだからありえないって言っておいてあげたわよ。今はルージュ様にメロメロだから、もう忘れ去られた噂だけどね」
「かあさああああああん!?」
否定してくれたのはありがたいけど、今暴露すんなああああああ!!色々色々言いたいことはあるが…これだけは、これだけは言っておきたい!!
「そもそも俺は男色じゃねぇよ!女じゃない時点でバングナルト様は対象外だし、今はファンデだけだから!!」
「あら?確か剣術大会の美少年が気になってなかった?」
「あれはファンデだからノーカン!そういう意味で気になってた訳じゃ、多分ねぇよ!!」
「…あら?」
「え?」
「はい?」
「は?」
「!!」
「婿殿!?」
「え?知ってて婚約するとか、お義兄様ってば勇者ね」
「あ」
うっかり失言したことに気がついた。完全に失敗だった。




