朝の騒動
クレスト視点になります。
あたたかくて柔らかな枕に包まれて目が覚めた。
白くて滑らかな腕。ささやかながらも存在を主張する胸。そして、優しく頭を撫でられている?
「えーと…」
昨夜の記憶を反芻する。一気に昨日の記憶が戻ってきて、心地よいおっぱいから離脱した。
「おはよう、クレストさん」
「おおおおはよう…」
俺の可愛い可愛い婚約者は起きていたらしい。そして、彼女の胸にすり寄るのを眺めつつ、俺の頭を撫でていた……
「ご、ごめん!セクハラをしました!」
「せくはらは嫌がらせだろ?私は嫌じゃなかったから、せくはらじゃないぞ。着替えてご飯にしよう」
俺の婚約者マジ天使!!
客室に戻り着替えてから食堂に向かっていたら、なんつーか断末魔的な声が聞こえてきた。
「何かありましたか!?」
ファンデと声が聞こえた中庭に駆けつけると、昨日はなかったオブジェが存在していた。いや、よく見たらオブジェじゃない。杭に縛り付けられボコボコにされた筋肉三兄弟とお義父様だった。顔がもはや原型をとどめていない。
「だ、誰がこんなことを…」
「マキュアじゃないか?」
「へ?」
「おーほほほ!マカラお嬢様特製!悶絶するほどしみる上に治りにくくなる傷薬!くらいなさあああい」
昨日ファンデを着替えさせてくれた使用人のおばさんが、苦しむ筋肉三兄弟とお義父さんに折檻していた。
「や、やめてください!」
慌てて間に入っておばさん…マキュアさん?を止める。筋肉三兄弟とお義父さんは泣いていた。こんな屈強な男達を泣かすとかすげぇな!
「どうせ父さん達が悪さをしたんだろう。放置しても問題ないぞ」
ファンデ的に日常の風景であるようだ。しかし、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。原因は間違いなく自分にあるからだ。
「マキュアさん」
「はい?」
「ありがとうございます」
「婿殿!?」
「「「義弟よ、我らを見捨てたのか!?」」」
深々とマキュアさんに頭を下げた俺。うるさい男達。キョトンとするファンデとマキュアさん。
「ちゃんと俺達の事を考えて、真剣に叱ってくれてありがとうございます。でも、俺ちゃんと話し合いしますから、このぐらいで許してあげてください」
マキュアさんに頭を下げた。困った主のせいで頭を下げることに抵抗はない。それで相手の気がすむなら安いもんだ。
「まああ…お嬢様ったら、なんていい婿様を見つけてきたのかしら…婿様!お嬢様を末長くよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、長い付き合いになると思います。よろしくお願いします」
マキュアさんはつぶらな目をキラキラさせて何度も頷いてくれた。
きゅるる、と可愛い腹の音がした。
「マキュア~、お腹すいた」
「まああああ!お嬢様にひもじい思いをさせてしまうだなんて!!お嬢様!すぐにご用意いたしますわ!!」
そして砂煙をあげてマキュアさんが走り去った。ファンデいわく、テーブルセッティングはマキュアさんの仕事なんだそうだ。
「さて、お義父さんとお義兄さん達は俺と『お話』しましょうか。ファンデ、マキュアさんをお手伝いしてね。花嫁修行の成果を見せてあげなよ」
「ああ!頑張る!」
素直なファンデは走り去った。さて、殺気を込めた笑顔でお義父さんとお義兄さんに話しかけた。
「俺、お願いがあるんですよ」
片手には、マカラちゃん特製の悶絶するほどしみるけとよく効く傷薬。その効果を昨日ぞんぶんに味わったお義兄さん達は怯えている。
「なんだ!?」
「「「なんでも聞くぞ!!」」」
「俺らの関係は見ててまだるっこしいかもしれないけど、余計な手出しはしないでください。俺らの関係は、俺らだけのものです。誰であろうと手出しする権利はない…そうでしょう?」
「「「「ヒッ!?」」」」
いかん、いかん。怒りで魔力制御が甘くなった。バングナルト様にも劣らない氷の魔力。暴発させたらシャレになんねーわ。
足元の氷を剥がし、表面が凍ってしまったお義父さんとお義兄さんを救出した。
「「「「すいませんっしたああああ!!」」」」
全員、まるで訓練したかのように息のあったお辞儀(しかもきっかり90度)だった。
「……次はありませんからね?」
「「「「はいっ!」」」」
とてもいい返事に満足して頷く俺だった。
その後食事中にお義父さんとお義兄さん達に目が合うたび「ヒッ」とか言われていたのは気のせいだと思いたい。いや、きのせいに違いない。
「優しいだけでなく、頼りになる婿様でしたのね。お節介をいたしまして、申し訳ございません。見事な躾ぶりですわ!」
「あ、あはははは」
いや、プチギレしただけなんだけどね。マカラちゃんみたく調教はしてない。体育会系的上下関係で上位に立っただけだ。
昔に比べたら丸くなったよなぁ…昔のヤンチャなあれこれを思い出す。とりあえず、その辺りは黙っておこう。あれだ。沈黙は金、雄弁は銀ってやつだ。
「クレストさん、このサンドイッチは私が作ったんだ!」
「そっか。ファンデの料理はいつも美味しいよ。ありがとう」
「うへへへへ」
顔は可愛いが、笑いかたがちょっと残念。そんな婚約者が可愛くてしかたない。幸せな朝を迎えたのだった。




