苦労人伯爵と婿殿
ファンデ父視点になります。
遠い異国の地にいる我が娘。その結婚相手に頭を悩ませていた。見た目こそ妖精のように可憐で今は亡き我が妻にそっくりだが、中身は山猿…いや、クレイジーコング(巨大なゴリラ的化け物)だ。見た目とのギャップが壊滅的だし、上の筋肉三つ子から溺愛されていて、筋肉三つ子を倒せない男にはやれないとか……三つ子は妹達を嫁にやる気がないらしい。
ただでさえ嫁に行けそうもない娘は、三つ子のせいで完璧に嫁に行けない状況だ。筋肉三つ子に勝てそうな男が思い付かない。末娘は年老いたガーネット家の執事に夢中だし…そう考えたら胃が痛くなってきた。筋肉三つ子も嫁がいない。筋肉だからかデリカシーがないからだ。胃が痛い。
とはいえ、親としては子供に幸せになってほしいわけで………
年頃でまだ婚約者がいない貴族の子弟をリストアップするが、どれもひ弱で破局する未来しか浮かんでこない。
胃薬の量を増やすか思案していたら、嫁に行けない長女から手紙が来た。
『ソルレイクで結婚することにしました。明後日、婚約者と一緒に本宅に挨拶に行きます。正式に婚約する書類も持参する予定です』
へー、うちの長女が結婚するのかぁ。
ん?
え??
手紙を何度も何度も何度も読み返した。しかし、何度も読んだがあのクレイジーコングな長女が結婚を前提にお付き合いしている相手と婚約すると書いてある。
さらに、丁寧な筆跡で相手からの手紙も同封されていた。完璧な手紙だった。時節の挨拶から始まり、とてもクレイジーコングな長女を愛していること、是非挨拶と婚約させてほしいこと、訪問の日時候補が書かれていた。文面からも誠実さを感じられた。
末娘にこれ結婚詐欺だったらどうしようと相談した。こんな良さげな結婚相手が見つかるとか、おかしい。
「それはないわよ。姉さんは野生の勘があるから、悪意ある相手に騙されたりしないわ」
それもそうか。鈍いところも多々あるが、野生の勘で性根の腐った相手は見分けるだろう。とりあえず一番日にちが近い訪問の日時が都合がいいと返事を書いた。
そして、あっという間に訪問当日。
「アイシャ、おかしくないか?」
「大丈夫よ、お父様。というか、なんでそんなに緊張しているの?」
「ファンデが結婚できるかどうかの瀬戸際だぞ!ぶっちゃけ、あんなまともな手紙を書ける優良物件を逃したら、次はない!」
末娘は残念なものを見る瞳で私を見た。
「…お父様は姉様をなんだと思ってるのよ…」
コメントしにくいので、末娘の問いに返事をしなかった。そして、ついにクレイジーコングな長女が来た。
「初めまして。クレスト=ソイと申します」
ファンデが連れてきた青年は、真面目で誠実そうでクレイジーコング2号な見た目ではなかった。厳ついムキムキマッスルではなかった。ちゃんと人語が通じそうな人間だった。
やや細身だが無駄なく鍛えられた体躯。穏やかな物腰。顔はやや平凡だが、逆に親しみやすさがある。しかも、お土産にお菓子を持ってくるお気遣い紳士である。
さらに何より、あのクレイジーコングな長女を淑女として扱い、女性らしくさせている。
「合格!!」
「あ、ありがとうございます?」
こんな良さげな好青年を逃してはならない。彼に危害を加えないよう筋肉三つ子達には遠出のおつかいを言いつけてある。奴等が帰る前に、婚約を成立させねばならない!!ファンデの結婚は、私の手際のよさにかかっている!!
しかし、あまりにがっつけば相手も怪しむだろう。先ずはお茶に誘い、自然な流れで婚約を成立させなければ!!
庭のテラスでお茶をすることになった。そして、私は作戦失敗に気がついた。ファンデの前に山盛りな茶菓子。
ファンデはその体のどこに入るか疑問なぐらいに食べる。よく食べるファンデの為、料理長が頑張っちゃったのだろう。ファンデが大好きな菓子だ。
「クレストさん、この焼き菓子はとっても美味しいんだ!」
なんと食欲の権化であるファンデが、クレスト殿に菓子を分けている…だと!?筋肉三つ子と奪い合うことしかしなかったあの暴食のファンデが!??
「あ、本当だ。うまいね。はい、お返し。たくさん食べな」
「クレストさん…大好きだ!」
「俺も大好きだよ。ファンデは可愛いなぁ」
すげぇ。山盛りの焼き菓子を平らげる娘に、たんとお食べと言わんばかりの慈愛に満ちた眼差し。普通ならあんなに食べるクレイジーコング女子を見たらドン引きするだろう。
しかも、あのクレイジーコングな長女が…恋する乙女みたくなっとる!!
「クレスト殿…娘とこんや「あ、ファンデ様!久しぶり!!」
「ファンデ様?」
「やべ、女子に見えますよ!」
婚約について切り出そうとしたら、邪魔が入った。テラスで話をしたのは失敗だった。我が家の裏手にある訓練施設の兵士達に見つかってしまったのだ。
「なんだと!?元から私は女だ!」
ファンデが地のしゃべり方をする。瞬く間に兵士達を物理的に沈黙させてしまった。
「まったく…」
いや、まったくはこっちの台詞だよ!まともな婿殿が今のでドン引きして逃がしたらどーすんだ!
「ファンデちゃんはおてんばだなぁ」
婿殿は慈愛に満ちた表情でクレイジーコングな長女を見た。
奇跡だ…!
さらに婿殿はルージュちゃんが婚約した遠い異国の第二王子に仕えているそうで、将来有望!しかし、こんな優良物件が何故うちのクレイジーコングをチョイスしたのか。もっとましな令嬢がいくらでもいるだろう。
それとなく聞いてみたら、苦笑しながらも教えてくれた。
小姑が3人ね。うちのクレイジーコングの敵じゃないわ!なるほど、なるほど!ならばもう、ためらう理由はどこにもない!!
「婿殿、我が娘と是非婚約をしてほしい」
婚約の書類さえ提出してしまえば、ハッスルなマッスル三つ子がいかにごねようとも、こちらのものだ!!
既にソイ家の方はサインされており、うちがサインするだけだ。書類は向こうで提出するらしい。
「「「ただいま~」」」
ハッスルなマッスル三つ子が帰ってきてしまった。しかし、筋肉三つ子は婿殿を威嚇することなく談笑を始めた。
「大物捕ってきましたよ」
「是非晩メシ食っていってください」
「向こうは何が美味いんですか?」
え?
ハッスルなマッスル三つ子が婿殿を認めている…だと!?
「婿殿」
「はい」
「(娘と)結婚してください!」
「………はい?」
すかさずクレイジーコングな娘が婿殿の前に出た。
「クレストさんは私のだ!父さんといえど、渡さない!!」
「馬鹿!私が結婚できるか!お前と結婚してくださいとお願いしとるんだ!!邪魔するんじゃない!!」
「ならばよし!」
私の意図を理解すると、あっさりファンデはどいた。
「婿殿、こんなクレイジーコングのような残念を通り過ぎた娘ではありますが…何卒、よろしくお願いいたします…!こんなんですが、本当にこんな残念な仕上がりですが!亡き妻が遺してくれた可愛い娘なんです!!」
「…あの、私は…」
言いかけて、婿殿の雰囲気が変わった。少しラフな…くだけた調子で婿殿は話した。
「変に取り繕わないで本音で話しますね?俺、本当にファンデが好きです。残念な仕上がりなんかじゃないっす。そのまんまのファンデが大好きです。俺の生涯をかけて幸せにするんで、娘さんを俺にください」
婿殿は頭を下げた。あんなクレイジーコング娘を好いてくれて、クレイジーコング娘をくれと乞うてくれた。
「婿殿おぉぉ!!こちらこそよろしくお願いいたします!!でかした、ファンデ!!婿殿を絶対逃がすなよ!?お前婿殿逃がしたら絶っっ対結婚とか無理だからな!!婿殿以上の条件とか有り得ないからな!!」
「ああ、幸せになるぞ!クレストさんは逃がさない!」
「よっしゃああああ!肉じゃあああ!!肉を焼けえええ!!」
こうして、婿殿は我が家の一員となったのだった。最大の難あり物件が片づき、本当にホッとした。
しかも、ファンデは婿殿にベタ惚れらしく婿殿に恥をかかせないためにと進んで大嫌いな作法・礼儀まで習いだした。クレイジーコングは恋をして、人っぽいものに進化した。
婿殿…本当に、本当にありがとう!!
ちなみにアイシャ(妹)がまともなのは危機感を覚えたファンデ父がアイシャをしばらくガーネット家に預けていたから。
ただ、ガーネット家の執事に惚れてしまい、よかったのかは謎。




