お気遣い紳士と最終兵器
クレスト視点になります。
俺は、マカラちゃんに呼び出された。この間余計なことをしたから刺されるのかもしれない。鎖かたびらと解毒薬(気休め程度)を準備して指示された場所に行くと、マカラちゃんが俺に気がつき、正座して地面に額をつけていた。
???
あれ??マカラちゃんの後頭部しか見えないので、彼女がどんな表情をしているかは解らない。
「ルージュから聞いた。意地悪してごめんなさい…まさか、まさか許してくれた上にルージュとファンデに話してくれるなんて…!」
とりあえず、しゃがんで頭を撫でてあげた。お兄さんは泣く子に弱いので、泣かれると叱れないんです。
しかし、余計なことをすんなとキレられなくてよかった。根っこは素直なのかもな。
「いや、余計なことをした自覚はあるよ。でも、君達が仲良しなのは見てて解ってるからな。最近はマカラちゃんも楽しそうで何よりだよ」
「うう…ごめんなさい…」
「気にすんなって」
「そっちじゃなくて……クレストさんが売れ残った理由を召喚しちゃったから」
俺が売れ残った理由?
「まさか………」
「わ、私も微力ながらファンデを支えます!本当にごめんなさい!!」
予想外の厄介事に目眩を感じつつ、泣いているマカラちゃんをフォローした。
「まあ、遅かれ早かれぶつかるだろうし、頼りにしてるよ」
「ええ、この私に任せなさい!」
「やり過ぎないでね?」
あんなんでも、一応身内だからさ。
「くーちゃん、たっだいまぁぁ!」
「ひさしぶりねぇ」
「よ」
「へ?」
バングナルト様が瞬時によそ行きの無表情になる。見た目だけはいいが、中身は最悪な姉達の襲来である。予想していたよりもに早い。一匹でも始末におえないのに、それが我が家には三匹もいるのだ。この悪魔達に比べれば、マカラちゃんなどかわ……いい……かも、しれない。
「クレスト、積もる話もあるだろう。午前中は休みにしてやろう」
訳・クレスト、午前中までに時間をやる。どうにかして追い返せ。
バングナルト様の水面下での無茶ぶりに、顔をひきつらせた。
「バングナルト様、俺が抜けたら大変でしょ!」
訳・忙しいし、午前中でこの姉共を追い返すとか無理ですよ!
バングナルト様はため息を吐いた。
「すまないが、我々は仕事中だ。君達は仕事の邪魔になるだろう。今日はクレストを実家に返すから、家で話をしてくれ」
訳・クレストは後で返してやるから出てけ。
逃げ道を完全封鎖された。腹をくくるしかないのか…まぁ、仕方ない。
「そうね」
「邪魔しちゃ悪いし」
「知り合いに会ってくるよ」
悪魔達はあっさりとひいた……ように見せかけて、悪事を働いていたらしい。見かねた騎士から苦情が来て発覚した。
しっかり事情聴取してから行ったら、すでに居なかった。俺が来る直前までファンデちゃんに絡んでいたらしい。
そう、俺が売れ残った理由とは…嫁ぎ遅れの姉達である。
嫌がらせからストレートな嫌みに、寝とりの斡旋まで。何でそこまで…というほどやらかす。俺が今まで付き合ってた…またはいいなって子は大人しいタイプばかりだったから、皆姉達に耐えられず離れていった。
今回、ファンデちゃんと俺は恋人ですらない。諦めるべきだろうか。俺が諦めさえすれば、彼女が傷つくことはない。
「クレストさん!」
「え?」
いつものように明るく俺に手を振るファンデちゃん。いつの間にか訓練所まで来ていたらしい。
「あのな、あのな!クレストさんのお姉様達に、クレストさんの恋人として認めてもらうため、修行することになった!」
「………うん?」
何故そうなる??あ、ファンデちゃんの背後でマカラちゃんが口パクしてる。ええと?
『ファンデは全く負けなかった』……かな?
何に?うちの姉達に??
あの最終兵器彼女達に?
「クレストさんのお姉様達はすごいな!私に何が足りないか的確に指摘してくれたぞ!」
まさか、あの姉達の嫌みをそうとったか。流石だぜ、ファンデちゃん。確かに負けてない。嫌みに超天然で対抗したわけだ。
「………ファンデちゃん、俺と結婚しようか」
「結婚?わかった。するぞ!」
「一生かけて幸せにするから!だから俺と結婚しよう!!」
正直、あの姉共を嫌がらない女の子が今後現れるとは限らない!いいじゃないか、彼女の気持ちがラブじゃなくたって!ライクから始まるラブも多分ある!!
「ああ。いつにする?」
「俺、ファンデちゃんに振り向いてもらえるように頑張るから!!」
「うん??結婚とふりむくってなんか関係あるのか??」
あれ?
「ファンデ、あんたの返事がクレストさんに届いてない。クレストさんに届くまで『クレストさんと結婚する』って言いなさい」
「わかった!私はクレストさんと結婚するぞ!」
「いや、マカラちゃん…本人結婚の意味が解ってないでしょ……」
自分から結婚してくれと言っといてなんだが、彼女は結婚をよく理解してないに違いない。
「私だって結婚ぐらいわかるぞ!一生一緒に暮らす契約だ!子作りをする相手になるって意味だろ?」
「…………子作りって、どうするか知ってる?」
「ああ!」
予想外に、超・詳しかった。
マカラちゃんがいつの間にか逃亡したが、彼女は正しい。俺も走り去りたい。
ファンデちゃんは生々しい閨話までよーく、よぉぉくご存じだった。マニアックなものもあった。女の子が知っていたらマズイレベルだった。
「…俺にそれを全部されていいわけ?結婚ってそういうことだよ?」
「ああ、今からか?」
さらっと服を脱ごうとしたので止めた。いいんかい!俺の方が心の準備ができとらんわ!!
「いいい今からはしない!とりあえず…今から家に挨拶に来て。姉達も居るし、今日は全員揃うはずだから」
「わかった!えへへ」
ナニかが一瞬唇に触れた。
「なあ、私とクレストさんは今恋人なんだよな?だから口にちゅうしていいんだよな?」
口にちゅう?
「恋人なら、いい…のかな?」
とりあえず頷いた。さっきのはなんだ?一瞬ファンデちゃんのアップが……
あれ?俺、もしかしてファンデちゃんにキスされた?
自覚した途端、どうしようもない衝動が沸き上がってきた。愛しさ、羞恥心、嬉しさ、驚愕………
「だ、ダメだったか?」
ファンデちゃんが泣きそうだ!混乱してる場合じゃねーわ!!
「いや、嬉しかったけどビックリした。好きだよ、ファンデ」
「!??」
そっとキスしたら、真っ赤になって固まるファンデちゃん。さっき脱ごうとした子とは別人です。なんでこう、ファンデちゃんは色々とアンバランスなんだろうか。
いや、そこも魅力なんだけどね?
「よかったな、ファンデ!」
「おめでとう!!」
え?
そういや、ここ……よく考えたら城の訓練所じゃねえか!!ファンデちゃんと仲がいい騎士達が勢揃いしてやがる!!
ゴルァ!ファンデちゃんにいかがわしい玩具を渡すんじゃない!未使用とかそういう問題じゃ…
おいぃ!彼女が着てくれなかったコスプレセクシー下着やらえっろい夜着を渡すなアアアア!!ファンデちゃんもありがとうって受けとるんじゃありません!!
からかいまくる騎士達を全員拳骨で黙らせ、ファンデちゃんを担いで全力逃亡する俺であった。
どうでもいい補足
・クレストが売れ残ってた理由は大半が姉。他にも理由が少しあり。
・ファンデに子作り知識を仕込んだのは騎士や冒険者達。主に荒くれ者の猥談を聞いていたから。
もっとエグくて生々しい話をしこたま聞かされており『寝る』なんて可愛い表現はなかったので知らなかったらしい。
・脱ぐことに羞恥がないのは戦場や野外で普通に全裸で泳いだりしてたから。




