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最終話

「…すまなかった。私はもう人間を滅ぼさない」


 お義兄様の説得ですっかりおとなしくなったノアールさんに、私は容赦なく告げました。


「では、損害賠償請求をしなくてはなりませんね」


『…………………………』


 皆様固まりました。あら?何か変なことを言いましたかしら?


「いくら神の裁定者だからって、これだけ派手にやらかして無罪放免はあり得ませんよね?」


「…………う」

「そうだな。何をすればいい?半分は俺の半分だからな。俺にも責任がある」


 バルちゃんはあっさりと受け入れてくれました。それなりに付き合いがありますから、無茶な要求はしないと解っているのでしょう。


「とりあえず、祖国とソルレイクに説明しなくてはなりませんね。それから、私個人のお願いを聞いていただきたいのです」


「な、何故私がお前の願いを聞いてやらねばならんのだ!?」


 バルちゃんがノアールさんに頭を下げました。


「ルージュには、俺が世話になった。お前の責を半分、俺が負う代わりに、あいつの頼みを聞いてやってくれないか」


「……いいだろう。半分、お前がそこまで言うのなら」








 それから、1ヶ月が経ちました。


「やってもやっても終わらなぁぁい!」


「イーリ、うるさい」


「そうよ、とりあえず減ってはいるわよ」


 叫ぶイーリに注意するピアス。冷静に指摘するアイラ嬢。


「ふふ、そろそろ来ると思うわよ」


「皆様、お疲れ様でーす。お茶をお持ちしました。休憩にしましょう」


 レッタがお茶とお菓子をもってきました。丁度イーリの集中力も切れていましたし、いいタイミングですわ。


「くわ」

「くわぁ」


 そして器用にレッタを手伝う白と黒のアヒルさん。


「あひ…じゃなかった。バル様、ノア様、お手伝いありがとうございます」


「「くわぁ」」


 頷くアヒルさん達。可愛らしいですわ!しかし、流石はレッタ。本人は気がついていませんが、バルちゃんとノアールさんにモテております。

 両手に(アヒル)…羨ましいですわ。


「ルージュたん、聞いていい?」


「はい、なんでしょうか」


「ルージュたんの一人勝ちじゃね?」


「うふふ」


 そう言えなくもありませんわね。あの後私はバルちゃんとノアール様、ジーク殿下に口裏を合わせていただきました。


『アイラ=レインは魔王に操られていたためにあのような凶行に至った』


 微妙に嘘ではありません。アイラ嬢は欲望を増幅されてああなったのですから。正気にかえったアイラ嬢は死罪でも仕方ないと言っていましたが…死んで何になりますの?見せしめですか?使える人材なんですから、死んで詫びる覚悟があるのなら、死ぬ気で働いていただきたいですわ。

 更に操られていたとはいえ、ピアス・イーリも無罪放免というわけにはいきません。


 そんなわけで、ピアス・イーリ・アイラ嬢は奉仕労働をしているのですが…流石は悪役令嬢とヒロイン。スペックが高いのでサクサク仕事をしてくれます。


 そのおかげでようやくソルレイク観光をする余裕ができましたの。そういう意味では私の一人勝ちですね。


「さて、今日は北の討伐任務だったか。たくさん倒したら、何をくれる?」


 美しい青年になったバルちゃんがレッタを口説いていますわ。


「やめんか、半分!レッタ、頑張ったら……ひ、ひざ枕をしてくれないか?」


 あら、ノアール様もレッタを口説いていますわ。


「半分!レッタは俺が先に求愛したのだぞ!」

「甘いな、半分!レッタはまだ返事をしていないのだから、私にもチャンスはある!」


「うああああああああん!」


「「レッタ!??」」


 レッタが逃げましたわ。慌てて二人がレッタを追いかけます。神の裁定者だったお二人は、お二人の意思でソルレイクの守護者となりました。


「しかし、宝石言葉通りだねぇ」


 イーリが苦笑しました。


「宝石言葉ですか?」


 生憎そちらには疎いので首をかしげました。


「ガーネットの宝石言葉は友愛、真実、勝利なんだよ」


「あら」


「まさに、今のルージュ様にぴったりだわ」


「そうね」


 アイラ嬢もピアスも穏やかに微笑みました。


 悪役令嬢とヒロインの穏やかなお茶会。時間はとてもゆったりと過ぎていきました。


「せっかくですからバングナルト様にも差し入れをしてまいりますわ」


 茶菓子を少しと渡さねばならない資料をまとめ、バングナルト様の執務室へと急ぎます。






「脇が甘い!次!!」


「ふふ、生き生きしてますわね」


 有能な人材達のおかげで書類仕事から解放されたファンデは、ソルレイク初の女性騎士として就職しました。出世して近衛騎士になって、正式に私たちの護衛になってくれるそうですわ。最近はクレスト様といい雰囲気なのです。うまくいくといいなって思ってますわ。






「あら、ルージュ」

「や、休憩かい?」


「マカラ、先生」


 廊下でマカラとチャラくなくなった保健医に会いました。二人はソルレイク名産の薬草に興味津々で様々な薬を開発しておりますわ。マカラはともかく、チャラさを放置した保健医はイーリと居たいだけでしょうけど。


「先生はいつイーリと結婚しますの?」


「えふ!?にゃにゃにゃにゃにを突然!??」


「いえ、先生もいい年ですし…イーリはモテますわよ?」


 チャラくない保健医は苦笑しました。どこか諦めた様子ですわ。


「いや、彼女は公爵令嬢だし…」


「かしこまりました。では、イーリにいい縁談をセッティング「待って、待って、待ってくださぁぁい!!仕事(諜報員)辞めたしこの研究で成果を出したらプロポーズしますから!」


「なら、待ってさしあげますわ」


「ふふ、そんなには待たせないと思うわよ」


「期待してますわ」


 マカラは有能な助手(げぼく)達をゲットして趣味の研究に没頭できるからご機嫌ですわ。新薬開発もしていて、こちらでも爵位をいただいてます。ソルレイク初の女男爵となりました。




 

 通いなれた扉の前に立ち、ノックをしました。


「入れ」


「失礼します」


「ルージュか」


「はい」


 机に向かうバングナルト様、素敵…どっかのお馬鹿な元王太子と違って彼がサボることはそうそうない。


「休憩にしましょうか。俺、茶を頼んできますからごゆっくり~」


「ファンデは裏庭で稽古をしてましたわ。クレスト様に声をかけてもらえると、すごく喜びますの。お願いしてもよろしくて?」


 すれ違い様にお願いしたら、照れ臭そうに頭をガシガシかくクレスト様。


「………あー、はい。バングナルト様、ちっと遅くなります」


「かまわん、行ってこい」


「ありがとうございます」


 ファンデ、脈ありですわよ!頑張ってね!!親友にエールを送り、扉がしまるのを見計らってバングナルト様に抱きつきました。


「バングナルト様!」


「どうした?今日は甘えたい気分か?」


「えへへ」


 ちゅ、ちゅ、とキスを落とされる。こんな時間をとれるようになって良かった。こっそりバングナルト様が疲れてないかチェックするけど、大丈夫そうですわ。


「ルージュ、そろそろいい時期だと思わないか?」


「はい?」


 バングナルト様のお膝でご機嫌だったので頭が働いておりませんでした。時期?なんの??

 首をかしげておりましたら、バングナルト様は私を膝からおろして私にひざまづきました。


「え!?バングナルト様!?」


「ルージュ=ガーネット嬢」


「は、はい!!」


 バングナルト様が王子様みたいに私の手を取りました。いやいや、バングナルト様は王子様でしたわ。


「生涯貴女だけを愛し続けると誓う。疑うならば貴女以外には不能になる呪いも受けよう。だから、どうか俺の妻になってくれないか」


「妻に?」


 つまり、これって…バングナルト様から指輪を渡されました。シンプルな対の指輪でした。私の指に小さな方をはめて、軽く口づけるなんてイケメン過ぎますわ!流石は乙女の夢の結晶たるメインヒーロー様!!


「気が早い、とは思うが結婚指輪だ。求婚を受けてくれるなら…俺にはめてくれ」


 震える手で大きい方の指輪をバングナルト様にはめました。


「…求婚をお受けします。心から愛していますわ。アヒルになってでも貴方の側にありたいと願うほどに!」


「ルージュ!くっっそ可愛い!!もう結婚するし邪魔も来ないからいいよな!??」


「えええええ!?いや、流石に婚前交渉はまず「お茶をお持ちしまし………」



「「「………………」」」


 がしゃん、ぱりーんと割れる何か。

 机に押し倒され、ドレスをずらされて片方乳がはみ出しかけている私は恐る恐る入り口を見ました。


「失礼しましたぁぁぁ!!私はナニも見てませんからぁぁ!!」

「レッタ!?鍵ぐらいかけろよ!」

「レッタ!?昼間から盛るな!」


 レッタと白黒のアヒルさんが猛ダッシュしておりました。


「……続きは…」


「しません!!」


「……次からは鍵をかけるか」


「次はないです!昼間にこういうことはしません!」


 素早く服を整えました。あ、危うく流されるところでしたわ!レッタが来なかったら今頃……うきゃあああああ!恥ずかしいですわ!!


「……夜ならいいのか?」


「そーゆーこと、聞かないでくださいます!?」


 私だってそりゃ、バングナルト様に求められて悪い気はしませんのよ!


「可愛いなぁ、ルージュは可愛い」


「そんな風にご機嫌をとっても今はダメですわ!」


 そんなおでこにちゅーで…あ!もう!懲りてませんのね!?えっちなんですから!

  きわどい部分を撫でられて睨んだのに、バングナルト様は上機嫌ですわ。


「わかってる。夜に…だろ?今日は俺の部屋に来るよな?ああ、俺が行くか?」


「い、いじわるぅぅぅ!!」


 負けずぎらいな私ですが、バングナルト様に勝てる気がしません。腹いせに今晩はバングナルト様のお尻を全力で堪能することにします!!


 それからバングナルト様は既に結婚式の手配までしていた事が発覚。二ヶ月後に挙式予定だそうです。




 


「これにて一件落着…ですわね?」


 深夜のバルコニー。バングナルト様はその…満足して寝ております。独り言のつもりでしたが、夜の闇に輝く白い羽のアヒルさんが足もとにおりました。


「くるっぽー、ふふふ。そうですね。お疲れ様でした、柘榴(ざくろ)(べに)様・ルージュ=ガーネット様。まさか記憶をほぼなくしても、使命をまっとうされるとは思いませんでした。私はいつでも勇者(あなた)を見守っております。ご用があれば呼んでくださいね」


 白いアヒルから鳩にかわり、ポッポちゃんは夜空を飛んでいきました。


 柘榴 紅。

 無くしたもう一人の『私』

 彼女に託された使命が何だったのかはもうわかりませんけど、これから私は私の人生を進んでいくのですわ。


 静かにバルコニーを後にしました。みみっちい仕返しから始まった私のお話は、これでおしまいですわ。

 ですが、私の人生はまだまだこれからなのです。

 これにて本編は解決になります。ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。


 ちなみにどうでもいい情報補足。

 ノアールがアヒルになったのは、ルージュが魔石に干渉するとアヒル化する術をかけていたから。


 義弟によるピアス攻略計画は書いてみて楽しかったので、それはとりあえず載せることにしました。あと少し、お付き合いください。

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