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魔王、変身

 黒い繭から現れたのは、黒い鳥でした。まるでバルちゃんと対になるかのような、漆黒の美しい………






「くわ?」





 その闇色の高貴な姿はまさしく………


「アヒル?」

「アヒルだな」

「アヒルですわね」

「黒いアヒル様ですね」

「アヒル…よね」

「なんでアヒル??」

「くっ…こんなに愛らしくては攻撃できませんわ…!」


「……ルージュにだけは有効だな」


 バングナルト様は何故呆れたご様子ですの?はっ!やきもち?やきもちですわね!?


「バングナルト様、アヒル姿のバングナルト様以上に美しく愛らしく、完璧なお尻のアヒルさんは居ませんわ。私は心からバングナルト様(のアヒル姿)を愛しております」


「ああ、うん」


 とても複雑そうな表情ですわ?何故かしら。


「……えっと、ルージュたんはアヒルのお尻フェチなの?」


「違いま「そうだ」


「ちが「間違いない」


「「……………」」


 私の事ですのに、さっきからやたらバングナルト様が遮ってきますわ。


「バングナルト様、私は確かにアヒルのお尻をこの上なく愛らしく素晴らしいと思っておりますが、この世で最も素晴らしいのはバングナルト様(のお尻)ですわ!」


 だからなんでバングナルトは複雑そうな表情なんですの?


「…尻フェチ了解!」


「なんでそうなりましたの!?」


「なんでって…」

「ねえ」


 やはりイーリとアイラは仲良しですのね。息がピッタリですわ。


「ルージュに自覚はないみたいだけど、あんたはやたらとアヒルの尻を目で追う癖があるわよ」


「ルージュ様はアヒル的な意味で危険なお方…ルージュ様とアヒル様は切っても切れない関係です」


「えええええ!?そうでしたの!??」


 完全に無自覚でしたわ。あら、バングナルト様も頷いてますわ!き、気をつけなきゃ!

 あと、レッタの発言はなんですの?アヒル的な意味で危険ってなんですの??それはそんなに真剣に話すべき内容ですの!?


「…ルージュってそんなにアヒルが好きだったか?」


 首をかしげるジーク殿下。幼少期はさほど好きではなかったと思いますわ。可愛いとは思ってましたけど。


「アヒル好きになったきっかけはバングナルト様ですから、好きになったのはわりと最近ですわねぇ」


「ぐっ!?そ、そうか……」


 なんでジーク殿下も複雑そうな表情なんですの?なにか変なことを言いましたかしら…あら?バングナルト様がなんと申しますか…どや顔!どや顔してますわ!そしてジーク殿下が悔しそう。なんなんですの??



「私を無視するなあああああ!!」


「きゃあ!?」


「「くわああああああ!!」」


 黒いアヒルさんに襲われそうになった私を、バルちゃんとバングナルト様(アヒル姿)が私を庇ってくださいましたわ。素敵なアヒルさん達に庇っていただけるなんて…乙女の夢ですわね!いやあああん!ときめいてしまいますわ!!

 ああ、やはりバングナルト様…バングルのあのプリプリとしたお尻…あれは神が創りたもうた最高の造形美なのですわ…!


「くわあ!」


「くわ!くわわ!!」

「くわああああ!!」


 黒いアヒルさんをつつきまくる白いアヒルさん達……何故かしら。中身は神の使者達と王子様の世界の命運を賭けた戦いのはずなのですが……………


「なんか、和むな」

「アヒル…可愛いかも」

「確かに」

「和むわ…」

「アヒル様、かわいい…」


 な、和みますわ。


「ええい、何をちんたらと!くるっぽおおおお!!」




 ポッポちゃんによる雷…天罰的な意味ですの?により、黒いアヒルも白いアヒルも黒焦げに………


「バングナルト様!?バルちゃああああああん!?」

「あ、アヒル様あああああ!??」


 幸いバングナルト様は異常な魔力耐性のおかげでほぼ無傷。バルちゃんも咄嗟に結界で防御したようです。つまり、黒いアヒルの半分さんがこんがり焼けました。


「半分んんん!??」


 慌てて駆け寄るバルちゃん。黒いアヒルさんはぐったりして、また人型に戻りました。


「ぐっ…何故、何故こんな脆弱な身体になってしまったのだ……」







 確かに。







 明らかに、黒いアヒルさんは戦闘向きではありません。魔王なのに弱すぎませんか?


「そりゃ、やがて復活するとわかってる魔王に何の対策もしないほど人間が馬鹿じゃないからですよ。神の裁定者殿」


「兄上!?」


「可愛い姿だねぇ、バングナルト。はじめましてぇ。私はこの国の次の王になる予定の者です。貴方の力の源は、数百年かけて綺麗サッパリ浄化しちゃいましたよぉ。この地にあった力は、貴方を穢すもの…人間の負の力でしたから、貴方にとって善いものではありませんでしたしね」


「なっ!?」


 穏やかに微笑むお義兄様はゆったりこちらに歩いてきました。


「国を継ぐものだけに伝えられる口伝があるのです。聞いていただけますかぁ?」


「は?」


 リストバルト殿下ことお義兄様はいつも通りのマイペースです。あら?茨がお義兄様を避けているような??うん、やはり茨はお義兄様を通すために道を開けています。


「私達の先祖は貴方達が愛した人間達の子孫なんですよ。悲しみで狂ってしまった貴方を封印することしかできなくて申し訳ありませんでした」


「………は?」


 頭を下げたお義兄様と、キョトンとする半分さん


「おや、おかしいと思いませんでしたか?人間ふぜいが神の裁定者に敵うはずがない。神に加護を与えられし勇者ならば可能やもしれませんが、当時神による救済はありませんでした。不要だったからでしょうね。貴方を封印できたのも、貴方達の加護があってこそ」


「嘘だ!」


 睨みつける半分さんに対して、お義兄様は柔らかく微笑みます。


「いいえ。この身に刻まれた加護こそが、その証となりましょう。貴方は我らを傷つけられないのです。我が弟にもありますよ。だからこそ、我らは今日まで生き延びることができたのです。貴方達に心からの感謝を。そして…お救いできずに申し訳ありませんでした…………ノアール様」


 確かに、半分さんが放つ魔法はお義兄様を傷つけない。いや、傷つけられないようですわ。しかし、半分さんはその事実より別の事に驚いているようです。


「…その、名は…」


「ずっと伝えられておりましたよ。加護より証になりましょう?貴方の名前を知るものは、もうこの世にはおりません。しかし、いつか貴方に知らせたくて遺した…いいえ、未来に託したのです。いつか貴方に…感謝と…もう嘆かないでくださいとお伝えするために。もう、よいのです。そして、我らは今度こそ貴方達の力となりましょう」


 リストバルト殿下…お義兄様が微笑み、項垂れる半分さんの手を取った。


「生きて…いてくれたのだな……」


 半分さんことノアールさんは、はらはらと涙をこぼしながらお義兄様の手を握り返すのでした。


「すまなかった……すまなかった…」


 すすり泣く半分さん…ノアールさんをお義兄様は優しく慰めるのでした。

・ノアールの怒りがとけた!

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