黒幕は…
私は姿勢を意識しながらゆっくりと歩き、アイラ=レイン嬢の前に…つまり壇上に立ちました。
「私は罪を犯してなどおりませんわ。王太子殿下に洗脳を施していたのは、貴女でしょう?」
「…何のことかしら?」
一瞬だけ顔がひきつりましたわね。
「ルージュ=ガーネット!貴女はピアス=ビネーとその妹であるイーリ=ビネーを使い、彼女達を悪役に仕立てあげてこの国を乗っ取ろうとしたのよ!」
「何故?」
「は?」
「だから、何故ですの?国を支配するなんて面倒ですわ。私、もう王太子妃なんてこりごりですわ」
「…口だけならなんとでも言えるわ!こちらには証拠があるのよ!貴女はピアス=ビネーと手を組みバングナルト殿下の信頼を得た。更に…来なさい、イーリ嬢」
どこか虚ろな瞳のイーリ嬢はフラフラしながらもやってきました。イーリ嬢はアイラ嬢に求められるまま、首をさらします。そこには首輪があった。見た目はアクセサリーですが、我が国では忌むべき魔具ですわ。それは『隷属の首輪』と呼ばれ、相手を意のままに操り…抗えば苦痛を伴うのです。
「彼女にこれをつけ、操ったのよ。あたかも彼女が悪女であるかのようにふるまわせ、自分が正しい人間だとアピールするためだけにね!貴女がこの首輪の主人でなければ、この首輪は外れないわ」
「いえ、例外があります」
後でイーリ嬢にはお礼を言わなくては。最後通牒を突きつけに行ったあの時、彼女は私に隷属の首輪を見せてくれました。あれが無くては真の黒幕に気がつけず、彼女の罠に嵌まり外れるはずないと首輪を外してしまったでしょう。
「私が作った魔石を使えば、マスターが私でなくとも解除が可能ですわ」
そう、学園時代に魔力を結晶化する授業があった。私の魔力で作られた魔石は、イーリ嬢の首輪にはまった魔石と同じ翡翠色でしたわ。自然の魔石ではあり得ない、私だけの色だが…小さいのでよく見なければ見落とす恐れは充分にあった。
「!??」
「つまり、私が犯人とは限らないのです。それに、不自然だとは思いませんこと?イーリ嬢は、まるでアイラ嬢に操られてるみたいに壇上に来ましたわよね?仮に私がマスターでしたら、そんな失敗はいたしませんわ。この壇上に彼女が来て、首輪を晒すなどあり得ない!…貴女、犯人じゃないならこの首輪を外してくださいな。犯人じゃないなら、外れないはずですわよね?犯人じゃないなら、ね?」
強調して、にんまりと意地悪に笑ってみせました。出来ませんよねぇ?貴女が犯人だもん。
「!??なっ…は、外れるわけないじゃない!なんで私がそんなことをする必要があるの!?」
「貴女が黒幕だからですわ。無実でしたら外せないと証明なさい」
「あんただって外せるでしょ!?証拠は!?証拠を見せなさいよ!」
私が指をパチンと鳴らすと、セバスチャンが背後に現れました。うん、やったのは私ですが、超ビックリしましたわ。
「証拠でございますな?お嬢様がそちらのイーリ嬢と面識があるという証拠はありませんでしたが、アイラ嬢がイーリ嬢のいた孤児院によく行ってらしたという証言がございます」
さらに、チャラい保健医も壇上に上がった。
「…そして僕と手紙でかなり頻繁に連絡を取っていたのに、急にプッツリ連絡が途絶えた。イーリが君と仲良くしていたのは手紙で知っていたよ。彼女からの連絡が途絶えたのは、君の家に遊びに行く前日だ。君は、イーリに何をした!?」
チャラい保健医は、実は孤児院出身の苦労人。イーリ嬢と同じ孤児院で育ち、親しかったらしい。彼女の身辺を探る…スパイをする対価に、彼女の減刑を願い出るぐらい…彼女を心配して遠いソルレイクまで来てしまうほどに、仲が良かったらしいのです。彼女が彼を兄と呼ぶほどに。
「おにい、ちゃん…」
はらはらとイーリ嬢から涙が溢れました。
「あいたかっ…た」
どうやらイーリ嬢はチャラい保健医に会ったのをきっかけに、隷属魔法に抗っているようですわ。彼女も潜在魔力が高いのでしょう。私が解除してもよいのですが…
「イーリ嬢、隷属を自力で破りなさい。方向は示してさしあげますわ」
彼女に触れ、促してあげることにしました。
「や、やめなさい!」
私は『解除』ではなく『破れ』と示しました。つまり…
「きゃああああああ!?」
隷属の呪詛が正規の手段で『解除』されず部分的に『破壊』されて術者に返ったのですわ。顔中に広がる呪詛。やはり、犯人はアイラ嬢でしたのね
「ふあぁ!スッッキリしたぁぁ!!お兄ちゃぁぁん!会いたかったよぉぉ!!」
「イーリ!!ああ、よかった!!心配したんだよ!」
抱き合うチャラさをどこかに置いてきた保健医とイーリ嬢。
「特に異常はなさそうですわね?」
念のため彼女の魔力に不具合がないか調べました。うん、問題ないみたいですわ。
「ないない。ありがとー。いやぁ、あの一瞬のチラ見せで気づくかは賭けだったけどぉ…私の見こみ以上だったわ、ルージュたん!マジでさんきゅーでらまっちょ!!」
かっっる!!この人、本性こんなだったんですのねぇ…でらまっちょはベリーマッチと言いたかったのかしら?正直、素の彼女は嫌いじゃありませんわ。ルージュたん…可愛らしい呼び名ですわね。
「無理矢理『破壊』させてすいません。解除もできたのですが…」
「いやいや~、私も奴に一矢報いたかったからね!因果応報!隷属逆転よ!先ずは…三回まわって、ワンと言え!」
くるくるくる…とアイラ嬢はその場で三回まわりました。
「わん!…ぐうぅ…私に何をさせるのよ!」
「あっはっは!マジでやったし!だっせぇぇぇ!どエスざまぁぁぁ!!えー?どうしてやろっかなぁ?今まで散々私に好き勝手…下僕扱いしてくれたしぃ?」
「…くっ」
これではどっちが悪者だかわかりませんわね。苦笑しつつやり取りを見守りましたが、そろそろ決着をつけないとマカラによって騎士が全員被虐の悦びに目覚めてしまうかもしれません。
「イーリ嬢、助けた対価にお願いをひとつ聞いてくださいませ」
私はイーリ嬢にお願いをすることにしました。彼女はその願いに頷いてくれましたわ。
「おけおけオッケー!面白そうじゃ~ん!確かにルージュたんが助けてくんなきゃ私は悪くて拷問のうえに処刑だったしぃ、そのお願い、喜んで叶えちゃいましょ~!」
その笑顔は、今まで何度も見た彼女の作り笑いとは桁違いに晴れやかな…
共犯者の笑みでした。
・イーリの隷属が解除された!
・アイラがイーリに隷属した!
・イーリが勝手に仲間になった!
・イーリのテンションが上がった!




