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悪役令嬢は動き出す

ピアス視点になります

 私は、ビネー家の一人娘だった。だった、というのは現在一人娘ではないから。ビネー家にはもう一人、娘がいる。腹違いの妹、イーリだ。


 天真爛漫で可愛らしく、だれからも愛される大嫌いな妹。さらには有能で数々の功績をあげ、我がビネー家を更に発展させた。

 対する私は高慢で意地悪で、権力で人を侍らせていた。それ以外の人付き合いなんて、誰も教えてくれなかった。


 私は彼女が嫌いだから彼女に意地悪をしていたけれど、それが露見して彼女を溺愛する父に叱られた。家は母の死後、後妻となった義母…イーリの母に支配され…気がつけば私は行き場をなくしていた。


 私は、私は努力していた。私なりに様々な教養を身につけて、第二王子の婚約者にまでのぼりつめた。

 だけど、だけど…どんなに頑張っても第二王子は私を愛してくれなかった。

 綺麗なドレスも、珍しい贈り物も、流行の話にも、彼は興味を示さない。

 でも、イーリにも興味を示さなかったのは救いだったわ。彼は彼女を選ばなかった。


 イーリは少しずつ、私のモノを奪っていく。取り巻き、友人、家族……私のモノは…もう私しかなくなってしまった。


 そして私は、何故か大嫌いな妹に唆されるがままにバングナルト様に呪いをかけた。


『可哀想なお姉さま』


『バングナルト様は冷たいわ』


『バングナルト様が悪いのよ』


『何故バングナルト様はお姉さまを助けてくださらないの?』


『助けてくれないバングナルト様なんて、いらないわよね』


 呪いのように染み渡る優しい声。言い訳をするならば…私はきっと弱っていたのだろう。あのとき、バングナルト様が憎かった。だから、彼を呪った。


 今にして思えば、バングナルト様が私を選ばなかったのは当然だ。私はバングナルト様を『第二王子』としてしか見なかった。ルージュ=ガーネットに笑いかける彼は、一人の人間だった。彼は見る目があったのだろう。だから私を選ばなかった。


 全てを奪われ『私』さえもバングナルト様を呪った罪で失いそうな中、私はルージュ=ガーネットに出会った。


 最初は嫌いだった。憎んでいた。だから色々しかけたけど、彼女の瞳には、私への悪意がなかった。


 ルージュの境遇…過去の婚約破棄と仕返しを聞いて、ようやく私は『自分が間違っていた』と気がついた。


 自分がしでかした事で、責が家に及ぶ。それは貴族として最もしてはならないこと。そして、貴族だからこそ、見本にならねばならないのに私はその禁忌すら犯してしまった。

 たまたまバングナルト様は助かったが、あのまま死んでいた可能性もある。


 ルージュは微笑む。私たちは『悪役令嬢』なのだと言う。


 悪役令嬢とは、主人公(ヒロイン)であるイーリのために、物語を更に華やかに彩る悪の華。強く、賢く、美しく、高貴で…醜くて意地悪な存在。


 かつて悪役令嬢であったというルージュは、私にこう囁いた。


「私と違って、貴女の『ゲーム』はまだ終わっていませんわ」


 悪役令嬢…今の私にぴったりね。ヒロインに負けて惨めな姿をさらすのだわ。ルージュはさらに話したわ。

 

「でも、素直に悪役になんかなってあげませんわ。基本スペックが高い悪役令嬢達が手を組んだらどうなるのか…今後がとても楽しみだと思いませんこと?」


 私の胸は高鳴った。私達はこの瞬間、共犯者になったのだ。




 ピアス=ビネーは、悪役令嬢になってなんかあげないのだ。私はヒロインに抗い続けよう。私はまだ、負けていない。


「…お話がありますの」


 そのためなら、私のプライドなど安いものだわ。豚にでも食わせてやればいい。



 さあ、イーリ。

『ゲーム』を始めましょう。私と貴女…この『ゲーム』の本当のヒロインは…誰?


 私達の…私の『ゲーム』は、ここから始まる。

・ピアスのやる気が上がった!

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