とある侍女の災難
侍女・レッタ視点になります。時間も少し戻ります。
私はレッタ=ビリジアン。しがない男爵令嬢ですが、魔力があったので運よくお城で侍女として働いています。上司が意地悪なババアでしたが、適当にやり過ごす毎日でした。
ある日のこと、意地悪なババアがとあるご令嬢に嫌がらせをしていたので、騎士団長様にチクりに行きました。下っ端の話を聞いてくれて、かつビネー公爵の後ろ楯がある意地悪なババアに対抗できる人は少ないのです。
騎士団長様はまだ急ぎのお仕事があるそうなので、正確に報告するために一足先に嫌がらせ現場に戻って衝撃を受けました。
ご令嬢、微塵も負けてない。
外見は穏やかな美人だけど、あの意地悪ババアを言い負かしている!むしろ訴えて勝つぞ的な感じです!すげえ!!
侍女長とセットだと更に厄介な意地悪ババアを言い負かすなんて、そのレシーブ力…見習いたい!
「お嬢様、申し訳ございません!うわあああああん!!お許しくださいぃぃ!!お許しをぉぉ!!」
「??」
形成不利を悟った意地悪なババアは、ご令嬢に罪を擦り付けることにしたようです。相変わらず演技力あるなぁ…。
他の人も集まってきた。またか…あのご令嬢が可哀想だと皆同情している。
「…どうした?」
ついに騎士団長様が来てくれました!待ってました!
「こ、こちらのお嬢様が間違った部屋にご案内したらとてもお怒りになられて…わ、私、謝罪したのですが…うう…クビにするって……」
「わたくしも誠心誠意謝罪いたしましたが、お嬢様はこの娘を蹴ろうとまでなさいました」
うっわ、嘘つき。私は見てましたよ。ご令嬢はそんなことしてません。騎士団長様に口パクで伝えました。無事伝わったようです。
「あらあら、まぁ」
ご令嬢は全く動じず首をかしげてました。度胸もあるんですね。羨ましい。小心者の男爵令嬢は見てるだけでドッキドキですよ。
「…本当ですか?」
嘘だと知りつつちゃんと確認してくれる騎士団長様。いつもありがとうございます。
「いいえ、彼女達が嘘をついてますわ」
「「「………………」」」
ご令嬢、アイアンハートの持ち主か!?すげーな!完全に空気読んでないよ!微塵も動揺してないよ!そんな不思議そうな顔しないで!可愛いな!!
「えっと……」
天然なご令嬢にめっちゃ動じてる騎士団長様。頑張って!
「騎士団長!どちらを信じるんですか!?」
「騎士団長様!私達を信じてくださいますよね!?」
騎士団長様、ババア達に詰め寄られて困ってる。私、発言すべき??巻き込んだのは私だし…マゴマゴしていたら、ご令嬢が発言した。
「あの、では侍女長様?私が彼女を蹴ろうとしますので、止めてくださいませ。先程貴女は私を止めたのでしょう?再現しましょう」
ご令嬢はとんでもない提案をかまして、異常な速さで意地悪ババアに蹴る動きを(多分)した。リアルに目にも止まらぬ速さだよ!?
「いきなりですから無理でした?もう一度いたしますわね。止めてくださいませ」
いや、人類にそれは不可能だよ。無茶ブリだよ。侍女長は一度もご令嬢を止められなかった。侍女長は人類だから、無理だった。
「………ご令嬢には武道の心得がおありのようですね」
「お恥ずかしいですが、少々嗜んでおりますの。私が本気で蹴ったら…」
ご令嬢は埃まみれのいわくつきな幽霊部屋のドアを蹴破った。轟音、立ちこめる埃。ドアは木端微塵。
「…彼女を殺してしまいかねませんから、いたしませんわ。そもそも女性を痛めつける趣味はありませんの」
ご令嬢はにっこりと微笑んだ。
怖い!
のほほんとしてるご令嬢が超絶怖い!!
確かにこの威力でしたら即死ですね!凄まじすぎる説得力!!
「ですから、別の罰を与えますわ。私を嵌めようとなさったのですもの」
ご令嬢は、意地悪ババアと侍女長をアヒルにしてしまった。
「うーん、醜いですわ」
自分でやっといて、酷くないですか!?でもまぁ確かに…毛並みも悪いし不細工………だね。
「ぐわぁぁ!?」
「くわあああ!?」
しかも鏡で本人達に姿を認識させるとか地味に酷い。
悪気が無いっぽいのが怖い。侍女長達、これは確実にケンカを売ってはいけないタイプの人に手を出しちゃいましたね。
「貴女達のご主人様が解いてくださるといいですわね。私はアヒル魔法のスペシャリストですから、ものすごーく難しいでしょうけど、頑張ってくださいましね」
ご令嬢はにっこりと微笑んだ。アヒル魔法って何!?アヒルに変える魔法にスペシャリストって存在するの!?
というか、ご令嬢は来たばかりなのにビネー公爵家を知ってるの?
「………」
騎士団長様は呆然としてます。私も色々予想外すぎて似たような感じです。
「この部屋、呪いと…いわくの気配がしますね」
いつの間にか部屋を調べていた美女が顔をしかめて出てきました。この部屋、いじめに耐えかねた何代か前のお妃様が自殺してから声が聞こえるとか、色々あって封鎖してたんですよね。
そして、美女は思いついたというリアクションをしました。
「ルージュ様、扉を直してください」
「??はい」
ご令嬢は魔法でドアをあっさり修復しました。すると美女は妖精みたいな美少女とアイコンタクトをして……流れるような素晴らしい連携で美少女はアヒル二匹を部屋に投げ込み、美女が閉めました。
「あら」
「彼女達にとって、この部屋は『国賓を泊められるぐらい清潔な部屋』なんですから、一晩泊まらせましょう」
鬼だ。
悲痛なアヒルの鳴き声がめっちゃ聞こえる。美女、すげぇうっとりしたイイ笑顔してる!あれはきっとサディストに違いない!関わりたくない!!
しかも、美少女が床に落ちてた服を豪快にぶん投げた。鬼畜だ!!ひでえ!酷すぎる!!
「…ファンデ?」
ご令嬢が、床に落ちてた服がないのに気がついた。
「投げました!」
美少女はめっちゃいい笑顔でした。美女と違って毒がなくて爽やかで…ご令嬢が諦めた様子になりました。
「ねぇ、そこの貴女」
え?ご令嬢が私を見てる!?
「ひゃい!?」
舌噛んだ!痛い!
「バングナルト様の所へ案内してくださらない?」
「きゃしこまりました!!」
超ビビりながらもバングナルト様の執務室に到着しました。私はやりきったよ!!
「こちらの部屋になりましゅう!」
仕事終わった!撤収!!と逃げようとしたら、ご令嬢に呼び止められました。
「お待ちなさい。貴女、お名前は?」
「へ?名前??レッタです」
つい反射的に返事をしてしまいました。
「そう、覚えておくわ」
「…………………………はっ!?ひょわあああ!?いやいや、こんな小娘忘れてくださってけっこうでしゅよ!?し、失礼しまぁぁあす!!」
ご令嬢の麗しい笑顔に意識が飛んでいましたが、ご令嬢の発言を理解すると同時に否定して逃亡しました。
慌てすぎて、コケました。
しかし、この日から私の平穏平凡侍女ライフは強制終了となりました。
長くなったので切りますが、レッタの災難はまだまだ続きます。




