呪いと友人達
幸い、私が指名した通りすがりの不運な侍女さんはちゃんと私をバングナルト様の部屋まで案内してくれました。
「こちらの部屋になりましゅう!」
すっかり怯えてやたら噛んでいますけど、素直そうですわね。そそくさと逃げようとする不運な侍女さんを呼び止めました。
「お待ちなさい。貴女、お名前は?」
「へ?名前??レッタです」
「そう、覚えておくわ」
「…………………………はっ!?ひょわあああ!?いやいや、こんな小娘忘れてくださってけっこうでしゅよ!?し、失礼しまぁぁあす!!」
しばらく呆けていましたけど、すごい勢いで逃亡しましたわ。あ、コケましたね。面白い子ですわ。
「ふふっ」
「あの子、ルージュに見とれていたな。なかなか見る目があるじゃないか」
「ですね」
え?それはないと思いますわよ?首をかしげつつ、バングナルト様の部屋をノックしましたわ。
「入れ……ルージュ?」
私はバングナルト様に分かれてからの経緯をお話ししました。バングナルト様は頭を抱えていますわ。
「やりますね、ルージュ様!」
クレスト様は手を叩いて大喜びです。え?何か恨みでもありましたの?
「いやもう、あの侍女長ひでーんすよ!お茶から異臭がするわ、俺がバングナルト様の身代わりしてた時なんか、会議の場所を間違えて伝えやがって…!ざまぁみろってんだ!」
まぁ…恨みがありましたのね。出るわ出るわ…恨みエピソードの数々…他にも色々色々ありましたが、割愛します。
「もう少し懲らしめておくべきでしたかしら…まぁ、しばらくは夜間アヒルの呪いもあるから大人しくしてくださいますわ、きっと」
「ああ、そうだといいが…それにしても早すぎるな」
頭が痛いと言わんばかりのバングナルト様。
「心当たりは?」
「十中八九、元婚約者だろうな」
「あらあら」
なかなか楽しいことになりそうですわね。あの侍女長はビネー公爵家の遠縁で、特にクレスト様はバングナルト様のふりをしている間に嫌がらせをされまくっていたようですわ。身代わりをやめさせようとしたのだろう、とのことでした。やはり、もう少しいじめてもよかったかもしれませんわね。
「…ルージュ」
「はい」
そんなことを考えていたら、バングナルト様から声をかけられました。
「…帰りたいか?」
「はい?」
「いや、帰るべきだ。待っていてくれ。ビネー公爵をどうにかしたら迎えに…」
バングナルト様の唇に人差し指で蓋をしました。
「嫌ですわ。私は充分待ちましたもの。この程度、問題ありませんわ。私が貴方を助けてさしあげますわ。だからもう、置いていかないで…」
「ルージュ…」
「バングナルト様が…バングルがいない世界は…もうごめんですのよ」
だから、彼といるために戦うと決めたのですわ。バングナルト様と居られるなら、なんだって耐えてみせますわ!お尻だって我慢でき…………ますわ!
「ルージュが危険にさらされる心配はない。そのために私たちはいる」
「私たちは、ルージュの剣にして盾です」
ファンデとマカラが言葉を重ねた。
「本来、私たちは王妃を護る影になるはずだった」
「けれど、私たちはルージュの友人となり、彼女を主と決めました」
「「全ては、我らが主のために。ルージュとルージュの大切なものは、私たちが必ず護ります」」
迷いなく語る二人の瞳は真っ直ぐでした。
「それに、私たちはバングナルト様のために来たのです。ルージュに頼まれて、ね」
「ああ。私は呪いを受け付けない体質なんだ。護衛に最適だろう」
「私は毒と呪いのスペシャリストです。必ずやお力になりましょう。とりあえず、怪しい呪具がないか家捜ししてよろしいですか?」
「あ、ああ…さっきからなんだかゴソゴソしてると思ったら、家捜ししてたのか。…好きにしてくれ」
そして、頼もしい呪いのスペシャリスト様は発掘いたしました。
「……わら人形?」
「アヒルの呪いといい、クラシカルな呪いですねぇ」
「え!?バングナルト様呪われてたの!?大丈夫なのか!?」
慌てるクレスト様。マカラの感じからして、大丈夫なんでしょうねぇ。
「まだ呪われてませんから、大丈夫です。ただ、何も知らずにベッドで寝ていたら、謎の腹痛に苦しんで最終的にそそ「恐ろしいな!?」
クレスト様が最後まで言わせませんでしたが、意味は伝わりました。バングナルト様が真っ青ですわ。
「そうですね、屈辱です。なかなかのチョイスですよ。とりあえず呪詛返ししときます」
マカラは荷物から術具を取り出して呪詛返しをしました。相変わらず見事な手腕ですわ。
「うーん、私が身代わりになっとくか?」
「そうですねぇ…ルージュには護符にしておきますか。ルージュ、感知系の使い魔もいましたよね?」
「ええ!ハルルちゃんですわ!」
手のひらサイズのぷりちーな桃色アヒルさんが現れました。
「くわぁ」
「ああ、なんと愛らしいのかしら…」
ハルルちゃんはお尻をフリフリしながらお部屋をチョコチョコ歩きます。
「「かわいい…」」
ファンデとマカラもうっとりしてますわ。
「…話がそれたが、身代わりとは何の事だ?」
バングナルト様が話を戻しました。
「私の一族は基本的に他者の魔法を受け付けない特異体質もちだから、要人の呪いを引き受けたりするんだ。正確には身代わりではなく『影贄』というんだかな」
「…駄目だ。君はルージュの友人だろう。そんな目にあわせるわけには…」
「バングナルト様、これは保険だ。私も呪われるつもりはない。貴方とルージュが害されては困るんだ」
「…粗相してもいいなら止めませんけど」
『………………………』
マカラ以外の全員が停止しました。
「バングナルト様、意地はるな。この年で漏らすのは………」
「………………よろしく頼む」
バングナルト様が折れましたわ。なんか色々折れた気がしますわ。
「くわ!くわくわぁぁ!!」
「あら?ハルルちゃん、なにかしら?」
「これは…ハルルちゃんは素晴らしい使い魔なんですね!」
ハルルちゃんは沢山の呪具を引っぱり出してきました。マカラも感知できないような期限切れの呪具まで出したようです。私も視てみました。
「…術者は同一人物ですわね。バングナルト様は魔力が高いですし、抵抗力があるのやもしれませんわね」
「というか、なんで今まで気がつかなかったんです?」
ソルレイクでは魔法=防寒対策なのだそうです。魔力は防寒に使うので、呪いについてはビネー家ぐらいしか専門家が居ないのだそうです。ちなみに夏は魔石に魔力を貯めて冬に使います。
とりあえず、バングナルト様本人と部屋に呪い対策を施し、バングナルト様が信頼できる侍女さんに部屋を用意していただいて一日目は終了しました。
・バングナルトが色々折れた!
・バングナルトの部屋の呪いが解除された!
・呪詛返しの結果、術者がトイレと一晩お友だちになった!
ルージュはよーく考えた末にファンデとマカラを巻き込みました。バングナルトの事情を話したのは、呪い対策のためです。ルージュも多少はわかりますが、彼女はあくまでアヒル魔法のスペシャリストだから呪いの知識ではマカラには敵いません。




