到着しました、ソルレイク。やらかしました、最初から。
やってきました、ソルレイク!北方の国ですから、まだ冬の気配が残っています。そして、皆様何やら驚いていらっしゃいますわ。
あら、攻撃しようとする兵士さんも居ますわね。
「兵士達よ、私はバングナルト=ソルレイク!武器を納めよ!!戦闘を禁ずる!!」
バングナルト様…これは拡声魔法ですわね。騎士さんも兵士さんも、警戒しているものの迎撃態勢を解除いたしましたわ。
バングナルト様のおかげで、無事に私たちは着陸いたしました。
「お帰りなさいませ、バングナルト殿下。なかなか個性的なお帰りでしたな」
苦笑しつつご挨拶をする初老の男性。騎士さん達はようやく警戒をやめたようですわ。
「皆様、長旅お疲れ様でございます。部屋を用意してございますので、どうぞお休みください」
「そうするか。ルージュ、こいつは俺の侍従でアンクだ」
「はじめまして、アンク様。ルージュですわ」
「おお、これはまた月の女神かと思いましたぞ!なんともお美しい…」
「まぁ…」
アンク様はお世辞がお上手ですのね。くすりと笑ってバングナルト様にエスコートされました。
荷物を下ろしたら、バルちゃんが客車を飲み込んで収納してくれましたわ。騎士さん達、ビクッとしてましたわね。
そしてとりあえず荷物を置くことになり、侍女に通された部屋は………埃まみれでしたわ。何年ほど使ってなかった部屋なのかしら?あらあら、侍女さんたらニヤニヤしてますわ。ファンデに殴られかねないからおやめになったほうがいいですわよ?
「この部屋、きちんと掃除をしましたの?」
一応間違いではないかを確認しました。
「はい、いたしました」
しれっと返答する侍女さん。
「わかりました。責任者を呼んでくださいませ」
面倒そうなおば様が来ましたわ。侍女長さんだそうです。
「この国では、この状態で掃除をしたと申しますの?」
「ええ、問題ございません」
「そう、残念だわ。では、私は貴女方をクビにするよう働きかけなくてはいけませんわね。ああ、転職したかったんですの?」
「「は?」」
「だって、私は現在『国賓』ですのよ?他国の公爵令嬢にこのような仕打ちをする無能な召し使いは、当然解雇すべきですわ。貴女達のせいで国際問題に発展して、戦争になったらどうしますの?バングナルト様の未来の伴侶として、全力で抗議させていただきますわ!」
彼女達は蒼白になった。
「も、申し訳ございません!」
「残念でしたわね、私は嫌がらせされたぐらいで泣いて耐えるようなやわなご令嬢ではありませんのよ」
私はニヤリと…悪役令嬢らしく笑ってみせた。
「ルージュ様、かっこいい」
「ルージュ様、素敵……」
ファンデ、マカラ…ルージュ様って…演技ですわよね?侍女のふりですよね??意識がファンデとマカラにそれていたので、いきなり侍女さんにしがみつかれてびっくりしましたわ。
「お嬢様、申し訳ございません!うわあああああん!!お許しくださいぃぃ!!お許しをぉぉ!!」
「??」
侍女さんは私の足にすがりついて派手に泣き出しましたわ。ああ、そういう趣向でしたのね?女優さんですわねぇ。嘘泣きが上手ですわ。
侍女さんが大騒ぎするから、人が集まってまいりました。
「…どうした?」
えらい人っぽい騎士さんが、たずねました。
「こ、こちらのお嬢様が間違った部屋にご案内したらとてもお怒りになられて…わ、私、謝罪したのですが…うう…クビにするって……」
「わたくしも誠心誠意謝罪いたしましたが、お嬢様はこの娘を蹴ろうとまでなさいました」
「あらあら、まぁ」
私は首をかしげました。別に怒ってませんわよ?困ってはいましたけど。
「…本当ですか?」
「いいえ、彼女達が嘘をついてますわ」
「「「………………」」」
皆さん、固まってしまいました。あら?私はおかしなことを言いました?本当のことを言っただけですよ?
「えっと……」
「騎士団長!どちらを信じるんですか!?」
「騎士団長様!私達を信じてくださいますよね!?」
騎士団長様、女性達に詰め寄られて困ってらっしゃいますわ。お気の毒に…通りすがりでいい迷惑ですわよね。
「あの、では侍女長様?私が彼女を蹴ろうとしますので、止めてくださいませ。先程貴女は私を止めたのでしょう?再現しましょう」
私は踏みこみ、彼女の顔に足を当てた。風圧で、彼女の髪がふわりと舞った。
「「「…………………」」」
あら?皆さんまた固まってますわ。
「いきなりですから無理でした?もう一度いたしますわね。止めてくださいませ」
まぁ、普通の身体能力しかない貴女に、魔力強化した私が止められるはずは微塵もありませんけれど。魔力強化なしでも絶対無理ですが、完璧に不可能だと示すために私は全力で蹴るふりを繰り返しました。
結果、侍女長さんは一度も私を止められませんでしたわ。
「………ご令嬢には武道の心得がおありのようですね」
「お恥ずかしいですが、少々嗜んでおりますの。私が本気で蹴ったら…」
身体強化状態で埃まみれ部屋のドアを蹴破りました。轟音、立ちこめる埃。ドアは木端微塵ですわ。
「彼女を殺してしまいかねませんから、いたしませんわ。そもそも女性を痛めつける趣味はありませんの」
私はにっこりと微笑んだ。あら?皆様顔色が悪いですわ。
「ですから、別の罰を与えますわ。私を嵌めようとなさったのですもの」
彼女達に素敵な呪いをかけてあげたのですが………
「うーん、醜いですわ」
やはり、性根が汚いと美しくなれないのでしょうか?醜いアヒルさんですわ。毛並みも悪いし、可愛くありませんわ。
「ぐわぁぁ!?」
「くわあああ!?」
鏡で姿を見せてあげたら、パニックを起こして泣きじゃくる彼女達。
「貴女達のご主人様が解いてくださるといいですわね。私はアヒル魔法のスペシャリストですから、ものすごーく難しいでしょうけど、頑張ってくださいましね」
私はにっこりと微笑んだ。うん、怪我もしないし、我ながらよい罰を思いつきましたわ!
「………」
騎士団長様は呆然としてますわね。
「この部屋、呪いと…いわくの気配がしますね」
いつの間にか部屋を調べていたマカラが顔をしかめて出てきました。確かに、居そうですわね。たちの悪いモノの気配がしますわ。だから空き部屋で埃まみれなのでしょうねぇ。
そして、マカラは思いついたというリアクションをしましたわ。
「ルージュ様、扉を直してください」
「??はい」
私は魔法でドアを修復しました。するとマカラはファンデとアイコンタクトをしましたわ。
そして、流れるような素晴らしい連携でファンデはアヒルさん二匹を部屋に投げ込み、マカラが閉めました。
「あら」
「彼女達にとって、この部屋は『国賓を泊められるぐらい清潔な部屋』なんですから、一晩泊まらせましょう」
まぁ、マカラの笑顔が輝いているわ。マカラの機嫌を損ねるわけにはいきませんし、一晩ぐらいなら大丈夫でしょう。呪いは日中解けますから、鍵をかけなければ部屋から出られますし服もそこに落ちて………ませんわ。
「…ファンデ?」
「投げました!」
爽やかな笑顔で、簡潔明瞭な答えをいただきましたわ…まぁ、これだけ野次馬が居ますから、誰か服を差し入れてあげますわよね…きっと。
「ねぇ、そこの貴女」
野次馬をしていた侍女さんに声をかけました。
「ひゃい!?」
「バングナルト様の所へ案内してくださらない?」
「きゃしこまりました!!」
ふふふ、なかなか刺激的な毎日が送れそうですわ。私はわくわくしながら侍女さんについていくのでした。
・侍女と侍女長が夜間アヒル化の呪いにかかった!
ちなみに、この呪いはバングナルトにかけられた呪いとはまったくの別物です。ルージュから黒幕への宣戦布告でもあり、周囲への牽制でもあります。
、とりあえず、バングナルトが頭を抱えるのは間違いないですね。




