旅立ちの日
さて、ついに出立の日が来ました。見送りには我が家の使用人とリップル、ヴェース様と……
「ああ、間に合ったようだね」
何故かチャラい保健医が来ました。何しに来たんですの??
「はい、餞別」
チャラい保健医は私に綺麗な小瓶を渡しましたわ。中には青い液体が入っています。マカラが注意深く小瓶を手に取り匂いを確認しました。
「毒じゃないよ。これは『真実の結晶』さ」
チャラい保健医がウインクをいたしました。
「そのようですね。ありがたくいただきましょう。ルージュ、これは私が預かっていいですか?」
「え?ええ…」
マカラが受け取ったということは、特殊な薬なのでしょう。保健医の実家はマカラと同じく医師の家系。マカラでも作れない薬なのでしょうか。
「姉様…」
リップルは泣いていましたわ。
「リップル…」
説得したのですが、ついにリップルとの和解はできませんでした。それが残念ですわ。
「僕…姉様の幸せを祈ってる。いつでも帰ってきていいからね、姉様。…婚約、おめでとう。行ってらっしゃい」
リップルは泣き笑いの表情で、私に手を振ってくれました。
「ありがとう、リップル!行ってきますわ」
私も笑顔でリップルと別れを告げました。さよならではなく、行ってきますと素直に言えましたわ。
「ルージュ、僕はまだ諦めてないから。もっといい男になって、君に求婚するからね!返事はいらない、またね!!」
「ええ、また」
ヴェース様とも別れを告げ、私達は馬車の前に集まった。
「…馬がいないが?」
「うふふ、これは馬車ではないのですわ」
これは私の発明した特殊な乗り物なのです。私は魔力を使いました。私の魔力に応えて呼び出されたのは……アヒルのバルちゃんですわ。
「ルージュ、これは?」
「私の使い魔のバルちゃんですわ。この子にこの客車を運んでもらいますのよ」
「は?」
クレスト様が首をかしげました。
「バルちゃん!」
「くわああああああ!!」
私の魔力に呼応して、バルちゃんがドラゴンサイズになりました。ドラゴンといっても色々ですが……かなり大型のドラゴン…いわゆるボスサイズですわ。
『………………………』
あら?皆さん口を開けて固まってますわ。きっとバルちゃんの可愛さに見惚れていますのね。私の最高傑作ですもの。
バングルに次ぐ魅惑のお尻をしたバルちゃんですから、見惚れるのも無理はないですわ。ああ、お尻の感触を楽しめないのが残念ですわ。
「さあ、皆様乗ってくださいまし。大体半日で到着しましてよ」
そう言いながら私はバルちゃんに固定具を装着していきます。バルちゃんは大人しく固定具を装着され、たまに装着を手伝ってくれます。なんていい子なのでしょうか。外れたら一大事だから、きちんと確認しつつ作業をいたしました。
「「半日で!?」」
驚愕するバングナルト様とクレスト様。確かに正規ルートだと、ソルレイクまでは数か月かかりますものねぇ。海越え山越えですもの。直線距離だと案外近いのですけど。
「はい。バルちゃんと私だけなら、数時間あれば着きますわ」
「えええええ…ルージュちゃんすげぇ…」
「すごいのはバルちゃんですわ」
「くわぁ」
バルちゃんは誇らしげに鳴きました。可愛いですわ。
「でかいな…」
「これは立派なアヒル様でございますねぇ…」
父とセバスチャンも驚いていますわ。大きいだけでなく、賢くて可愛いのですわ。
「こないだのアヒル、か?」
「まあ…」
ファンデとマカラも驚いたようですわ。うふふ、自慢の使い魔ですのよ。
「いいえ、バンちゃんは伝書専用アヒルですわ。バルちゃんは移動と戦闘もこなしましてよ」
「………戦闘用アヒルって何だ…」
クレスト様がひきつっていますわ。バルちゃんはとっても強い子なのですわ。
「バルちゃんのことですわ。さ、皆様準備ができましたから、お乗りになってくださいませ」
私はさっさと中に入りました。中はフカフカですし、軍用の大型馬車を流用したので荷物をすべて積んでもまだ余裕がありますわ。皆様が恐る恐る乗り込んだ所で、私は扉にロックをかけてバルちゃんに言いました。
「離陸!」
羽ばたくバルちゃん。馬車は持ち上がります。風魔法で揺れもなく、快適ですわ。ああ、バルちゃんの立派なお尻をモフれないのだけが残念ですわ。
「…マジで飛んでる…」
「高いな」
「おお、街があんなに小さく見えますな!」
「いい眺めだねぇ」
男性陣は寛いでいるご様子ですわね。
「……た、高い…」
「まあ、すごいですね」
マカラは平気みたいだけど、ファンデは高いところが怖いのでしょうか。私とマカラにひっついています。可愛いですわ。
こうして、私達は空路でソルレイクへ行くのでした。
とりあえず、巨大なアヒルは素敵な生き物だと思います。
次辺りで久々に私のちゃめっ気爆弾が……な気がします。




