大惨事の予感です。
マカラちゃんのお母さん…お義母さんは自殺したのではなく、仮死状態になる魔法薬を使い男の目の前であおり、愛する人…つまりお義父さんのキスでしか目覚めない状態だったのだそうです。しかし、あの男は自分がお義母さんに愛されていないことを認められず…かといってお義母さんを諦めることもできずに硝子の棺に入れてお義父さんのキス以外で目覚めさせようとしたっぽいとのこと。何故わかるかというと、いくら強力な魔法でも長く時間が経てば綻びが出てくる。お義母さんは時折声が聞こえていたそうです。だからあの男も点滴をしたりして体をもたせていたとのこと。
それにしても、マカラちゃんの発想力はすごい。お義母さんの魔法毒を全異常無効の指輪で無効化しちゃえとか、普通思いつかない。僕は少なくともそんな使い方を想定していなかったよ。せいぜい食べ物に混入された毒とか、魅了魔法なんかを装備者が無効化するぐらしいか考えてなかった。むしろ、異常状態の人に装備させたら無効化できたのにも驚きだ。これ、すごい魔具なのではないだろうか。まあ、作るのがハイパーめんどくさいから絶対もう作んないけどね。そもそも素材が稀少なものが多かったし、素材は使いきったから作れない。
これにて一件落着。マカラちゃんとのめくるめくラブラブイチャイチャな毎日……と思ったんだけど、実際はなかなか忙しい毎日です。マカラちゃんは通常業務に加えてご両親のリハビリやお義父さんの仕事のサポート。僕は僕で転移陣の簡素化にもっといいやり方を思いついちゃって忙しく働いている。
だから、マカラちゃんの動きに気がつけなかった。
「リヒャルト、今日はあの男の裁判なの。証人として出てくれないかしら?」
「僕はかまわないけど…」
裁判に出るなんて初めてだなぁ。証人としてって、あの男にされたことを話せばいいんだよね?指定された日に休みを取って裁判所へ行くことになった。
この国の裁判は弁護士なんて存在しない。だから、自分を弁護するのは自分になる。そして、検事の代わりに騎士。判断するのは司法官長か幹部クラスの司法官になる。司法官は裁判のために資料を作成する部署。騎士はその辺りいい加減だし、騎士だけでやっちゃうと冤罪が出るかもしれないからなんだって。容疑者が口下手だったりする場合が不利だけど、制度としては悪くないかも。
だいぶやつれて痩せ細った男だったが、マカラちゃんとお義母さんを見て喜び、僕とお義父さんに憎しみのこもったまなざしを…ぬああ!?背中にぷよんぷよんが…いや、耳フーは勘弁してえええ!!
「リヒャルト、よそ見してはダメよ。私を可愛がるのがリヒャルトの仕事なんだから」
「あ、あばばばばば!ちょ!ぐうぅ…」
不意打ちに弱いから、やめてほしい。男を見ていたら、マカラちゃんにイタズラされてしまった。ただでさえマカラちゃんは可愛いのに、甘えてくるとさらに可愛いんだから。お義母さんもお義父さんとラブラブだ。向こうは照れがない。二人の世界を作ってしまっている。
「んもう、リヒャルトったら可愛いんだから」
逆じゃないかな?僕が可愛がられてるの??あ、あの男がすごい顔して叱られてる。気のせいかなぁ…騎士サイドに僕のお師匠様であるクレスト様がいるような………?あ、ウインクされた。クレスト様あああああ!??
僕が混乱しているうちに、裁判は開始された。僕らは証人だけれども、証言していないときは傍聴席に居ていいと言われた。冒頭陳述を読み上げる騎士。最後に、と付け足した。
「今回、ソルレイクでも被告は事件を起こしております。そのため、特別にソルレイクからも代表としてクレスト殿にお越しいただきました。このお方は「いや、いいから。俺の事はいいからな?」
「後ほど、是非稽古を「わかった、わかった。やるから。稽古ぐらいやるから、な?仕事してくれ、仕事」
なんか、騎士さんの瞳がキラキラしている。クレストさんを尊敬しているようだ。クレストさんは性格も優しく穏やかだし、ソルレイクの騎士さん達にも慕われていたものなぁ。
「かしこまりました。さっさと有罪にいたしましょう」
「真面目にやろうな!??」
この騎士さん、大丈夫じゃない気がする。いや、あいつが有罪なのは間違いないけど、これはちょっと酷すぎやしないかな!?
「…さて、被告の罪は大きく分けて五つ。兄への暗殺未遂、兄の想い人への長年にわたるつきまといと脅迫、娘の友人や貧困な民への非合法な実験、つい先日のソルレイクでの傷害未遂と兄と使用人への殺害未遂ですな」
書類に目を通した司法官長が、手に持った木槌を振り下ろした。
「じゃ、有罪ってことで」
「おいおいおい!??いや、こっちとしちゃ話が早くていいっつーか、俺何しに来たんです!?」
クレストさん、頑張ってください。僕も何をしに来たのかわかんない感じになってますよ。クレストさんが頼りです。
「……私は、そんなことをしていない」
「ふむ、ならば弁護をしていただきましょうか」
「先ず、兄の暗殺など企てていない。血を分けた兄を殺す必要などないだろう。それから、確かにマスラは兄の恋人だったが、心がわりなどままあることだ。妻と私は愛し合っている。実験については、きちんと当人達が了承してのことだ。違法性はない。ソルレイクの件と殺人未遂については、操られていたんだと思います。私が投獄された際に、催眠系が使用されていたとの報告を受けております」
理路整然と話す男。一見筋は通っている。頭は悪くないんだよなぁ。さて、どこから崩すべきかなと思案していると、クレスト様が挙手した。
「ふぅむ、一見筋は通っておりますなぁ。クレスト殿、何か意見がおありかな?」
「今回の件につきまして、足の不自由な証人もおりましたので映像にいたしました。見ていただきたく思います」
「ふむ、よいでしょう。騎士側の映像確認を認めます」
あれ、ルージュ様に頼まれて貸した映写機とスクリーン……それ以外にも撮影と編集ができる機材を貸したのを思い出した。なんだか嫌な予感がする。マカラちゃんがめっちゃニヤニヤしてるのも気になる。
スクリーンには、ある男の残念な生涯というタイトルがデカデカと映し出された。
どうしよう。嫌な予感しかしない。隣のお嫁さんが『やっぱあれだけじゃ物足りなかったのよね』って言ってました。さては忙しかったのはそのせいもあったんだね!?何が起きるのか、不安しかありません。一体どうなっちゃうの!?




