復讐劇の舞台裏
引き続きリヒャルト=コンラッド視点になります。
それから、僕はとてつもなく忙しくなった。彼女と結婚する準備を一手に引き受けたからだ。マカラちゃんにはマシューさんの治療に専念してほしかったし…ようやく本当のお父さんと過ごせるのだから、マシューさんと過ごしてほしかった。二人が穏やかに談笑しながら散歩している姿を見ると、良かったなぁと思う。
「あ、リヒャルト君」
「え!?どこ!??あ、リヒャルト!こっちよ!」
「………………」
いや、うん。折角の親子水入らずなんだからさぁ……。心を鬼にして去ろうとしたが、叫ばれた。
「リヒャルト君!!!」
「リーヒャールートォォ!!!」
拡声魔法まで使って呼ばないでよ!ここまでの大音量で気がつかなかったと言うわけにはいかない。仕方なく二人の側に行く。
「見てくれ!まだふらつくが、歩けるようになってきたよ!!」
「良かったですねぇ」
フラフラしてはいるが、確かにマシューさんは立ち上がっていた。これから筋力をつけるためにトレーニングするらしい。本当によかった。あの時…無一文で放り出されて路頭に迷っていた時の恩返し、多少はできたかな?マシューさんはとても幸せそうだ。
「まったく!毒と薬への耐性が強い我が一族だからこそ耐えましたけど、普通は死んでますからね!??」
「は、はい……ごめんなさい」
二人は大分親子らしくなった。マカラちゃんも叱りつつ楽しそうだ。
「そういえば、結婚の準備はどうかな?」
「会場は城を借りることができました。ドレスは既製品をカスタマイズしてもらうことにしました。あと数日で仕上がるでしょう」
やることは山ほどある。招待客の選定に、招待状。当日の食事、タイムスケジュール。幸いにもルージュ様達が手伝ってくれたから、なんとかこなすことができた。
それから、ちゃんと渡したいものも結婚式前に間に合いそうだ。
「リヒャルト君。この車椅子、本当にスゴいよね。見て見て!」
「車椅子で高速スピンしないでくださいよ!はぁ…マシューさんのにはシートベルトをつけないとかなぁ…」
大人しそうな見た目だが、マシューさんはかなりのヤンチャだ。この間なんか、馬と競争して勝っていた。危ないから!車椅子で馬と並走とか、想定してないから!!しかもぶっちぎりで勝ってしまい、同僚達が大喜びしていた。そこ、喜ぶとこじゃないから。気持ちはわからなくもないけど。
そもそもマシューさんは魔力が高くてコントロールが上手いために、予想以上に車椅子を乗りこなし過ぎているのだ。危なっかしいから、やっぱりシートベルトつけよう。そうしよう。あとジャイロを応用した姿勢制御機能と、エアバッグ…すぐ使える結界陣も組んでおこう。何があってもどうにかなるようにしなきゃ。車椅子のせいで大ケガなんて、目も当てられないよ。
「しいとべると?」
首をかしげるマシューさん。シートベルトについて説明すると、嬉しそうに笑った。
「よかった!たまに車椅子から落ちそうになってドキッとするんだよね」
「そもそも落ちるような使い方を想定してませんからね!?」
これはあくまでも車椅子なんだから、激しく走らせるのがおかしいんだよ!
「そうなの?こんなに速く走るのに、もったいないなぁ。車椅子レースとか、しないの?」
「…やるなら車椅子じゃなくてこう…車かバイクにします」
一瞬いいなと思ったのは内緒にしておく。
「クルマ?ばいく??」
「試作ができたらのせてあげますから、足を鍛えて使えるようにしといてください。どっちも操縦に足が必須です」
「うん!絶対だよ!マカラ、お父さんは頑張るからね!!」
「ええ。リハビリをすればちゃんと動きます。楽しみにしていますからね」
マカラちゃんも穏やかに答える。その笑顔は、とても素敵だった。
「じゃあ、こっちは整備しますからスペアに乗りかえてください」
それから、車椅子を改造した。シートベルトをつけ、物理と魔法攻撃無効化と…武器もつけるか。こないだいい素材が………。
調子にのって魔改造した車椅子。能力リストをたまたま目にしたルージュ様からひとこと。
「これ、車椅子なんですの?」
うちの車椅子は車椅子かも怪しくなったと知った瞬間でした。やり過ぎた。
車椅子が魔改造し過ぎで存在意義が怪しくなってから一週間。マカラちゃんに渡すものが完成した。しかし、どうやって渡そうか。研究室で考えるが、まったくいい案がない。
「リヒャルト」
「うみゃあああああああ!?」
背中に、背中にボリューミーなぷよぷよが!あばばばば!いい匂いがあああ!スリスリしないで、クンクン匂い嗅がないでええええ!さりげなく胸をもまな………服に手をつっこまないでええええ!!
「大袈裟ね」
マカラちゃんが可愛い。最近僕にじゃれついてきて凄まじく可愛い。萌え過ぎて禿げ死ぬかもしれない。そろそろ自分でも何を言ってるかわからなくなってきた。
「はあ……幸せ」
顔が見たい。きっとふにゃって笑ってる。誰より可愛い顔をしてる。
「あの、胸が気になるしマカラちゃんの顔が見たいなぁ」
「胸はあててるのよ」
わ ざ と で し た か !!
「……もう」
「えへ」
甘えてくるマカラちゃんが可愛くて可愛くて可愛い。手をトントンしたら、意図を察したのか手がはなれていく。体を反転させマカラちゃんを抱きしめた。左手の薬指には、ずっとあのおもちゃの指輪がある。あの時の僕の精一杯の気持ちだ。今でも大切にしてくれる彼女が好き。
「え!?リヒャルト!??」
おもちゃの指輪を外して、新しいものをはめた。宝石に蔦が絡まった綺麗な指輪。石は赤ではなく、僕の瞳に似た色だ。僕の指輪はマカラちゃんのと似た意匠だけど、もっと簡素で太いし、マカラちゃんの瞳と同じ色をしている。もちろん、ただの指輪じゃない。
僕は抱きしめていたマカラちゃんからはなれ、ひざまづいてピアスの入った箱を開け、差し出した。
「改めて、言うよ。君を全力で大事にするって誓う。だからマカラちゃん、僕と結婚してください」
あれ?へ、返事がない。慌てて彼女を見たら、俯いて震えていた。
「ううううう…ふうっ……ぐうっ………」
ボロボロと泣きじゃくるマカラちゃん。涙で化粧は溶け、真っ赤になってぐしゃぐしゃな顔。その顔が、世界一可愛いと思う。
「君を泣かせることができて嬉しい。僕のお嫁さんになってくれるよね?」
ソルレイクでは婚約または結婚している男女は必ずピアスをしている。それも婚約者または伴侶の瞳をした石がついたものをするそうだ。だから、指輪もピアスも作った。
「ああ、よく似合うね。宝飾は専門外だから難しかったけど、頑張ったかいがあったなぁ」
指輪もピアスも、頑張ったかいがあった。マカラちゃんによく似合っている。
「うれしいの………しあわせ、だから、リヒャルト…りひとの、およめさんになるうぅ!!」
大好きな彼女を抱きしめて、幸せな夜を過ごしました。さて、決着まであと少し。




