仮面の青年
走ってたどり着いた空き部屋に逃げ込むと、先客がいらっしゃいました。
「何者だ!?おや、貴女は…?」
「…バングルのご主人様?」
部屋のなかには去年バングルを連れていったバングルのご主人様が居ました。ということは、バングルも居るんですの!?しかし、室内に可愛いアヒルは居ませんでした。
「…何事だ」
部屋の奥から仮面をつけた青年がゆっくりと歩いてきます。
「………ルージュ?」
「え?あのぽっちゃり少女ですか!?」
まあ、大分痩せましたから解らないのも無理はないですわ。バングルのご主人様には一度会ったきりでしたもの。それより……
「何故、私の名前を?」
そう仮面の青年に尋ねたら、聞きたくない声が聞こえてきました。
「ルージュさまぁぁぁぁ!!」
「ひいっ!?かかかかか匿ってくださいまし!追われていますの!!」
仮面の青年はこくりと頷くと私をテーブル下に押し込み、テーブルクロスで隠してくださいました。
間一髪でしたわ!隠れてすぐに王太子殿下が部屋に入って来ましたの!
「すいません、こちらに絶世の美少女が来ませんでしたか!?」
そんなもん来てませんわよ。頭が腐ってるんじゃありませんこと?
「さあ?特に見ていないが?なぁ、クレスト」
「そうですね、バングナルト殿下」
バングルのご主人様はクレスト様とおっしゃるのね。仮面の青年はバングナルト殿下。殿下ってことは王族!?ヤバいですわ!不敬罪じゃないですか!王太子殿下は相手が先にセクハラを働いているから不問になるでしょうけど、バングナルト殿下については完全に私に非がありますわ!
私、ソルレイクに移住したときのためにソルレイクの貴族や王族を調べましたから、知っているはずですわ…。思い出さなくては…バングナルト…バングナルト…バングナルト=ソルレイク…思い出しました!確かソルレイクの病弱な第二王子ですわ!氷の王子と呼ばれ、冷酷非道で笑ったことなどないと噂の鬼畜王子様じゃありませんの!?
「そうですか。急いでいるので失礼します!」
王太子殿下が走り去り、部屋が静かになりました。もはや死刑宣告をされた死刑囚の気持ちですわ…なんでまた、鬼畜王子の所に飛び込んでしまったのかしら…
「…?大丈夫か?顔色が悪いが」
優しく私をテーブルから連れ出すバングナルト殿下に、私は泣きそうになるのでした。
どうしましょう。
私はそのままバングナルト殿下の膝でお茶とお菓子をいただいています。いやこれ、おかしいですわよね??
「バングナルト殿下…」
「ん?」
バングナルト殿下は(多分)上機嫌だ。せっせと私に餌付け?をしている。しかも私が好きなお菓子を的確にチョイスし、私好みのお茶を出してくれました。
「ところで、何故追われていたんだ?」
「…正直、よくわかりませんわ」
強いて言えば、追われたから逃げたんですわ。私は逃げるはめになった顛末を話しました。
「………………ぷひゅっ…」
クレスト様がマナーモードですわ。小刻みに震えてらっしゃるわ。
「……それはまた災難だったな」
「そうですの!私、とても気持ち悪くて怖かったんですわ!」
バングナルト殿下、優しいですわ!噂ってあてになりませんのね。
「とりあえず、しばらくここに居るといい。流石にば…王太子殿下も卒業パーティが始まれば、会場に行かねばなるまい」
「ありがとうございます!」
バングナルト殿下は(多分)優しく微笑んだ…と思う。仮面で目は見えないが口もとは見えているので、笑っている…はず。
「うっわ、バングナルト様きもーい」
「死ぬか?クレスト」
「ぎゃっ!?ナイフとフォークは食事に使うものですよ!投げないでくださいよ!」
「まあ…」
素晴らしいコントロールだわ。ギリギリクレスト様に当たらない位置に、一瞬で3本も飛ばすなんて。
いやいや、そこはどうでもいいいですわ!バングルの事を聞かなくては!いいえ、きっと千載一遇のチャンスですわ!お願いしなくては!!
「あの、クレスト様!」
「はい」
「バングル、バングルを私にください!私のお婿さんにください!!絶対幸せにいたします!!」
「………………………はい?」
「ぶふっ!?」
何故かバングナルト様が紅茶を噴出しましたわ。クレスト様は首をかしげ、口元を隠しながらもおっしゃいました。
「…………ええと、あのアヒルはバングナルト殿下のモノですから、殿下にお願いしてください」
「おい!?」
「大体合ってるでしょ。間違ってはいないでしょ」
私はバングナルト殿下の膝に乗ったまま懇願いたしました。
「バングナルト殿下、お願いいたします。バングルを私のお婿さんにください!それがダメでしたら、私をバングルのつがいとして飼ってください!!」
「「なんでそうなった!?」」
「だって、バングルはアヒルですから…人間よりアヒルが好きなはずですわ!私は誰より美しいアヒルになってみせますわ!!だからバングルと結婚させてください!」
「ぐふっ…やっべ…殿下、俺応援しますよ。この子すげーおもしれぇわ」
「…………ルージュ」
「はい」
「そんなにバングルが好きか」
「はい」
「とりあえず…バングルはアヒルではない」
「はい?」
「バングルはアヒルにしては能力が高すぎただろう。アヒルよりは呪いか魔法で人間がアヒルになっている…という方がしっくりこないか?」
「確かに」
言われてみれば、確かにそうですわ。使い魔が政治・経済に精通しているはずありませんわ。
「お前は、バングルがもうアヒルになれないと知っても…バングルを選ぶのか?」
私にたずねたバングナルト殿下の瞳は揺れていた。仮面ごしでもわかった。
「はい。バングルなら人間でもアヒルでも、なんでもいいですわ。だから、結婚してくださいまし。私は万難を排する覚悟でおりますわ。種族の壁という最難関が無くなった今、私に怖いものはありませんわ!」
そして、私はバングナルト殿下の仮面に触れ……
尻を揉んだ。
「ぎゃああああああ!?お前、そこは仮面を外すとこだろ!?」
「ぎゃははははははは!!」
「この素晴らしい張り、揉み心地…やはりバングルですわね!」
「お前はどこで俺を認識してんだよ!尻しかないのかよ!」
「だってお尻が1番確実なんですもの!顔なんて幻影でいくらでも偽れますけど、流石にお尻の触感を再現できる魔法使いは居ませんわ!」
「ぎゃははははははは!!ぐふっあはっあはははははは!!いや、殿下が太ってたら触感変わるんじゃないですか?」
「骨格までは変わりませんし、匂いや触ったときの反応もありますから大丈夫ですわ!」
「ぎゃはははははははあははははははふひっふひっ……ぐふっ」
クレスト様、大丈夫かしら?ああ、それよりちゃんと聞かなくてはなりませんわ。
「バングル…いえ、バングナルト様。心よりお慕いしておりますわ。私と結婚してください」
「…あーもう、なんで先に…ああ、いいか。ルージュ=ガーネット嬢」
「はい」
バングル…バングナルト様は私を膝からおろすとひざまづいた。
「…愛している。私の伴侶になってくれ」
バングナルト様が私に手を伸ばしました。私は迷わず抱きつきましたわ!
「喜んで!!」
私はようやくバングル…バングナルト様を捕まえたのですわ!
・バングルがバングナルトになった!
・バングナルトが再び仲間になった!
・クレストが仲間になった!
う~ん…バングルの敵とか背景まで書くと、後さらに数話書かなきゃいけないですねぇ。
読みたい!という人がいれば書くかもです。
とりあえず王太子編はもう少しで終わります。




